8話
「そうですか。ざっと予想を立てて40年で御座いますか? 1年1kgのペースでダイエットを行ったとしてもわたくしが命を失う前に元の体形に戻れるかと思いますが? いいえ。神々ネットワークでしたか? この世界に居ても日本から食料を取り寄せられる非常にチート染みたシステムですよね? でしたら、どの様な考えを巡らせても、チートと言うお名前が相応しい道具を貴女はお持ちになさっています訳です。 でしたら、一瞬で体重を減らす道具の1つ位御座いませんか?」
俺は少々早口でグリズディーネを捲し立てる。
だがそれに対しグリズディーネは名案が浮かんだと言わんばかりに手をポンと叩く。
「ああー! 田中さん天才ですね! 確か一瞬で体重を減らす薬はありますよー」
いや、なんで気付かなかったんだよ。
と思うが、別に異性の目を引く必要が無い上に人間と違って神が健康に気を使う必要があるとは思えない。
ならこの14年間その事に気付かない方が自然なのか?
「分かったのでしたら、それを注文して来なさい」
俺は1つため息をつきながらグリズディーネに命令を下す。
グリズディーネは、気合を振り絞り穴の中から必死に這い上がろうとする。
体形が体形だけあってこの程度の穴から脱出するだけでも大変そうだった。
程無くして、グリズディーネは穴から脱出する事に成功。
肩で大きく息をしながら回れ右をし、がっくりと肩を落とす。
細身の肉体であるならば楽勝で登れる押し入れの上段部分、しかしながら醜いおデブ様となったグリズディーネにとっては立ちはばかる壁でしかない。
「クリスティーネ様、お頑張りになさって」
俺が仕方なく応援の言葉を投げると、クリスティーネはうーうー喚きながら必死に登ろうとするが力尽き無様に落下をする。
その度に大きな音が部屋に響き渡る。
クリスティーネは仰向けで大の字になりながら呼吸を整える。
ある程度呼吸が整ったところでむくりと起き上がり、再度押し入れへの帰還を試みる。
しかし、残念ながら彼女の苦労は報われず無残にも落下。
だが、彼女はめげる事無く何度も立ち上がり漸く押し入れへの帰還に成功したのだった。
この女神、女神だけあって意外と根性はあるのだろうか?
程無くして押し入れの奥より、カタカタカタとキーボードを叩く音とマウスをカチカチする音にエンターキーを、タン! と強打すると言ったパソコンを扱っている時と同じ音が暫く聞こえた。
まぁ、神々ネットワークとやらを扱っているのだろう。
エンターキーを強打したであろう音が聞こえてから暫くしたところで、ボンって音が聞こえた。何かが爆発している音とは違うから大丈夫だろうと見守っていると、カチッ、とプルトップを開ける音が聞こえ、ゴクゴクゴクと何かを飲み喉を鳴らす音が聞えて来た。
推測するに、神々ネットワークから注文をし、一瞬で注文した商品が届き、それをグリズディーネが飲んでいると思われるのだが、そう考えると神々ネットワークとやらは随分とチートな道具だと予見出来る。
日本にあった運送会社もびっくりな配達速度だ。
「えへへー、田中さん、お待たせしましたー」
今度は、ストンと音を立て華麗な着地を見せながら女神クリスティーネが戻って来た。
先程とは打って変わり、俺が出会った時と同じく細目で素晴らしきスタイルを誇る、美しく可憐でびゅーてぃふるな女神クリスティーネちゃんの姿に戻っていた。
さっきまで見せられた醜態のせいでギャップ効果が働き、その姿はより一層美しく綺麗に見える。
それ故に豊満なお胸さんも、より一層魅力的となり俺の目に焼き付けられる。
俺はゴクリと生唾を飲み一考。
今の俺は悪役令嬢、つまり女の子である。
女の子が女性のお胸さんをもみもみしたところで罪はない(と思いたい)とよこしまな考えが走る。
「くりすてぃーねたまぁぁぁぁ☆」
欲望に負けた俺はクリスティーネのお胸さん目掛けてダイブを試みる。
「あらあらー? 田中さん、いけない子ですねー?」
クリスティーネは、左方向にサッと身をひるがえし、俺のダイブアタックを華麗に回避。
勢い満点なダイブアタックを回避されてしまった俺は、空中で体勢を整えられる訳も無く、勢いそのままに押し入れの下段向け頭から突っ込むことになる。
ごつーーーーん!!!!
