47話
「そう、嫌な事を思い出させて悪かったわ」
俺は冷静に子どもを慰めるが、
「居なくなったって、どういう事ですか?」
俺の考えを汲み取る余裕も無く、間髪入れずにステラたんが錯乱気味に尋ねた。
「あのねおねえちゃん。ともだちも、ともだちのおとうさんおかあさんもきょうだいもおうちからいなくなっちゃったの」
それでも、子供は涙を流しながらも必死になって言葉を紡ぎ出す。
見ているだけで心が痛くなってしまうが、今はそんな事言っていられない。
つまり、その友達は一家揃って奴隷として売られたか、或いは一族郎党皆殺しにされたか。
いや、居なくなったって表現をしている以上後者の可能性は薄いか。
どちらにせよ、この奴隷売買に衛兵が噛んで居るとみるべきか。
そうなると、それに関係している商人も居るしヤクザモノも居るだろう。
もしかしなくても、この村の治安は俺が思っているよりも悪いのかもしれない。
この家族は運良く彼等に目を付けられずにまだ生き延びられていると言った所か。
ここまで状況が酷過ぎるならばこの村自体見捨てるしかないのか?
食料も無い治安も悪い衛兵も腐っているとなると救い様が無いしそんなお金も人員も無い。
5000人を見捨てて195000人に託すか、いや他の村も似たような状況だったらどうしようもこうしようもない。
この領地で富んでいるエリアはどれだけあるのだろうか? 精々40000人分の村だろうか?
幾ら何でも160000人を見捨てるのは暴挙にも程がある。
今回税率を10%下げた事で耐え抜いた村だけ守るしかないのか? どうするべきなんだ、この状況。
「なんで、どうして、そんな事になったのですか?」
「わかんない、わかんないよ」
子供が大声を上げ泣き出した。
ステラたんに詰められたのが怖かったのか、思い出した事が辛かったのかは分からない。或いはその両方か。
「ご、ごめんなさい」
ステラたんがハッとした表情を浮かべる。
子供の大きな鳴き声を耳にした事で、感情的になって言い過ぎてしまったと気が付いたのだろう。
「事情は分かったわ。ステラ、詳しい事が知りたいのでしたら館に帰った後でお話します」
ステラ嬢が黙って頷くと、
「ルチーナ様。複雑な事が色々あると思います。けれど、せめてこの子達を救う事位出来ませんか?」
ステラ嬢が真っ直ぐな瞳で俺をみながら訴えかけた。
ステラ嬢は目の前のこの子達をどうしても助けたいのだろう。
別にステラ嬢の提案は間違ってはいない。
誰だって、とは言えないが善良な人間からすれば目の前に困っている人が居たら放っておけないしせめて助けたくなるのは真理だから。
「そうですわね。私も、ルチーナファルタジナ個人でしたら周りの人に内緒と告げ、細かい事は考えずにこの家庭をお助けしますわ」
勿論嘘だ。
こんな事をすれば1つの家庭が血祭りにあげられると予想出来る以上やる訳がない。
本物の悪役令嬢ならば、分かった上で餌付けをし、妬みの感情から襲撃して来た輩を悪者に仕立て上げ楽しむのだろうか?
世間からは弱者に施す優しき令嬢であるが、その本心は分かった上で1つの家庭を死へと導く悪魔の化身。
そんな人間、日本に居た時から珍しいとも思わなかったのだが、ふと考えてみると何だかおぞましい気持ちにさせられる。
あくまでそれは悪役令嬢の話であり、純粋無垢で心の底から優しい令嬢、ステラ・キルミールの場合、自分の善行の末路に精神が耐えられるかと言われたら多分無理と思う。
「でしたら、ステラ・キルミール個人としてこの家族を助けさせて下さい」
しまったな、俺の言葉を嘘と予想出来るだけの力がステラたんにはない。
余計な事を言ってしまったか。
「それは御止めなさい。この家族以外の住民が抱いた負の感情は、運が悪ければステラの身に降り注ぐ事になるわ。自分が施されなければ、それは負の感情となり他者を施す人間へぶつけられる。恐らくステラの身は無事じゃすまない。奴隷として売られれば良い方で命を奪われる可能性だってあり得る」
「そ、その時はサナリスさんが居ます!」
それでも引き下がらないか。
随分と正義感の強い令嬢だ。
とは言え、普段おしとやかな姿とのギャップが可愛さをより引き立てるんだけどさ。
「ふぇ? 私ですかぁ!?」
サナリスは、俺の時と違って任せなさいという言葉を吐かずにとぼけた様子を見せている。
罪の無い一般人を手に掛ける事へ何か抵抗があるのだろうか?
魔王の幹部だったにしては意外だけど。
「そうです。サナリスさんの魔法でお願いします」
「えっとぉ、そのぉ、クリスティーネ様からぁ、あまり派手な事はやらない様にって言われていてぇ……」
サナリスがしどろもどろになりながら答えている。
あのドS女神、俺が知らない所でサナリスに対して色々言っていたのか。
けれど、万が一の時俺を守る為に力を使うのは良いって事は女神としての仕事はしているのだろう。
「そこをなんとかお願いします」
ステラたんが改めてサナリスに頼み込む。
この家族を助けたい強い覚悟と信念を感じる。
「私の魔法って、狭い範囲の魔法しか無くってもしも多数の人間が押し寄せて来たら私がやられちゃうよ」
幾ら魔王軍幹部でも数の暴力には勝てないか。
「そうですか……」
ステラたんが小さくため息をついてがっくりと肩を落としたかと思うと、何かを思い出したのか俺の方をじっと見る。
「カボッチャムは目立ち過ぎますし、幾ら私達に敵意を向けるとは言え多数の犠牲者を出してしまっては他の村、他の領土、この国に目を付けられますわ」
「そうですよね……」
ステラたんが思い詰めた様子でもう一つ溜息をつく。
こうなると、ステラたんが勝手に個人的な行動を取る可能性が見えなくもないか。
念頭に置かないと不味いだろうな。
(サナリス、ステラが勝手な行動を取った時は、こっそり護衛について)
俺はサナリスに対し耳打ちをすると、
「ふぁい! ステラさんがルチーナ様の命令を無視して単独行動を取った際は、クリスティーネ様の命令に逆らいしっかりと見守ります! その時はルチーナ様のせいにしますから私の身に問題ありません!」
この場に居る全員がしっかりと聞きとれる声で答えるサナリス。
アホかコイツ。
いや、俺が言いたい事をしっかり拾った上でしっかりと責任は押し付ける。
腐っても魔王幹部だったって事か、それに関して頭が良いとは思うが、
えっへんとポーズを決めるサナリスを見てるとやっぱりコイツアホの子なんじゃねぇの?
と思わされてしまう。




