9話
「嫌ですねぇ、田中さん。困ったら責任転換ですかぁ? 素敵な性格していますねー☆」」
コイツ、人の話聞く気ないのか?
「それは良いけど早く助けてくれませんか?」
今、俺の身体の上には大量の同人誌が覆いかぶさっている。
これが意外と重たく、身動きが全く取れないでいる。
悔しいがこの女神の助けを借りなければならないのだけども。
「しかたないですねー? 美しく可憐でびゅーてぃふるなクリスティーネ様お助け下さいって言ったら考えますよー?」
クリスティーネは、しゃがみ込んで俺の顔に自分の顔を近付けくすくすと笑って来やがる。
「くっ、美し。って、それ絶対に考えるだけで助けないだろ」
そう、だれがどう考えたってこれは罠だ。
しっかりと考えますと言ってやがるからな。
誰が他人を騙す時の常とう手段に引っかかるかってんだ!
「あはははー。ナンノコトデスカー?」
クスクスクスとあざけ笑うクリスティーネ。
この野郎、解放されたら覚えていろよ?
「あらー? えっちな事を企む田中さんが悪いんじゃないですかー? 女神様のお胸さんをタダで堪能するなんて許しがたい事ですけどねー?」
一切否定の出来ない、痛い所を付かれた俺は思わず、ぐぬぬと言う言葉が出て来そうだった。
「ぐぬぬって言っちゃって良いんですよー?」
「ぐぬぬ」
ゲッ、クリスティーネに釣られて言ってしまったじゃないか! くそう、この野郎!
「ふふふー、仕方ありませんねー。 美しく可憐でびゅーてぃふるな女神クリスティーネちゃんは優しいですからねー。この位で女神様に対するわいせつ未遂は許してあげますよー」
クリスティーネは、悦に浸った声を出すと漸く俺の身体に覆いかぶさる多数の同人誌を取り払った。
これだからサディストは困るんだよ。
「女神クリスティーネ様、私ルチーナの救出感謝致します」
この、畜生ドS女神が割とひでー事をしやがったが、今の俺は貴族令嬢ルチーナである。
女神の行いに対し、懇切丁寧にお辞儀をしお礼を述べた。
「あははー。田中さんー。……面白いですねー。」
途中の間は何だよ! どうせ、ロクでも無い事考えたんだろうけどさ。
「気にしたらダメですよー? そういう細かい事を気にするから田中さんは魔法使いになったんですから」
また余計な事を! と思うが俺は1つため息を付くだけで我慢をし、
「お褒めの言葉として受け止めますわ。それでクリス、わたくしがこの部屋を訪れた事は本日が初めてでしてよ? わたくしが推測する限り、その同人誌はここを住居として構えている貴女のモノであると思いますが、違いますか?」
この同人誌の正しい持ち主を知る為にも俺はクリスティーネに問い詰める。
「そうなるよねー。私も押し入れの下段に何が入っていたとか知らなかったのよー。上段に丁度良いスペースがあったからー。そこで神界製のパソコンで遊んでいただけだからー別に下段の事なんて興味持ってなかった訳だしー。田中さんの言う通りこの同人誌達は別の誰かのモノなんだよねー」
確かに、十分な娯楽がある場合それ以外に興味を示さないのは自然と言えば自然。
何故どうしてこの空間にクリスティーネ以外の生物が入ったのか理解に苦しむ訳だ。
「あー。そうです、思い出しましたー。実はですねぇ、田中さんは恩恵が得られなかったんですけど、高い徳を積んだ方には特別なオプションを付けられるんですよー。それで、そのオプションの一つとして何でも発明する天才科学者がいるのですよー」
「天才科学者ですか? それがどうか致しましたか?」
何でも発明できる天才科学者? 徳を積めばそんな便利なオプションをつけられたのか。
「あははー。そうなんですよー。その10歳の天才科学者、田中さんには興味が無いと思いますけどー、ショタっ子ですよねー。その子の趣味だったんですよ、多種多様の同人誌集めがですねー」
は? 10歳のクソガキが同人誌に興味持つって、しかもBLだけじゃなく動物モノまでって。
フツーのエロ同人でも随分と問題なのにそこまで守備範囲が広いって俺の理解が追い付けないのだが。
