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10話 あれ、なんでしょう?


やっとの思いで森をぬけたと思ったらあまりにも広大な見渡す限りの草原地帯。そして、それを抜けたと思ったらまた森って…新手のいじめか何かですか?


「…はぁぁぁぁぁぁぁ」


『そんなガッカリすんなよ』


「そりゃしますよ!なんなんですか?誰の陰謀か知りませんが1発殴らせてくれませんかねぇ?!!私は!もう森も草も充分に堪能しました!というか飽きました!そろそろ第1村人とかに出会ってもいい頃だと思うのですよ!」


『そもそも村がないのだが…』


「知っていますよ!もぅ、いっその事、山賊さんでもいいですよ!私は、緑以外のものが見たいのです!生き物が見たいです!」


『ここで駄々こねても仕方ねぇだろ…先を進むぞ』


「むー!!」


文句を垂れる私を背中に携えたルツはそのままずんずんと森の中を突き進んでいきました。

最初の森と違い、陽の光で溢れた森の中はサワサワと心地よい音を奏でています。子鳥の囀りも聞こえ、正に穏やかな森と言った感じです。


ここは意外と普通の森…あ、いえやはり異世界ですね。

元の世界では有り得ないものが森にありました。


「…ねぇ、ルツ。この世界の森って変なのが多いのですねぇ」


しみじみと私が呟くとルツは首を傾げました。


『変?まぁ最初のあの森は特殊だから仕方ないが…ここのは至って普通の森だぞ?』


「そうなのですか?…やはり世界が違うからですかねぇ。

私、あんなの初めて見ました」


『あんなの?』


ルツは私の視線の先へと顔を向けます。


『…なんだあれ』


そこには、木の上からプラプラと人が吊るされていました。


「あれはなんでしょう?この世界特有の遊びですか?

それとも人型の巨大なミノムシでしょうか?…私、確かに緑以外の物が見たいとは言いましたが…あれはちょっと」


『…すまん、あれは俺にもよくわからん』


「おや、そうなのですか。ではただの変人ですね」


『…そうだな。関わると面倒臭さそうだ。無視するか』


「そうですね。行きま「ちょっ、普通そこは助けるところッスよーーー!!」…」


私とルツがあえてそれを無視し先を行こうとすると、ミノムシ人間から突然叫び声が上がりました。

仕方がなくそれに視線を戻すとそれはクネクネと体を動かしながら必死に何かを訴えていました。

それにしても…


「あの動き心底気持ち悪いですねぇ」


「お兄さん!心の声が漏れちゃってるっス!」


「失礼な!私はお姉さんです!誰が男ですか!」


『「え゛…」』


「は?ルツ、貴方もですか?」


何と、私は初対面のミノムシは(この際無視です)兎も角ルツにも男だと思われていたそうです。どこからどう見ても私は女でしょうに!というか、私達出会ってから結構時間立っていますよね?

その間に私、あなたの前で体拭いたり(当然、森や草原にお風呂なんてありませんからね。因みにその時の水はルツが魔法で出してくれました)していましたよね?


『いや、だってお前その格好…どう見ても男だろ。異世界ではそれが当たり前なのか?』


「…?まぁ普通では無いですか?」


私の今の格好は至って普通の服装のはずです。

動きやすさ重視のため下は至って普通のジーパンに、上は白いセーターに少し大きめの首まである黒のジャケット。背中には少し大きめのリュックサックに頭には帽子、そして手袋と割かし防寒バッチリな格好です。

私が旅に出たのって春先の肌寒い時期でしたし、ここに来てからも不思議と季節感的にはあまり変わりなかった為このような格好です。しかも移動はルツの上。毛皮があるとはいえ動からないからか少し寒いのです。


「いえ、それでも私はあなたの前で体を拭いたりしていたでしょう!」


『相手が誰だろうとそんなところ普通、態々見ようと思わないだろ。お前も同性のそんな場面見ないだろう?』


「…そう、ですね…?いえ、だとしても…うーん、なんか複雑な気分です」


『そもそも、この世界の女にそんな短い髪の女はいない。なんかしらの事情がなければ基本的に皆髪は伸ばすものだ。寧ろ男もお前より長いな、特に貴族とかは』


何と、この世界の人は基本的に髪が長いそうです。

長髪フェチにはたまりませんね!

