32話
「ちょ、ちょっと!?」
なんと、ステラ嬢の凍て付く視線は冗談抜きに凍て付いており、俺の全身を氷漬けにさせてしまった。
「なんびとたりとも私のルチーナ様に手を出すのは許しません」
ステラ嬢は、まるで王女ステラの魔力が呼び戻されたかの様な威圧感でサナリスを威圧する。
「わひぃぃぃぃっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁぁい! 晩御飯のたくあんを差し上げますから命だけはぁぁぁぁぁ」
ステラ嬢からの痛烈な威圧感を受けたサナリスは、ばぴゅーんと音を立てながら俺から離れ、やっぱり壁に激突し、ぺふっと音を立て地面に崩れた後頭を抱えガクガクと震え出した。
「たくあんで御座いますか、大根を漬け込み作られる保存食。分かりましたそれで手を打ちましょう」
ちょっと待ってステラ嬢!? たくあんって、米を食べればほぼ確実に出て来る非常に安価な食べ物ですよ? それで良いんですか?
と言うか、二人は何でたくあんを知っているのだ? 竜の冒険だってファンタジー系RPGな訳であって日本っぽいエリアは無かったと思うけど? まさか、王女ステラを演じているときに異国の特産品としてたくあんが食卓に並べられたとか? あり得ない話じゃないが?
いや、竜の冒険には和風の国もあったからそこから入手した可能性はあるか?
「わひぃぃぃ有難うございますぅぅぅぅ!?!?!?!?」
ステラ嬢より許しを得られたさなりすは、瞳をぐるぐるさせながら感涙し、口元をぶるぶるさせながらステラ嬢に縋りついた。
ステラ嬢とサナリスは無事和解したみたいだ。ならば、氷漬けになっている俺を治して欲しいんですが、段々と体温が低下していくのを肌で感じ、このままでは凍死してしまうんだけど。
「サナリス様。たくあんも無事確保出来ましたし、ルチーナ様の氷漬けを解いてあげて下さいませ」
「分かりましたっ」
にこやかに伝えるステラ嬢とそれに応対し、唇を尖らせ敬礼をするサナリス。
たくあんに賭けられた俺の生き死に。
俺の生死は妙に安いと思いながらもサナリスが魔法を完成させる様子を静観する。
「ルチーナ様!」
サナリスが、完成させた炎魔法を俺に発動させ凍結状態の解除を試みる。
神聖魔法により凍結状態を解除する訳で無く、炎の魔法により凍結状態を解除ところからサナリスはヒーリングと言った傷を癒す神聖魔法を扱えないのだろうが、魔王軍に所属していた手前仕方が無いだろう。
間違って俺の身体まで焼かないか心配なところであるが、俺の身体を覆いつくしていた氷が解け尽くした所でサナリスが放った炎の魔法は消えた。
魔法の力加減が最適であり、流石は魔王の側近を務めていただけある。
「サナリス、感謝致しますわ」
「えへへ、大した事ありませんよぉ」
俺に礼を言われたサナリスが嬉しそうにデレデレする。
と同時に、ステラ嬢から何処か冷たい視線を感じるが。
「おーほっほっほっほ。優秀な我が部下魔将サナリス、謙遜なさらずとも宜しくてよ」
ステラ嬢から感じた気配のフォローとして、サナリスが持つ俺への感情は上司と部下の間柄であるとステラ嬢へ伝えたつもりだが。
「そうでありましたね、ルチーナ様」
しかし、ステラ嬢は納得した言葉とは裏腹にムスッとした表情をして見せる。
どうやら俺とサナリスは特別な関係で無い事をステラ嬢は汲み取ってくれたみたいだ。しかしステラ嬢のムスッっとしながらも渋々と承諾する表情も見ていて可愛く見える。
「では、参りましょう」
無事、場の落ち着きを取り戻した所で俺達はカボッチャムから地面に降り立った。
エリウッドにも廃屋へ向かう旨を伝えようと空を見上げ、それらしき物体を指差しながら声を出す。
しかし、エリウッドの乗るペガサスは上空で自由気ままに飛翔している為降りてくる気配はない。
まぁ、どうせ飽きた頃にやってくるだろう。
待つのも面倒だし、と俺はカボッチャムに魔法を掛け元のカボチャに戻し、3人で廃屋へと向かう。
10分程歩くと、年期の入った建物が視界に広く映った。
「年期の入りました建物で御座いますね」
ステラ嬢が少々驚きながらも言う。
貴族令嬢として育ったステラ嬢はこの様な廃屋を見るのは初めてなのかもしれない。
この建物、人が住まなくなってから10年は放置されているのだろうか?
