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パーティーの再会 5

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「いやいや、なかなか面白かったね」


 サロンに到着すると、すでに室内には王妃レシティアの姿があった。

 クツクツと笑っているフリードリヒに不思議な顔を向けて、レシティアが、何があったのかと訊ねて来る。

 フリードリヒは簡単に廊下での出来事を伝えると、レシティアは「あら、まあ」と目を丸くした。


「エイジェリンのことはわたくしも知っていますわ。領地経営に奔走しているうちにお父様が亡くなって、そののちに持病が悪化して起き上がることもできなくなったのでしょう? 社交界では有名な話よ」


 エイジェリンは思わずウィリアムの顔を見たが、社交界に滅多に顔を出さないし、出しても人と話をしないウィリアムが知っているはずもない。

 恐れ多いなと恐縮しながら、エイジェリンはおずおずとレシティアに訊ねた。


「その……わたしの噂と言うのは、婚約者に伯爵家を奪われた無様な伯爵令嬢、というものではないのでしょうか?」


 てっきりそんな嗤い話が広まっていると思っていた。

 レシティアはきょとんと小首をかしげる。


「いいえ? 持病が悪化して伯爵夫人としての役割をこなせそうにないからと、婚約者との婚約を解消してお姉様にその立場を譲ったのでしょう? 本来、爵位の継承は血縁が重要視されるものだけれど、あなたの従兄ではなく血のつながりのないグレイスに継承権が移されたのは、あなたがそれを強く望んだからと聞いたけれど、違うのかしら?」

「ち、違います!」


 そんな話聞いたことがない。

 エイジェリンが愕然としていると、優雅にティーカップを傾けながら、ウィリアムが目を細める。ちょっぴり悪い顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。


「さっきも思ったが、ロバート・ハーパー夫妻の話と実際の話に、随分な齟齬があるようですね」

「そうだな」


 ウィリアムに続き、フリードリヒも悪い顔をして頷いた。

 レティシアはおっとりと頬に手を添える。


「まあ、何か悪だくみ?」

「悪だくみ⁉」

「あら、そんなに驚かなくてもいいのよ。この人があくどいことを考えるのは、いつものことなの」


 うふふ、とレシティアは笑うけれど、笑って話せる要素がどこにあるのだろうか。


「ウィリアムに、指輪の進捗を訊いて笑おうと思っていたんだが、もっと面白そうなことを見つけたからね。どうやって追い詰める? 私は一度『無礼者! 余に歯向かうつもりか!』っていうセリフを言ってみたいね。最近流行っているオペラ『オリバー三世』のセリフなんだ」

「本気ですか? その展開に持って行くには、少々骨が折れそうなんですが」

「…………」


 エイジェリンは訳がわからなくて、おろおろするしかできなかった。

 よくわからないが、レシティアの言う通り、本当に悪だくみをしているように見える。何を考えているのかはわからないが、エイジェリンが絡んでいることだけは、なんとなく雰囲気でわかる。


「うふふ、男の人たちは勝手に盛り上がりはじめちゃったから、わたくしたちはお菓子を食べてゆっくりしましょう? チョコレートはお好きかしら?」


 レシティアが、テーブルの上に並べられているお菓子を指さしながら、自分のおすすめを教えてくれる。隣で悪だくみをしている夫のことは完全に無視だ。エイジェリンは気になって仕方がないのに、知らん顔ができるレシティアの度量にびっくりである。


「あの、いいんでしょうか?」

「いいのよ。あの二人に任せておけば、そのうちあなたの手元に伯爵家と相続権が戻ってくるはずよ」

「え⁉」

「何を驚いているの? あの二人はそういう悪だくみをしているの。陛下は小さいころに勇者物語を読んでから、正義の味方になることに夢中だから、こういうことが楽しくって仕方がないのよ」

「は、はあ……」


 国王が正義の味方になりたいということも驚きだが、何より、伯爵家を追い出されたたった一人の女のために、国王陛下自ら動こうとしているのが信じられない。


(すごく恐れ多いけど……本当に、いいのかしら?)


 エイジェリンが不安そうにしているからだろうか、エイジェリンがチョコレートを口に入れつつ言った。


「爵位の任命権はすべて陛下がお持ちなのは知っているでしょう? ロバート・ハーパー夫妻は、陛下を騙して爵位を手に入れたようなものなの。このまま見て見ぬふりをしていたら、陛下の沽券にもかかわるのよ。だから、あなたが気にする必要はどこにもないの。あるべき形に戻すだけよ。そのついでに、自分が楽しめる展開に仕向けるみたいだから、あなたはむしろ、陛下に面白い遊びを提供したくらいに構えていたらいいのよ」

「そ、そうなんですか……?」


 だめだ。ちっともついていけない。

 エイジェリンがレシティアに勧められたチョコレートを口に入れて、緊張と混乱で味がしないと嘆いていると、話し込んでいたウィリアムとフリードリヒが揃って顔をあげた。


「よし、それでいこう。その前に詳しい話が知りたい」

「エイミー、君が伯爵家を奪われた時のことを、俺たちに話してくれないだろうか?」


 ウィリアムはエイジェリンがはめているブレスレットの石に宿っているという母の霊から、エイジェリンが家を奪われたことを知っているが、もっと詳細なことが知りたいらしい。

 正直思い出したくもない過去だが、ウィリアムとフリードリヒがハーパー伯爵家を取り返してくれるらしいので、ここでエイジェリンが躊躇うのはおかしな話だ。


(急な展開で頭がついていかないけど、これはすごく恵まれた展開よね……?)


 二度と戻ってこないと思っていた家が、エイジェリンの手の中に戻ってくるかもしれないのだ。

 エイジェリンはこくりと唾を飲みこんで、話しはじめた。


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