4話
「俺ってどの世界に転生して、どんな生活を送るのだ?」
俺の質問に対し、クリスティーネはビクッっと肩を震わせ、目を丸くさせる。
「え、えっとーその、あはははははは。田中さん、ナーロッパって分かりますかー?」
バレてはいけない事がバレたかの様に、妙におどおどとしながら説明を始めるクリスティーネ。
「知ってる。小説家にな〇う読者が理想とするファンタジー世界だろう?」
「それで、それでー?」
クリスティーネは少しばかり身を屈め、再び上目遣いをする。
先程心を打ちのめされた仕草だが、何だか嫌な予感が脳裏を過り頭が警戒モードへ移行しろと命令し、その誘惑を無効化させた。
「言い辛そうにしているが、一体何があるのだ?」
「あははー。田中さん? 貴族令嬢はお好きですかー?」
「残念ながら俺の異性に対する志向に貴族令嬢は無いが?」
何を妙な質問をするのだ? まさか、俺がその貴族令嬢とやらになれと言うのか?
貴族令嬢って一体何をするのだ? 適当に丁寧語垂れ流して適当に丁寧な応対してれば男達からキャーキャー言われて、あわよくば王子様を射止めちゃってはっぴーえんどって展開になるのか? うーん、それだとちょっとつまらなそうな感じがするけど。
「だ、大丈夫ですよ! 田中さんが転生するのは悪役令嬢ですから! 王道まっしぐらの純真でピュアな貴族令嬢じゃありません!」
俺の考えから何か、勝ち筋を見いだせたのか少々自信を回復させるクリスティーネ。
悪役令嬢ってーと、王道令嬢サマに嫌がらせをして云々かんぬんって役割のキャラかぁ。
正直なところ、俺は王道令嬢サマをいぢめ倒す趣味は無くってどっちかってーと悪役令嬢サマを更なる力でねじ伏せ……。
「田中さんー? 実は大人しそうで人畜無害で見た目はオタクそのものに近いのですけどー、実は真正のドSだったのですかー?」
俺の考えが予想外だったのか、クリスティーネが目を丸くしながら訪ねる。
「い、いや、その、なんだ、別に否定はしないが、かと言ってそんな女の子を井地め倒した事は無いぞ」
「ですよねー。田中さんハイ・ウィ。彼女作った事ありませんからねー。」
「おいちょっと待て、何で今更ハイ・ウィザードと言う単語を止めた? 何故今更無駄な気遣いをした? と見せかけて彼女作った事無いなんて傷口に塩を刷り込みやがった!?」
俺のツッコミに対し、クリスティーネは目線を天井に向けながら口笛を一つ。
「だってー。私Sですからー☆」
きゃぴっとした仕草をみせ可愛い子ぶるクリスティーネ。
「なんかシバキ倒したい気分にさせられたのですが、女神様相手ですので自重させて頂きます。はい。それで、話を続けましょうか」
感情を押し殺した結果、丁寧口調になった俺。なんかこう、泣くまでいぢめ倒してやりたいけど、やっぱり自重するしかない。いやでも、ここは天界だし。
「うふふふふー。 圧倒的なSに屈服される事は悪く無いのですけどー? 田中さんが異世界転生しちゃったらー私をしばけなくなりますよー? 良いのですかー?」
うっとりとした表情を見せながら交渉を迫るクリスティーネ。
いぢめ倒してやりたい気持ちが募る一方だが必死に冷静さを保つ。
「つまり、天才科学者で無く女神クリスティーネ様をご指名なされと言う事でしょうか?」
「えへへへへー? そうですよー? ほらほら、女神クリスティーネちゃんがご一緒するんですよー? 嬉しい事じゃありませんかー?」
異世界転生時に付属されるオプションとして自分を選ぶことを物凄いアピールをするクリスティーネ。しかし、これだけの美貌を持つ女神様が35歳のおっさんに対してこうも強く推す事に少し疑問に思う。幾ら何でも世界は広い、25歳のぴっちぴちなイケメンが死んでここに来ている可能性はほぼ100%だろう。異世界に同行するならその様な若いイケメンを選ぶべきと思うが。ここで一つの予想が成り立つ、まさかこの女神仕事をさぼりたいのでは?
ここまで考えた所でクリスティーネが割り込む様に口を開いた。
「はははははー。そんな事ありませんよー? 正直者で真面目な女神クリスティーネちゃんがそんな事する訳無いですよー? 最後に休みを貰ったのが300年前ですけどー? だからと言ってサボりたいと思った事なんてありませんよー? わたしは田中さんの為を思って提案しているだけですよー? 生前普通の男なら出来て当たり前なカノジョすら出来なかった可哀想なハイ・ウィザードの田中さんの為に美しき可憐でびゅーてぃふるな女神クリスティーネちゃんが付いて来てあげるのですよー?」
と、結構長い説明をしたクリスティーネだが、器用な事にこれだけ長い説明を一切感情が籠らない誰が聞いても一発で分かる棒読みで言ってくれた。
つまり、300年も休んでないから少し位休ませろと言う事で俺を口実にサボる胎みたいだ。とは言え、300年も休んで無いとかブラック企業もびっくりと言うか人間の寿命越えて働かされ続けているならば、例えそれがサボりであろうが少し位休んでもやむを得ないとも思える。むぅ、仕方無いそこまで過労状況であるなら真意に気付いていない事にして異世界転生のオプションを女神クリスティーネ様にしよう。
転生先に関しても、女神様が休みを取る為に必要な条件なのだろう、まぁ生前小説界隈で流行っていたジャンルである悪役令嬢として生まれ変わってみるのも面白いかも知れないと考えれば否定する程のモノでも無いだろう。
「分かった、その条件での異世界転生を頼む」
「やったー☆ 有難う御座いますー☆ ではではーここにサインをお願いします☆」
クリスティーネはウィンクを見せニコっと笑顔を見せるとサインが必要な書類を俺に差し出した。俺はクリスティーネに言われるままサインをし、彼女に返した。
「えへへー。ではでは、異世界転生の術式を発動させますー」
クリスティーネが立ち上がり、魔法の詠唱の様なモノをしたかと思うと俺とクリスティーネの中間地点を中心に地面に白い魔法陣が描かれた。
それが完成したと思った瞬間、魔法陣から二人を球状の白い光が包み込んだかと思うと俺の意識はそこで途切れたのであった。多分、異世界転生に成功したのだろう。