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ジャガイモ畑のハプニング 1

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 オーガスタの決定には逆らえず、エイジェリンは国王夫妻の結婚記念パーティーで、ウィリアムのパートナーを務めることになってしまった。


 ウィリアムはひたすら平謝りをして、残り四日でほかの女性を探して見せると言ったけれど、それを聞いたルーベンスが無情にも「無理でしょうね」と吐き捨てたので、エイジェリンが彼のパートナーとして出席するのはほぼ確定事項だろう。

 エイジェリンも、正直言って、ウィリアムが自力でパートナーを見つけられるとは思っていない。それができれば、とっくにパートナーは決まっていただろう。


 オーガスタにドレスや靴がないと言ってみたけれど、そんなものはウィリアムに買ってもらえと言われれば、エイジェリンが断れる要素はどこにもなかった。

 四日と言う短い時間なので、ドレスも靴も既製品になるが、エイジェリンの身長は女性の平均身長なので、既製品でも生地が余ったり足りなかったりすることもないだろう。

 エイジェリンとウィリアムが途方に暮れている間に、ルーベンスがさっさと贔屓の仕立て屋に連絡して、既製品のドレスと靴を仕入れてしまった。


 装飾品は、ウィリアムの特異体質のことがあるので宝石を避けて、金細工の髪留めとブローチが用意されている。

 パーティーに出席して一曲も踊らないわけにもいかないが、ウィリアムに不用意に近付くと、いつベンジャミンが表に出てきて「ママ」と抱きついてくるとも限らないので、ダンスの練習はルーベンスと行うことになった。

 ルーベンスによると、ウィリアムは酒が入ると宝石の霊に体を乗っ取られやすくなるそうなので、当日は決してアルコールを口にさせてはいけないそうだ。


「俺だって、頑張ればパーティーの間くらい、体を乗っ取られないように自分を強く持てる」

「それができないから、パーティーのたびに不名誉な噂が増えているんじゃないですか」


 ルーベンスはにべもなく切り捨てて、ウィリアムが不貞腐れ、パーティーが二日後に迫った日のことだった。


「アルジャーノン王子を産んだ妃の出身がわかりました」


 朝食のあとで、ルーベンスに呼び出されてウィリアムの部屋に言ったエイジェリンは、単刀直入にそう切り出された。

 ウィリアムも驚いて、「もうか?」と目をしばたたく。


「私は有能なんで」


 ルーベンスが得意げに言ったが、ウィリアムはそれを綺麗に無視した。


「それで、どこだ?」

「マブール侯爵領ですよ。その中のバージルの町の代官をしているナタリ子爵家です」

「マブール侯爵領か。王都から目と鼻の先じゃないか。よし、すぐに向かおう!」


 ウィリアムが立ち上がる。

 マブール侯爵家は、王都から馬車で三、四時間の距離だ。バージルの町はその中でも王都寄りにあって、一日で往復できる。


「早いところこいつを成仏させて、俺は安心してパーティーに臨みたい」

「そうですね。さすがに公衆の面前でパートナー女性をママと呼べば、ブラッド家の評判は地に落ちるでしょう。……すでに地面すれすれですけどね」

「一言余計だ!」


 神妙な顔をしたルーベンスに向かってクッションを投げつけ、ウィリアムは今日のうちに出発すると言い出した。


「バージルに行ってジャガイモを掘って、さっさと成仏させてやる!」


 当り前のようにエイジェリンも同行することにされているが、仕方がない。

 ルーベンスが馬車の準備と、それからキッチンに道中の軽食を用意するように指示を出しに向かった。

 エイジェリンも支度をするために、一度三階にある自分の部屋に戻ることにする。


 メイド服から冬の厚めの生地のワンピースに着替えて、歩きやすい靴に履き替えていると、コンコンと部屋の扉が叩かれた。

 扉を開けると、メイド頭のケリーが厳しい顔をして立っている。

 思わず背筋を伸ばすと、メイド服ではない服を着ているエイジェリンを見て、ケリーが眉を寄せた。


「エイミー、今日はあなたに忠告をしに来ました」


 ケリーが硬い声で言った。


「旦那様はずいぶんとあなたを特別扱いしているようですけれど、あなたはただのメイドです。パーティーのパートナーに選ばれたからと言って、勘違いをなさらないように。旦那様はお忙しく、パートナーを探している暇がなかったために、適当なところで手を打っただけなのですから。いいですね。くれぐれも、分不相応な考えは持たないように」

「……はい」


 エイジェリンはケリーが勘繰るような考えを抱いているわけではなかったが、ケリーの鋭い眼光に、ただ頷くことしかできなかった。

 ケリーは顎をしゃくるように頷いて、足早に去っていく。


(……完全に、嫌われちゃったみたい)


 ケリーが疑うような邪まな考えは何一つ抱いていないのに、とエイジェリンは小さく嘆息した。


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