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34話

 だが、正体がバレかけているがまだ誤魔化せば何とかなる可能性はある。

 と俺の考えとは裏腹に男達が一斉に深々とした丁重なお辞儀を始める。

 どういう事だ? 俺達に明確な経緯を示している以上盗賊である可能性は0に近いが。


「先程は無礼を失礼した。どうかご許しを願いたい」

「いえ、その様な事は御座いませんわ」

「寛大な処置に感謝する」


 そんな大袈裟な。

 と言いたいが今の俺は領地を治める貴族の娘である以上彼等の対応は当然なのか。

 下手をしなくても、今の俺の立場では彼等を打ち首かなんかにする事も出来るか。

 いや、そんなつもりはないのだけど。


「それで、貴方達は何をなさっているのでしょうか?」

「はっ、申し訳ありません。我々は紅の翼と言う名称のレジスタンス組織の下活動を行っております」


 レジスタンス? つまり領主に叛逆を企てている事になるが。


「おい、お前、幾らルチーナ様やステラ様相手とは言えそこまで馬鹿正直に言うな」


 男が小声で注意している。

 確かに、俺達は叛逆する領主と近い階級である貴族だ。

 その情報が彼等の領主に流れてしまえば自分達の命が危うい。


「すみません、ステラ様もルチーナ様も悪に見えませんし、キルミール家もファルタジナ家も善政を敷いている手前ついうっかりと」


 彼の言う通り、俺の両親もステラ嬢の両親も領民に対して悪政を敷いていない。

 そりゃ、平民と比べて裕福な生活を送れる程度の取り分は得ているが、決して領民の富を根こそぎ奪うなんて真似はしていない。

 だが俺達が今いる場所、確かアーブラハム家は領民に対してその富を限界まで巻き上げて居ると聞く。

 領民は食うもギリギリ、いや、食うも困る位の搾取をされている噂を聞いた事がある。

 それ故に、止む無く年端も行かない今の俺よりも小さい子ども達も労働力にされる。

 いや、それよりも酷い身体を売り生計を建てる者、それでも税を納められない場合は子どもを奴隷商人に無理矢理買い取らせるなんてうわさも聞いた事がある。

 何とか助けてあげたくなるところだが、俺が干渉する事はアーブラハム家に喧嘩を売るとほぼ同じだ。

 間違い無くファルタジナ家が目を付けられ父上や母上に迷惑が掛かるだろう。

 もしもこの問題を解決できるとするならば、領主よりも強い権力を持つエリウッド王子だ。

 しかし、だからと言って迂闊に首をつっこめばややこしい事になりかねない。


「何かお困りごとが御座いましたらわたくし達が手を貸します」


 俺が悩んでいると、ステラ嬢が彼等に言った。

 心優しき14歳の少女であるステラ嬢ならば自然の反応だろう。


「おお! 何と有難い事」

「いや待て! 罠かもしれないぞ!」

「ステラ嬢の目を見てみろ! そんな事あるか!」

「うるさい! ステラ嬢を操っている人間がいるかもしれないだろ!」


 一見すれば、人の善意を踏みにじっている、しかも貴族令嬢の善意を踏みにじるなど何事だ、と思うかもしれないが俺としては反対している男の意見が正しいと思う。

 社会の闇、人間の裏を知らない無垢な少女を操り相手の情報を引き出すと言うのはスパイ活動を行う為の択の中にある。

 だから、レジスタンス活動を行う人間がそれを警戒するのは当たり前と思って良いと俺は考える。

 だからと言って、全てのレジスタンス員が俺と同じ考えを持っている訳でも無い。

 慎重な人間も居れば大胆な人間も居る訳で、後者ならば俺達への無礼を気にする事も致し方ない。

 ここは自分が止めるしかないと判断し、俺は一つ咳払いをして、


「あなた方がレジスタンス活動を行っている以上わたくし達を警戒する事は正しい事と思いますわ。ですが、次の一歩を歩む為わたくし達に対しリスクを背負う事も重要ですわ」


