パーティーの再会 4
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「こ、国王陛下! 本日はおめでとうございます」
ロバートが慌てて背筋を伸ばし、グレイスとともに頭を下げた。
国王フリードリヒはそれに鷹揚に頷いて答え、ウィリアムに向きなおる。
「挨拶が多くて疲れたんだ。三十分ばかり休憩することにしたから、話し相手を務めてくれ。ああ、君がウィリアムが連れてきた女性だね。君もおいで。王妃の相手をしてあげてほしい」
この発言に驚いたのは、エイジェリンだけではなかった。
ロバートとグレイスが弾かれたように顔をあげて、愕然と目を見開く。
(伯爵様は陛下がご自分の体質をご存じだっておっしゃってたけど……もしかしてそれ以上に仲がいいのかしら)
フリードリヒはウィリアムに対して、まるで旧友に話しかけるかのように気さくだった。
ウィリアムもフリードリヒに話しかけられて恐縮するわけでもなく、やれやれと肩をすくめて応じる。
「いいんですか? 主役が中座して」
「少しくらいいいだろう? 朝から他国の特使の相手やパレードで疲れているんだ。一息ついたくらいで文句を言われてはかなわない。……それに、いつもノックフィン伯爵夫人を連れ歩いているお前が、珍しく若い美人を連れてきたんだ。興味があってね」
つ、とエイジェリンに視線を映して、フリードリヒはにこりと笑う。
「お前もついに身を固める決心がついたのか?」
「陛下……」
ウィリアムが困った顔で否定する前に、驚愕した声を上げたのはグレイスだった。
「なんですって⁉」
声を上げてからハッとしているがもう遅い。それに、本人は国王陛下の前であろうと黙っているつもりはないようで、キッとエイジェリンを睨みつけて言った。
「恐れながら陛下。エイジェリンは昔から本当に出来の悪い妹で、恐れ多くもブラッド伯爵様の奥方が務まるような器量ではございませんわ」
ウィリアムのことを馬鹿にしたくせに、名門「ブラッド伯爵家」にエイジェリンが嫁ぐかもしれないというのは気に入らないらしい。グレイスに言われなくとも、エイジェリンがウィリアムに嫁ぐことはないけれど、当たり前のように国王の前で貶められて、エイジェリンはさすがに腹が立った。
父が、幼い娘には母親が必要だろうと後妻を迎えて義姉になったグレイスに、エイジェリンは正直、いい感情をもっていない。
あの母子は、エイジェリンの母の私物をすべて我が物顔で奪い取って、エイジェリンの手に残ったのは、父が隠しておいてくれたブレスレットただ一つだ。
父が死んだ後も、エイジェリンに内緒で勝手に父の遺品を売り払い、義母などはすぐに違う男を家に招いた。
ハーパー伯爵家は決して貧乏ではないけれど、グレイスや義母が散財するので、父が死ぬ半年前で貯えが底をつき、エイジェリンは奔走する羽目になったし、それがきっかけでハーパー伯爵家を奪われることになったのである。
その原因を作ったグレイス本人が、エイジェリンの思い出の詰まっているハーパー伯爵家に、伯爵夫人として居座って、自分が追い出されたことに、いまだに思うところがあるのだ。
しかし、フリードリヒの目の前で口論するなど不敬にもほどがあるので、エイジェリンは喉元まで出かかった反論を胃の方に押し戻して、拳を握りしめて俯いた。
「君の妹と言うと、病弱で伯爵家が継げなかったという、エイジェリン・ハーパーのことかい?」
フリードリヒが不思議そうに口にした言葉に、エイジェリンは怪訝がった。
(病弱?)
エイジェリンは生まれてから今まで病弱だったことはない。
どういうことだろうと顔をあげると、グレイスがバツの悪そうな顔をしているのが見えた。
「確か、病気で外にも出られないから、特例で伯爵家は君たちが継いで、エイジェリンは社交界にも姿を見せていないという話だったが……、うん、ずいぶん元気そうだ。病気はよくなったのかな?」
「陛下、それはどういう……?」
「とんでもございません! まだ万全ではありませんのに我儘を言って家を出てきたのですわ。ほらエイジェリン、もう満足したでしょう? お家に帰っていなさい」
さすがにわけがわからなくて、エイジェリンが口を開くと、それにかぶせるようにグレイスが早口でまくし立てた。
「は?」
エイジェリンが目を丸くしていると、ウィリアムが面白そうに口端を上げて、子供の熱を測るかのようにエイジェリンの額に手を当てた。
「ああ、本当だ。微熱があるね。だがたいしたことはない、陛下とお話していたら熱も下がるだろう。いいでしょうか、陛下」
「え?」
エイジェリンは熱なんてない。首をひねっていると、ウィリアムが「しー」と小声で言って片目をつむる。話を合わせろということらしい。
フリードリヒも薄く笑った。
「ああ、そうだな。ちょうどいい。それではハーパー伯爵、夫人。楽しんで行ってくれ」
「え、ちょ、エイジェリン‼」
グレイスの叫び声が聞こえたが、ウィリアムがグレイスとロバートの視線からエイジェリンを隠すように肩を引き寄せて、フリードリヒのあとに続いて歩いて行く。
エイジェリンはフリードリヒとともに城のサロンへ向かいながら、何度も首をひねっていた。




