指輪の王子と約束 3
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後ろにひっくり返って背中と頭をしこたま打ったウィリアムは涙目になっていた。
「たんこぶができていますね」
ルーベンスが淡々と事実を告げる。
少しは心配しろとルーベンスを睨んで、ウィリアムは頭をさすりながらソファに座った。
ウィリアムにキスされるのを回避できたエイジェリンはホッとしたけれど、アルジャーノンが成仏していないようなので、彼の心残りは、母親に甘えることではないのかもしれない。
「甘えて満足して成仏してくれれば楽だったのに」
ウィリアムがぼやいたが、それについてはエイジェリンも大いに同意した。これでは、恥ずかしい思いをしただけの骨折り損だ。
ウィリアムもエイジェリンも、また振出しかと嘆いたが、ルーベンスが「そうでもないですよ」と首を振った。
「ジャガイモ堀りがどうどかと言っていたではないですか」
「まさか俺にジャガイモを掘れと?」
ジャガイモは年に二回栽培できる。ハーパー伯爵領でもジャガイモ栽培が盛んだったので、収穫祭に呼ばれたことのあるエイジェリンもよく知っているが、夏に植えたジャガイモは冬に採れるので、そろそろ収穫シーズンのはずだ。
「試してみる価値はあるのでは?」
「お前、絶対に楽しんでないか?」
「そんなことはありません。第一、裸で湖に飛び込むよりは――」
「あー! わかった! うるさい! 記憶から抹消したい汚点をいちいちほじくり返すなっ!」
叫んだせいでたんこぶに響いたのか、ウィリアムが顔をしかめる。
ただでさえよくない噂の多いウィリアムが、泥だらけになりながらジャガイモ堀りなどしたら、彼の不名誉な噂がまた増えることになるだろう。ウィリアムはそれを懸念しているようだったけれど、ルーベンスは「何を今さら」と肩をすくめた。
「妙な噂が一つ二つ増えたところで、すでに山のようにあるのですから気にするだけ無意味でしょう? まあ、噂のせいで良縁が見つからないという難点もありますが、最悪伯爵家の後継ぎさえいればいいのですから、子供だけ産んでくれる奇特な女性を探すというのも一つの手です」
「お前絶対いつか解雇してやるからな! 覚悟しておけよ!」
「できるものなら。私がいなくなって困るのは旦那様です」
「……ぐ」
否定できないのか、ウィリアムは悔しそうに押し黙った。
ルーベンスはそんなウィリアムを無視して、顎に手を当てて考え込む。
「ジャガイモ掘りですけれど、アルジャーノン王子は、母親である妃の故郷でそれをすると約束していたのですよね。エルドア国王の妃の故郷を探すところからはじめなくてはいけませんが、のんびりしていたらジャガイモの収穫時期が終わってしまいます。急いだほうがいいですね」
アルジャーノンの生母は子爵令嬢だった。子爵家であることを考えると、独立した領地は持っていないはずだ。
伯爵家の領地は、ブラッド伯爵家のように辺境地でもない限り小さい。となると、公爵領か侯爵領の中の一部を任されていると考えられる。
「調べてみましょう。ジャガイモ栽培が盛んな侯爵領か公爵領となれば数は少ないはずです。城に情報が残っていなくとも、国王陛下の後妻に上がったとなれば名誉なことですから、その家の人間ならば知っている方がいてもおかしくないでしょう」
ルーベンスはそう言って立ち上がった。
「待て、お前ひとりで調べるつもりか? 俺も手伝うが――」
「いいえ。旦那様はそれよりも先にすることがございます」
ルーベンスはぴしゃりと言って、大げさにため息を吐き出した。
「国王陛下の結婚記念日のパーティーでパートナーを務める女性がまだ決まっていないでしょう? 五日後ですよ。そろそろ本腰をあげて探していただかないと、パーティーで恥をかくことになりますよ」
「…………ちゃんと考えている」
ウィリアムはぼそりと言って、まるで追及を逃れるかのように明後日の方向を向いた。
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