「そこが可愛いじゃないですかー。それで彼は、彼のクライアントさんが寿命を迎えたんですよねー。この世界とは別の話なんですけどー。それで、すぐさま別の転生者がですねー彼を望んだわけですよー。それでこの同人誌はこの空間に置き去りになった訳ですよー」
ああ、そうですか。
まぁ、この同人誌の主が分かっただけでも良しとするかな。
で、無事クリスティーネと再会を果たした訳で。
「そうですか。疑問が解けたのでこの件は問題無いでしょう。続いてですが、悪役令嬢となったわたくしですが、以後どの様な振る舞いをすれば良いのかご教授願いたいと思います」
これは素直に聞くしかない。
悪役令嬢と言われてもジャンル的に流行った瞬間があった事しか俺は知らない。
細かい作法とかあれこれは殆ど知らないからな、正直この世界で何をどうすれば良いのかよく分からない。
「それはですねー。悪役令嬢は悪役令嬢ですから悪役令嬢をやればいいのですよー」
真面目に聞いた俺が馬鹿だった。
「大丈夫ですよー? 私が田中さんの(無様な)姿を楽しめれば良いだけですからー」
にっこりと笑顔を見せるクリスティーネ。
だが、お前俺の無様な姿を楽しみたいって言ったな?
「そうですよー? 女神さまの私が楽しむ為に田中さんをこの世界に転生させた訳ですからー」
コイツは悪魔かよと思わずその言葉が脳裏を過る。
「悪魔じゃないですよー? 女神ですからー天使よりも偉いんですからー」
はぁ、確かにそうだけどさ。
それよりも、もう少し俺がどうすれば良いか具体的に教えて欲しいんだけど。
「そんな面倒な事する訳無いじゃないですかー」
なら良いや、俺はファルタジナ邸でぐうたらな生活でもしてやるからそれをゆっくりと観察してくれよな。
「はぁ、田中さんはわがままですねぇ。それだから女の子にモテなかったんですよー? 分かってますかー?」
今更知った事か。
仮に今から女の子にモテたって百合百合にしかならないと思うぞ。
「それでもー女の子の身体は堪能出来るんじゃないですかー?」
確かに、ってんな訳あるか! 俺に変な知恵を入れ込むな。
「まったく、つまらないですねー。つまらないのは田中さんのお胸さんだけにしてくれませんかー?」
クリスティーネがこれ見よがしに豊満なお胸を見せつけて来る。
いや、根っこが男の俺にお胸さんの自慢をしても何も悔しいとも思わないんですが。
「はー。本当にボキャブラリティ―無いですねー。その可愛いお胸さんを見て悔しがってくれるぐらいしてもバチは当たらないんですけどー」
知った事かよ。
「仕方ありませんねー。私としても田中さんを観察していて面白くないシーンはカットしたい訳ですよー。だからこれを差し上げますからー上手く使って下さいねー」
クリスティーナは押し入れの上段エリアに戻りガサゴソと何かを探し当て俺の元へ来ると、シルバーカラーの指輪を俺に渡した。
「これは?」
「これはですねー、私を楽しませる為の便利な道具ですよー。これから先困難にぶち当たった時使うとですねー、面倒な事はそれなりに回避できるようになるアイテムですよー」
つまり、どういう事だ?
「例えばードラゴンが現れますよねー。そうすると、ドラゴンを即死させてしまったら私がつまらない訳ですよー。だから田中さんにはある程度苦労を重ねてドラゴンを倒して欲しい訳ですよー」
それで?
「例えばですねー、ドラゴンの弱点を知る為に情報を拾うとかドラゴンの皮膚を貫いて普通のダメージを与えられる武器を手に入れるって私が見ていて退屈する訳です。だからそれはこの指輪の力で実現出来ちゃいますよーって感じですー」
なんとなくわかったような。
つまり、めんどくさいお使いクエストみたいなものは省略出来る感じか?
「大雑把にそんな感じですねー」
それはそれで助かると言えば助かるか。
「有難う御座います、クリスティーネ様」
俺はクリスティーネに対し丁重なお辞儀をし、指輪を受け取り早速指にはめる。
丁度左手人差し指にはまったので以後この場所にはめるとしよう。




