7話
―クリスティーネの部屋―
俺は自室に設置されている鏡台の引き出しの中に飛び込みクリスティーネの部屋に向かったのだが。
引き出しの中に飛び込むと俺の視界は真っ暗な闇に包まれた。
前後左右どちらを見ても真っ暗で、唯一感じるのは自分が落下しているであろう事だけだった。
恐怖感が無いかと言われたら嘘になる。
落下をしている時間は10秒に辿り着く。これだけの時間落下をしていれば着地した瞬間待っているのは死しかない。
ははは、まさかクリスティーネの奴め人が楽しくなった所取り上げてまた別の肉体へ転生させる気か。
と考えたところで俺の視界が急に明るくなり、ストンと軽い音を立て俺は床の上に着地した。
まぁ、クリスティーネの力なら不思議な事があっても可笑しく無いなと安堵のため息を付き天井を見上げる。
自分が落ちて来たであろう穴がある訳でも無くそれはよくある普通の天井だった。
俺が降り立った部屋はごくごく普通の部屋だった。
どちらかと言えば現代日本によくある形の部屋であり俺にとって慣れ親しんでいると言えばそうなる。
どうやら、この空間はこの部屋以外にも部屋があるらしくそれらしきドアがある。
何故か押し入れもあるから、俺が思う以上に広い空間なのかもしれない。
『辿り着いたけど?』
俺はクリスティーネに対し念話で話掛ける。
『あははー。早かったですねー? 今お迎えしますねー』
彼女からの返事は早かった。
と、同時に押し入れの押し入れの扉がピシャっと開かれその上段からクリスティーネが顔を出す。
愛想笑いを見せると彼女は押し入れの中から俺の元へ向かう為床に向かって飛び降りる。
細身な女神である彼女ならばその着地の音は綺麗なモノであろうと俺は考えた。
だが、
ドスン!!! ベキベキベキバキバキ!!!!
物凄い音を立て、更に床に穴を開けたみたいだ。
その穴に身体の半分を埋めたクリスティーネが乾いた笑いを見せながら俺を見上げる。
「何この豚。おっと、いけない今の俺は悪役令嬢だったな。何でございましょうかこの醜い御豚様は」
俺の視界に映ったクリスティーネは、数時間前に見た細身の絶世な美女では無く、見るも無残に太り尽くしたお豚様だった。
クリスティーネなんて名前は勿体無い、今からお前は豚神グリズディーネだ。
「ううぅ、グリズディーネなんて酷いですよ。ああ、でもグリズリーが連想されますから私はお強い女神って事になれますね」
何故か前向きな考えを抱いているグリズディーネだ。
ああ、何故かデブは前向きって格言があったな、そう言えば。
「そんなものありませんよ。だって、仕方がないじゃないですーかー。田中さんが自我を戻すまで14年もあった訳ですし、そりゃー最初の1年位はこの世界を堪能して楽しめたんですけど。飽きちゃうじゃないですかー。飽きちゃいますしこの世界のご飯ってその、あまり美味しくない訳でしてー」
言い訳を始めるグリズディーネだ。
これは長くなりそうと言うか、俺はこの女神と会う度に長話を聞かされるのだけどそれは気のせいなのだろうか?
「あはは、それは女の子相手なら珍しくないですよー。気にしなくて構いませんからー」
確かに美女からの話なら聞けなくも無いが、豚神の話を聞いてやる程俺も暇じゃないな。
「うぐぐ、こう見えても私は女神様なんですよ? 良いから話の続きを聞いて下さいよー」
どうにもこうにもこの豚神様は人の話を聞かないらしい。
まぁ、そんな人間現代日本にでもよく居た訳だから今更特別鬱陶しいとは思わないが。
「そうでしょ、そうでしょー。それで、田中さんが住んでいた日本がありますよねー? 絶対にこの世界の食べ物より美味しい物が沢山ある訳じゃないですかー。それで神々ねっとわーくを使って日本の食事を取りよせたんですよ。そしたら物凄く美味しいじゃないですか?」
確かに日本の料理は美味しいが。
美味しいから食べ過ぎるのは分かる。
しかし、しかしだ、太り切ったおデブ女神が言い訳がましく延々と話をする。
百歩譲って数時間前の美人女神なら仕方がないで済ませられるが、おデブ女神にそれを聞かされる俺は段々とイラついてくる訳だ。
「左様で御座いますか。貴女のお気持ちはしかと心得ました。しかしながら、醜い御姿を目の前にさせられましたわたくしには、お腹の奥底から煮え滾る負の感情が芽生えていると存じ上げます」
グリズディーネより与えられたストレスを思わず言葉にしてしまう俺だ。
思いの他ストレス耐性が無いのか、はたまた数時間前に嫌がらせをして来た女神が悪いのか。
ああ、多分後者のせいだろう、うん、先に仕掛けて来たのはこの女神なんだから俺は悪くない。
「ううー。休暇中だから良いじゃないですかー? 休暇終わったらやせますからー」
相変わらず言い訳の言葉を並べる豚女神だ。
「そうですか。でしたら、女神クリスティーネ様。貴女の休暇は後何年残っているので御座いましょうか?」
俺は感情を抑えながら的確に指摘をする。
しかし、仮にも女神であるにもかかわらずここまで怠惰なのはなぜなのか気になるところだが。
「えっと、そのー。田中さんがこの世界で寿命を迎えるまでですよー?」
つまり後70年か? いやこの世界の医療技術を考慮すれば40年位かもしれない。
悪く見積もっても40年もの長い間こんな豚さんを視界に入れるのはまっぴらごめんだ。
ここまでのお豚さんでは奴が自慢する豊満のお胸さんに興味すら湧かず、ただただジト目を送る事しか出来ない。
一体何の罰ゲームなのだろうか?