と、俺が壁に頭を打つ派手な音がしたかと思うと、
どんがらがらがらがら!!!!
その衝撃で、押し入れの中で山積みされていた何かが崩れ、押し入れの中で倒れ込んだ俺の上に降り注いだ。
「あらー? 大丈夫ですかー?」
クリスティーネが、一応は心配しながら俺が埋もれているポイントに近付く。
「た、助けて下さいまし」
何かに埋もれた俺は情けない声をあげ、クリスティーネに助けを求める。
しかたないですねぇ、とクリスティーネは、俺の身体上に降り注いだ何かを取り除く為にそれを手に取る。
「あらあらあらー? 田中さんー? 田中さんって素晴らしい御趣味をなさったんですねー? カノジョが出来ないからと男性に走らなければならなかったんですねー?」
なんだか意味深な言葉を述べるクリスティーネだ。
妙に素直に助けてくれたと思ったらそういう事なのか? と思うがそのブツが何なのか分からない以上一体クリスティーネは何を見て何を企んでいるのか理解しかねる。
「あらあらー? やっぱり健全な男の子でしたかー? そうですよね、オタクな田中さんならこう言うの絶対お好きでしょうからー」
今度は一体何を見付けたと言うのだ?
なんとなく、エロに関する何かを見付けて楽しんでいるようにも思えるが。
「あははー。正解ですよ、田中さん。田中さんの上に乗っかっているのはエロ同人誌ですよー?」
と、楽し気に言うクリスティーネだ。
待てよ? エロ同人誌って事はだ、最初に言っていたクリスティーネの言葉を察する限り、ウホッの方じゃないのか?
で、続いた言葉から察するにフツーの男性向けのエロ。
つまり、男女どっち向けの同人誌があったと言う訳だが。
「ど、どうしてそんなものが?」
すげー理解に苦しむ。
常識的に考えたら、この14年間この押し入れに住んでいたのはクリスティーネの方だろう。
って事は、クリスティーネがそんな趣味があって日本からエロ同人誌を取り寄せて押し入れに保管していたことになる。
で、クリスティーネならそれを隠して俺をからかうなんて楽勝にやってくるわけだ。
何とも性格の悪い女神だろうか。
「うふふー。エロ同人誌が見付かって誤魔化しちゃうなんて、前世ハイ・ウィザードさんは違いますねー」
「誤魔化すも何も、この14年間この押し入れを使っていたのはクリスティーネだと思いますが? 逆に、クリスティーネ様って非常にお楽しいご趣味をお持ちになられるんですね?」
と、俺が言い返すと。
「あはははは。私は女神さまですよ? 人間がピーピーしている場面とか好きなだけ見られますし―何なら服の透視だってできますし―、わざわざこんな本を見て楽しむ真似何てしないですよー」
しらばっくれる気か? コイツ。
だが、彼女の言う事も確かにそうだとしか言えない。
「あれあれ???? た、田中さんって動物モノの趣味もあったんですか? 人間の女性に相手にされなかったからと遂に動物に手を出したのですかそうですかー。いいえ私は可憐でビューティフルな女神ちゃんですから、田中さんの趣味に異論はもうしあげませんよ?」
今度は動物モノってなんだよ。
確かに俺もそれに似たジャンルの同人誌を見た事あるけどさぁ。
誰かがこれを集めたとしたら一体そいつはどんな性癖を持っているんだ?




