8話
「あらー? 大丈夫ですかー?」
クリスティーネが、一応は心配しながら俺が埋もれているポイントに近付く。
「た、助けて下さいまし」
何かに埋もれた俺は情けない声をあげ、クリスティーネに助けを求める。
クリスティーネは、俺の身体上に降り注いだ何かを取り除く為手に取る。
「あらあらあらー? 田中さんー? 田中さんって素晴らしい御趣味をなさったんですねー? カノジョが出来ないからと男性に走らなければならなかったんですねー?」
俺の身体を覆いつくす物体は一体何なのだ? 確かめる方法が無い以上俺はうめき声に近い助けの声を上げ続けるしかない。
「あらあらー? やっぱり健全な男の子でしたかー? そうですよね、オタクな田中さんならこう言うの絶対お好きでしょうからー」
別の何かを見付けた様で、違った感想を言うクリスティーネだ。
彼女の言っている事から、何と無くエロ系の何かだと予想がつくが、そんな事よりも早く救助して欲しいのだけども。
「あははー。正解ですよ、田中さん。田中さんの上に乗っかっているのはエロ同人誌ですよー?」
「ど、どうしてそんなものが」
「うふふー。エロ同人誌が見付かって誤魔化しちゃうなんて、前世ハイ・ウィザードさんは違いますねー」
おもくそツッコミを入れてやりたいところだが、この状態ではそんな事もままならない。
「しかたないですねー? 美しく可憐でびゅーてぃふるなクリスティーネ様お助け下さいって言ったら考えますよー?」
「くっ、美し。って、それ絶対に考えるだけで助けないだろ」
クリスティーネの指示に従いかけた所で、これは他人を騙す時の常とう手段であると気付く。本当に助ける気があるなら助けますと言うワケで、それをわざわざ考えると言う事は、俺が実行した後考えるだけ考えて、考えたと言い実際は助けない為の口実にしたいからだ。
「あはははー。ナンノコトデスカー? あ、田中さーん、動物モノの趣味もあったんですねー」
クスクスクスとあざけ笑うクリスティーネ。
この野郎、解放されたら覚えていろよ?
「あらー? えっちな事を企む田中さんが悪いんじゃないですかー? 女神様のお胸さんをタダで堪能するなんて許しがたい事ですけどねー?」
一切否定の出来ない、痛い所を付かれた俺は思わず、ぐぬぬと言う言葉が出て来そうだった。
「ぐぬぬって言っちゃって良いんですよー?」
「ぐぬぬ」
ゲッ、クリスティーネに釣られて行ってしまったじゃないか! くそう、この野郎!
「ふふふー、仕方ありませんねー。 美しく可憐でびゅーてぃふるな女神クリスティーネちゃんは優しいですからねー。この位で女神様に対するわいせつ未遂は許してあげますよー」
クリスティーネは、悦に浸った声を出すと俺の身体に覆いかぶさる多数の同人誌を取り払った。
「女神クリスティーネ様、私ルチーナの救出感謝致します」
この、畜生S女神が割とひでー事をしやがったが、今の俺は貴族令嬢ルチーナである。
女神の行いに対し、懇切丁寧にお辞儀をしお礼を述べた。
「あははー。田中さんー。……面白いですねー。」
途中の間は何だよ! どうせ、ロクでも無い事考えたんだろうけどさ。
「お褒めの言葉として受け止めますわ。それでクリス、わたくしがこの部屋を訪れた事は本日が初めてでしてよ? わたくしが推測する限り、その同人誌はここを住居として構えている貴女のモノであると思いますが、違いますか?」
「そうなるよねー。私も押し入れの下段に何が入っていたとかしらなかったのよー。上段に丁度良いスペースがあったからー。そこで神界製のパソコンで遊んでいただけだからー」
言い訳じみた言葉を述べるクリスティーネの視線は泳いでいなかった。つまり、嘘では無い様だ。
俺が知らない14年間で何かを誤魔化したい時に見せる目を泳がす癖が修正されたのかもしれないが、彼女の話を聞く限りロクに人と接してなさそうで、その癖が修正されたとは考え難い。
しかしそれなら何故押し入れの下段いっぱいに同人誌が敷き詰められているのだろうか?
「あー。そうです、思い出しましたー。ほら、田中さんがここに来る場合のオプションがあったじゃないですかー?」
「天才科学者ですか? それがどうか致しましたか?」
確か、10歳のショタだったよな? 10歳のショタが同人誌に手を出す? しかもBLモノや動物モノ??? もしそれが本当だとしたらどういう趣味をしてるのだ?
「あははー。実は、彼の趣味なんですよー? ほら、普通の人って人情なんて無視しするんですよー。私が300年連勤していてもやっぱり天才的な発明品の方が有用じゃないですか? それでみなそれを選ぶんですよー。 ですから、田中さんが亡くなった際も、天才科学者を選ぶだろうなーって事で予め彼の荷物をこの部屋に運んでいた訳ですよー」
確かにクリスティーネの言う通り、豊満なお胸さんを持つとはいえ一切触れもしない美人よりも、素晴らしく便利な道具を持つ科学者の方が有用と言えば有用だ。
「うふふー。 実は神々ネットワークも凄いんですよー? 多分彼の発明品に勝るとも劣らない便利な一品でしてー、実は実は、私を連れて行った田中さんの判断は正解だったんですよー」
自分は凄いんだ、ドヤーッと言わんばかりに胸を逸らし、見せ付ける様にするクリスティーネだ。
触れない物は諦めるしかないが、美人で可憐でびゅーてぃふるな女神を眺める事自体目の保養になる訳で悪い話じゃない。
一応は、人情が報われたと言う事だろうか。
「そうですか。疑問が解けたのでこの件は問題無いでしょう。続いてですが、悪役令嬢となったわたくしですが、どの様な振る舞いをすれば良いのかご教授願いたいと思います」
「ふふふー、仕方無いですねー。実は神々の世界には便利な道具があるんですよー? まずは、予め田中さんの為に用意しておきましたこれを使ってくださいー」
クリスティーナは押し入れの上段エリアに戻りガサゴソと何かを探し当て俺の元へ来ると、シルバーカラーの指輪を俺に渡した。
「有り難う御座います」
俺はクリスティーネに対し丁重なお辞儀をし、指輪を受け取り何か効果があると思い指にはめる。
「田中さんー。手出すの早いですよー? 実はそれ、呪われた指輪なんですー」
悪戯な笑みを見せながら言うクリスティーネだ。
「ちょ、ま、ふざ」
「と言うのは嘘ですー。名前はー。クリスちゃんリングでどうですかー?」
嘘かよ。俺はくだらない事を言ったクリスティーネに対し数秒の間ジト目を送る。
「それですと、キリスト教が関与しそうですわね」
「あらー? クリスティーネちゃんリングですとー、長すぎると思ったんですよー」
まぁ、そんな事だろうと思ったが。
「なら、ファルタジナリングで良いんじゃないですか?」
自分の名前から取るような発想ならば、これでも大丈夫だろう。
「そうですねー。ファルタジナリングの説明ですけどー。ざっくりと、便利な指輪ですよー。アイテム収納効果もありますしー、私直筆の悪役令嬢の手引書も導入してますよー。ご使用の際は田中さんの意思を汲み取って作動してくれますー」
随分とチート性能に片足突っ込んだものと思うが、しかし貰えた以上有難くこの効果を有効活用させて頂く。
「クリスティーネ様。非常に便利な道具の付与、感謝致します」
俺は改めてクリスティーネに対して一礼をする。