蚊取線香を気にかけて
虫の音が、心を癒す夜、
じっと、感じ入ろうとすれば、
ブーン、ブーンとか細い羽音が
割り込んでくる。
これも夏だなと、
流暢に、かまえてみれば、
たちまち、手足や首筋に、
痒みがわき起こってくる。
太古の昔から続く、蚊との戦い。
この鬱陶しさから人々を救うのは、
やはり、蚊取線香だろうと、
昔人間のぼくは思う。
それを噛んだり、飲み込んだり、
そんなことはしないが、
ほくは蚊取線香が好きだ。
特に、例のブタに入っている
蚊取線香に、
なんと言うか、
この上ない叙情を感じとる。
なぜかはわからない。
ただ、ブタだけでもダメだし、
蚊取線香だけでもダメなのである。
ブタに蚊取線香が入って、
初めて、その蚊取線香自体を、
好きになっているような、
そんな気がする。
もうすぐお盆、虫の音に
祖父母の声を重ねながら、
ぼくは、ブタ中の蚊取線香を
覗こうとする。