いや、建物が劣化し始めている割には建物を這うかの様に発生する植物の姿が無い。
誰も住んで居ない廃屋は、大体植物が建物を侵食するかの様に生い茂るハズなんだけど。
しかし、それはあくまで日本に居た時の知識から広がる推測である為、この世界に同じ様な植物があるとは限らない。
仮に誰かが住んで居たとしても見付けた瞬間逃げれば特に問題無いだろう。
最悪最低の状況になってもサナリスの魔法で何とか出来る。
後始末は、ファルタジナリングの力でどうにか出来るだろう。
「中に入りましょう」
俺は皆に合図し、建物の玄関である古びた木製のドアを開け中に入った。
玄関を開け中に入ると、外から差し込む光以外は見受けられなかった。
建物が広いせいか、外部からの明かりだけでは少々暗く感じ、内部で何かしらの明かりを灯す必要があるが、明かりが灯されている気配がない。
一応警戒はするが、中に人が居ないと考えて良さそうだ。
玄関から中に進むには何かしらの明かりが欲しいと思うのだが、懐中電灯みたいな文明の利器も無い。
しかし、それでも一般的な照明の豆電球よりも明るいなら目を凝らして進んでいけばなんとかなりそうだ。
「ルチーナ様!」
と考えていたら、サナリスがニコっと笑顔を見せながら俺を呼んだ。
振り返ると、サナリスの頭上に拳より少し大きな炎の玉を浮かべていた。
これで周囲の明かりが確保され、廃屋内の探索が楽になりそうだ。
「あらサナリス。気が利きますわね、丁度暗くて困っていましたのよ」
俺がサナリスに感謝の意を見せると、ステラ嬢が頬を小さく膨らませてソッポを向いた。
どうしたのだろう? と少し気になるもそんなステラ嬢を可愛らしいと思いながら、俺達は廃虚の探索を開始した。
さっくりと探索を始めたところ、今自分が住んで居る建物が劣化した感じか。
壁や柱が少しばかりぼろくなっている。
崩れる心配はないだろうが、見た目は悪い。
壁に掛けられた絵画らしきものもさび付いた枠からそれと推測が出来るだけで肝心の絵は風化しており何が書かれているのか分からない。
「部屋に辿り着きましたわね」
建物の劣化を感じる廊下を進みてリビングに辿りつく。
リビングの中は、風化していた廊下から一転し今までの様に劣化している気配は見せていない。
壁や柱は経年劣化により色あせていると感じるがぼろいと思う事は無い。
また、部屋の角には正方形のテーブルと周囲を囲む8脚の椅子が設置されている。
パッと見る限り座った瞬間に壊れるとは思えない。
誰かが手入れをしているのだろうか?
いや、このテーブルも椅子もほこりを被っていないな、これは誰かがここに住んで居るとほぼ断定して良い。
この廃館を誰が住みかにしていると少し気になったが、取り敢えずは座ってから落ち着いて考え直そう。
俺は部屋の角にあるテーブルと椅子の耐久性を確認し大丈夫と判断し座り、ステラ嬢とサナリスも同じく座った。
「やったー☆ ルチーナ様! けいはんざい法1条を破りましたね」
大した事では無いが、嬉しそうな声を上げるサナリスだ。
無邪気にはしゃぐサナリスの姿を見ていると思わず自分も嬉しくなってしまうが、コホンと咳払いをし、平静を取り戻す。
「そうですわね。軽犯罪法第一条『人が住んでおらず、かつ、看守していない邸宅、建物または船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者』を無事違反しました。これでわたくしは悪行を1つ遂行する事が出来ました」
「ルチーナ様、おめでとう御座います」




