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悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2章「おっさん、ルチーナ・ファルタジナに転生する」
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5話

『田中さんー。記憶が戻りましたかー? 私が設定した通り作動したみたいでよかったですー』


 クリスティーネの声が聞えて来た。

 周囲を見渡してもその姿は無い。

 その声は、耳から聞こえる訳じゃ無く、脳に直接語り掛けられる感じだった。

 そんな事、日本に居た時に経験した事が無い何か気持ち悪い感覚だから多分そうなのだろうとしか思えなかった。

 

『そうですよー、念話ですよー。クリスティーネちゃんは女神様ですからねー』


 やっぱりそうだった。

 クリスティーネの反応から、俺が考えた事は伝わる様だ。

 さて、意識がはっきりしたのは良いけれど今の状態はどうなっているんだ?

 取り敢えず、見渡した周囲は広めの部屋で、多分畳12畳分位と貴族令嬢の部屋だけあってかなり広い。

 部屋のアイテムはベッドに身なりを整える為の鏡台、部屋の中心にお茶でも飲む為のテーブルが設置されている。

 壁には本棚があり、多分令嬢教育を目的とした本で埋まっている。

 けれど、そこに魔導書の類は無かった。

 確かクリスティーネはファイアーボール位使わせてくれる様な話をしていたのだけれども。

 他には自分の衣服を収納する棚がある位で、当然パソコンなんて現代の便利道具はある訳もないしテレビもラジオも無い。

 分かっていた事だが、この先暇を潰す為の手段に苦労させられる気がして来た。

 

 一先ず、今の自分がどんな状態か確認する為鏡台の前へと向かう。

 今分かっているのは2足歩行が可能である事、視線の高さも十分あるから10歳は越えているだろう位だ。

 さて、悪役令嬢となった俺の姿はどうなのかと俺は鏡の中を覗き込む。

 

「おお! これが俺なのか!? 滅茶苦茶美人じゃないか!?」


 鏡に映った自分があまりにも美しかった手前、思わず声を上げてしまう。

 それもそのはずで、鏡の前に映し出されたのは無気力なおっさんでは無く金髪碧眼の美少女だったからだ。

 名前は、ルチーナ・ファルタジナだそうだ。

 おや? 自分の名前がパッと出て来たな。

 一応、俺の意識が目覚める前この肉体が得ていた記憶は自分の脳に残っているみたいだ。

 自分が何をしたのか自覚していないが脳にはしっかりと刻まれている、何とも複雑な感覚だけど。

 髪の長さは肩位で身長は160cmで俺は今14歳、体型は普通でややモデル寄りとスタイルも中々宜しい様で。

 ただ、悲しい事にこの肉体は発育が宜しくないのかお胸さんの方は可愛いモノだったりする。

 多分、Bカップ位じゃないかなー、と。出来ればきょぬーさんが良かったんだけど、この時代に摂取できる栄養を考えたらそんなモノなのかもしれない。

 

『気に入って頂けましたかー?』

『満足満足、十分過ぎる』


 金髪碧眼の美少女もさる事ながら、ファルタジナ家が貴族の中でも非常に裕福であるのも満足出来る理由だったりする。

 ファルタジナ家は、タルティア国の傘下にあり領土の広さは25平方キロメートルっぽい。

 この数字は現代の日本で言えば、市の下位10%位に位置する。

 ただ、あくまで現代と比べてなので大体500年前の水準ならば十分過ぎる位広い領土と言える。

 これだけ広い領土にもかかわらず、土地は比較的超えているから作物を豊富に収穫する事が出来る。

 領内での生産性が非常に高い為、ファルタジナ家の収入は多く裕福な家で居る事が出来るのだ。


『うふふ、それは良かったですねー』


 妙にご機嫌なクリスティーネだ。

 なんと言うか、トゲが無くなったと言うか、転生する直前のSっぷりを感じないのは気のせいなのだろうか?

 

『そうですねー。女神だって長い御休みがあればご機嫌も戻るのですよー。14年間ゆっくりしましたしーまだまだ有給休暇は残っていますしー』


 成る程、女神も感情が備わっている以上は確かにそれもそうか。

 それは兎も角として、何故俺の意識をこの歳迄戻さなかったのか気になる所だが。


『おっさんの記憶を持っている人間が0歳児やら経験する事が可哀想と思ったからですよー。幼少期で身体能力や行動の範囲が狭い状況はつまらないと思いましたしー』


 ふーん。

 まぁ、クリスティーネが言う通りその年齢だと大方親の指導に従うしか無いからな。

 しかし、実はクリスティーネ自身何もしないで済む完全な休暇を作りたかったのでは? と疑ってしまうのは俺の性格も中々悪い方に傾いているのだろうか?


『そ、そんな事ありませんよー? 私正直者のクリスティーネちゃんは田中さんと違いますからー。そんなゲスで腹黒い考えなんてしませんよー』


 うん? 声のトーンが高くなった? 図星だったのだろうか?


『鋭いですねー。それだけ鋭いのにカノジョすら出来なかった事は不思議ですねー』


 否定しなかった。

 やっぱりご機嫌だとそんなモノなのだろうか?


『理想が高過ぎたのかもね、知らんけど』


 出来無い物は出来ない、出来なかったモノは出来なかった。

 大体、友達になるだけでも難易度高過ぎたんだ、それ以上の関係になれる訳なんか無かろうに。

 正直なところ、碧眼の美少女と言う肉体を手に入れた今、田中太郎時代に彼女が出来なかった事とかどうでも良くなって来ている。

 

『気持ちの切り替えが早いですねー。良い事じゃ無いですかー』


 またしても、俺の体感10分前のクリスティーネが言うとは思えない言葉だ。

 最もそのクリスティーネと出会ったのは3時間位前だから、本人の気分で言動が変わる、の範囲で収まるか。

 クリスティーネについて深く考えるのは止めた方が良いかもしれない。

 

『そうそう、それで良いんですよー、細かい事気にしてもハゲちゃうだけですからー』


 まぁ、その通りだろう。

 確かに俺は細かい事を考え過ぎだと思う。

 しかし、クリスティーネは何処に居るんだ? 念話の有効範囲は分からないけど、神ならこの星の何処からでも可能って事も有り得るが。

 

『大丈夫ですよー? 私は田中さんの近い場所を拠点にしてますからー』

『へぇ? 例えばこの部屋の天井裏とか?』


 俺は天井を見上げてみるが、誰かが侵入出来そうな入り口は見当たらなかった。


『惜しいですねー』

『惜しいのかよ、じゃあ、何処だ?』


 続いて壁を見渡す。

 例えば忍者屋敷みたいにくるりんと壁が反転して別の部屋に入れる仕掛けがあるかもしれない。

 いや、この建物の構造上隠し部屋があるスペースは無いからそれは無いな。


『ほらー、猫型ロボットで有名なアニメがあるじゃないですかー』

『ど〇えもんがどうかした?』

『それでー、タイムマシーンがありますよねー』


 つまり、そのタイムマシンの搭乗口がヒントなのだろうか?

 確か、主人公の勉強机の引き出しがそれだった覚え。

 って事は。

 俺は試しに鏡台の引き出しを開けてみる。

 引き出しを開けて中を覗き込むとびっくり、何処に繋がっているか分からない漆黒の闇が広がっていた。

 少なくとも、普通の引き出しで無い事は分かる。


『そこから私の居住エリアに入れますよー』

『分かった、試しに入ってみる』


 俺は、何処に繋がっているか分からない漆黒の闇の中へと飛び込んだ。

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