 俺の言葉を素直に受け止めてくれたのか、レジスタンスの男達は言い争いを止めた。


「分かった。ステラ様とルチーナ様を信じさせて頂く」


 続いて、男の口からアーブラハム領の現状について説明された。

 内容は俺が把握している噂通りだった。

 話の中で、他のレジスタンス員の内男二人が唇を噛み締めうつむき、女の一人がしゃがみ込み手で目を覆い、声を抑えながら涙を流し始めた。

 多分彼等の子どもは無理矢理奴隷商人に買い取られたのだろう。

 何とも胸糞の悪い話で、彼等の子どもの末路を想像するとアーブラハム領主に対する怒りが込み上げて来る。

 彼等の活動内容の話になるが、主に奴隷を扱う悪徳商人を標的とし、状況次第では命を奪う事すらためらわず領民から不当に巻き上げたお金を回収しレジスタンス員の故郷にお金を送っているとの事だった。

 彼等の事情は大方分かった。

 しかし、ただの貴族令嬢に過ぎない俺が何か出来る事も提案できる事も無さそうだ。

 精々自分の小遣い内で食料支援等を行う位だが、見た感じレジスタンス員が飢餓に苦しんでいる様子も無いし、故郷にお金を送る余裕があるなら自分達の食料が不足している可能性は無さそうで、俺が食糧支援をする意味は0に近そうだ。

 俺が彼等に対し投げかける言葉を思案していると、キィッとドアが開かれる音がした。


「誰だ!」


 男達が一斉に声を上げる。


「WHAT? ルチーナよ、客人を招いたのかい?」


 突然この部屋に現れたのは、先程まで上空でペガサスに乗って遊んでいたエリウッド王子だった。

 この状況下で来てほしく無かったが、こればかりは仕方が無い。


「いいえ。彼等はこの館の住人ですわ。ワケあってこの廃館を寝床にしていますわ」


 俺は彼等がレジスタンス員である事を伏せ、エリウッドに説明する。


「おいお前、ルチーナ様を呼び捨てにするとはどういう事だ!」


 男の1人がエリウッドに抗議する。


「おい、待てよ、この美しい顔立ち」

「ま、まさか!? え、エリウッド王子様!?」


 突然乱入した男がエリウッド王子と知った男達は地面に膝を付け、今の無礼を含め土下座をする。


「HAHAHA。気にする事無いSA。ところでルチーナ、面白そうな事をしているじゃない? 君達も一緒にどうだい?」


 エリウッドは、テーブル上に散らばったトランプを指差しながら言う。

 このままトランプパーティでも行ってお茶を濁す手もあるが、俺の権限を越えた案件を抱えているならば素直にエリウッドに言う方が正しいか。


「いえ、エリウッド様。この者達は難しい問題を抱えています」

「SO? 何があったんだい? この僕に言ってごらんYO」


 エリウッドは両手を広げ俺の話の続きを促す。

 王子をやっている事は伊達じゃないのか、と俺は彼を頼もしく思いながら感心する。

 俺は彼等の状況をエリウッドに説明した。


「FUM。アーブラハム領は僕も良くないと聞いた事がある。BUT大臣達は必死に隠し僕に勉強や鍛錬の話に逸らしていたのSA」


 つまり、大臣の内誰かがアーブラハム家と裏で繋がっている疑惑が立つ。

 となると、アーブラハム家から内々に賄賂を受け取り領内で発生している事態に干渉しない可能性が見えて来る。

 で、俺は前世の時から悪党に関して良い感情は持っていない。

 悪党の悪行が近くで行われている事を知らされた俺は段々と彼等を成敗したい気持ちが強くなって来た。


「エリウッド様。彼等にご協力して頂けると幸いであると存じ上げます」

「HAHAHA。僕に任せるのSA」


 エリウッドは、ドンと自分の胸を叩いてみせる。


「感謝致しますわ」


 俺が感謝の言葉を述べると同時に、レジスタンス員から歓喜の声が上がった。


「さぁ、早速行って来るNE」


 エリウッドは、美しい笑顔を見せると俺達の前を後にした。

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