私の髪は確かに短いですが…まさかそんなことで男だと認識されるとは思いませんでした。


「まぁ…女の旅は色々物騒ですし、この際男に見られた方が面倒事に巻き込まれないですみますかねぇ」


何とか前向きに考えてみましたが…これ、なかなかいいアイデアでは?よし、それでいきましょう、そうしましょう。


『まぁ…お前がそれでいいならいいんじゃないか?』


「はい、ではそろそろ行きましょうか」


『そう「いやー!忘れないでぇっスー!!」


おっと、そうでした。すっかり忘れていました。

ルツにまで男と勘違いされていたことに些かショックを受けた私はミノムシ人間さんの事を忘却の彼方へと吹き飛ばしていました。


「…あー、そうでした。それで?貴方そんなところで何をしているんです?1人でミノムシごっこですか?うゎぼっちの極み…ゲフゲフ、斬新な遊びですね」


「んなわけないじゃないっすか!いいから早く下ろしてっすよ!あと、俺はボッチじゃないっス!」


「…それが人に物を頼む態度ですか?」


自分でも少し驚くくらい低い声が出ました。

なんでしょうね、先程からイライラします。

スッスと煩いからですかね?


「あ、さっきの何気に根に持ってる感じっすか…?

本当にごめんなさい。お願いします、下ろしてください」


上手く動けないところを器用にも体を折り曲げて頭を下げてきました。この方、なんとも潔いですね。

と言うよりも体を木にぶら下げられたままの状態で折り曲げるって…相当鍛えてますね。普通の人には無理な動きです。


私は少し警戒しながらも、仕方が無…優しいのでミノムシ人間さんを下ろしてあげることにしました。


「ルツ、お願いしますね」


『俺かよ…』


渋々、彼にルツが近づいていくとミノムシ人間…面倒ですね。ミノムシから待ったがかかりました。


「ちょっと待つっす。それ魔獣じゃないっすか…」


「だからなんです?」


「下手したら俺死なないっすか…?あの、出来ればおに…じゃなくてお姉さんに降ろしてもらいたいっす!」


「大丈夫ですよ。ルツはとっても心優しい子ですから。安心して落とされてください」


私がにっこりと微笑んであげればミノムシさんはダラダラと冷や汗を流し始めました。


「いや、それ絶対大丈夫じゃない奴っす!てか落とすんすか?!いやー!来ないで!食われちゃう!俺美味しくないっすよ!!」


『うるせぇな。ちょっと黙ってろ』


ルツがグルルルゥゥと少し唸り声を上げながらも木にぶら下がっている紐を切り落としました。


「きゃあ!いたいっすぅ!」


女か。そもそも語尾に“す”を付ける意味あります?

私は地に這い蹲るそれを見下して声をかけてあげました。


(大丈夫ですか?)

「気持っっっち悪いですね」


「本音と建前が逆になってるっす!心の声がダダ漏れっす!」


「それは失礼。大丈夫…ですね」


「大丈夫っすけど!最後まで心配してくれても良くないっすか」


ミノムシさんは今度は土の上でウネウネと体を動かしながら元気に叫んでいました。今度間はイモムシさんですか?


私は1つ溜息を吐き出し、気持ちを切り替えました。


「では行きましょうか!」


「ちょちょ、縄解いて欲しいっす!」


「降ろしてと言うから降ろして差し上げたのにお礼もなしですか。それどころか更なる要求を求めるとは…はぁ」


「あー!すいません!!降ろしてくれて感謝してるっす!でも、もー少しお慈悲をくださいっすぅ!!」


「嫌です」


「即答っすか!」


「では今度こそさよなら。もう会わないことを祈ってます」


私はルツを促しミノムシ…いえ、イモムシさんに別れを告げました。暫く進みイモムシさんの姿も声も聞こえなくなった頃、ルツが声をかけてきました。

そういえば貴方、随分と静かでしたね。


『…あれ、良かったのか?』


「勿論ですよ。今頃自力で抜けているはずですよ」


『は?なんでそんなことわかるんだ?』


「逆に分かりませんでした?あの方、相当なやり手ですよ。

大方、私たちがいた迷いの森…でしたっけ?を見張りでもしてたんでは無いですか?そこそこ重要そうな場所ですからね、どこかの国の間者か何なではないかと。それにこの世界には魔法があるのでしょう?何故態々、私達に降ろさせたのかは疑問ですが…ね」


『…何もんだあいつ』


「さぁ」






※※※※※※





「あー、酷い目に会ったっす…」


ミノムシからイモムシと称された彼は朔耶の予想通り自力で縄を抜け出し凝り固まった体を解している所だった。


「うーん…あの森から何が来たかと思えばまさかの異界人っすかぁ、なんか強そうでしたねー。あと、あの魔獣も…なんか、見たことあるような気がするんすよねぇ…」


そう呟くと彼は森の奥へと姿を消した。






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