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指輪の王子と約束 2

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「ママ―!」


 何度見ても慣れない。

 ソファに座っているエイジェリンにひしと抱きついて、すりすりと頬ずりしながら甘えているウィリアムに、エイジェリンは途方に暮れていた。


 ウィリアムの右手の親指にはめられている指輪に憑りついているアルジャーノン王子の霊を成仏させるためとはいえ、この状況はなかなか精神的に来る。

 ルーベンスはウィリアムが霊に憑りつかれた奇行に走るのは慣れっこなのか、突然豹変してエイジェリンに甘えはじめた彼にも平然としていた。――いや、と言うより面白そうに笑いながら見ている。他人事だと思って!


「ママ、僕、今日は熱が出なかったんだよ! 咳もしてない! 元気になったら、またママの故郷に連れていってくれるんでしょ? 一緒にジャガイモ堀りをするんだよね! 頑張って元気になるからね!」


 ウィリアムの低い美声と無邪気な子供のセリフが不釣り合いだった。


「故郷、ですか」


 ルーベンスが小さくつぶやいて、視線で「もっと聞き出せ」と訴えてくる。

 エイジェリンは頷いて、おずおずとウィリアムの少し硬い艶やかな黒髪を撫でながら、母親らしい口調に気をつけつつ話を合わせた。


「まあ、そんなにジャガイモ堀りが楽しみなの?」

「もちろんだよ! すっごく大きなジャガイモを見つけてママにプレゼントするんだ!」


 王子が泥だらけになりながらジャガイモを掘って王の妃である母親にプレゼントするというのは何ともシュールな絵面だが、アルジャーノン王子のその母の間では普通のことなのだろうか。

 小さな疑問を抱きつつ、エイジェリンは頷いた。


「嬉しいわ、ありがとう! じゃあ、早く元気にならないとね」

「うん! だからママも、早く元気になってね!」

(……え?)


 エイジェリンは、アルジャーノンのセリフに違和感を覚えた。

 十歳で病気で命を落としたアルジャーノンが、母親に「元気になってね」と言うのはおかしい気がする。普通なら「うん、元気になるよ」と返事をするところではなかろうか。

 ルーベンスも同じ疑問を抱いたようで、大きく頷いた。このまま聞き出せということらしい。

 エイジェリンはウィリアムの髪を梳くように撫でて、にこりと笑った。


「ええ。早く元気になるわ。あなたを心配させたくないもの」

「うん。でも、無理はしないで。お医者様だって、無理に笑うのはダメだって言っていたでしょ?」

「そうだったかしら」

「そうだよ。もう、ママってば忘れん坊だなあ」


 ウィリアムが顔をあげて笑う。それから唐突に目をごしごしとこすりはじめた。


「ママ、僕、眠たくなっちゃったよ」

「あら、そうなの?」


 ちらりとルーベンスを見れば「まだ情報がたりない」と言うように首を横に振る。

 エイジェリンは少し考えて、子供のころに乳母に言われたことのある言葉を思い出した。


「でも今お昼寝しちゃうと、夜に眠れなくなっちゃうわよ? 眠たくならないように、ママとお話しない?」

「んー、……でもぉ、寝ないと治らないってお医者様が」


 そうだった。アルジャーノンは病気なのだ。

言葉選びを間違えたと焦るエイジェリンに、ウィリアムが甘えたように両手を伸ばす。


「ママー、お休みの、ちゅー」

「え?」


 ちょっと待て、と慌てたエイジェリンに、ウィリアムが顔を近づける。

 さすがにまずいと判断したのか、ルーベンスも腰を浮かせた、その時。


「うわああああああッ」


 突然正気に戻ったウィリアムが悲鳴を上げて、後ろに大きく飛び退いて――


「旦那様!?」


 背後のローテーブルに足を取られて、仰向けにひっくり返った。


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