31話
「ルチーナ様。素敵ですわ」
「ベッドもありますよ☆」
二人が言う通り、カボチャの中は素晴らしく快適そうな構造だった。
ざっくり説明すると大体6畳位の広さで中々良いレベルの一般的な部屋だ。
サナリスが言う通りふかふかのベッドも1台あり4人分のテーブルと椅子も用意されている。
しかもなぜか窓もあり外の眺めを堪能する事も出来るみたいだ。
うーむ、見た目と違って素晴らしい性能なカボチャだ。
しかし、こんなものを動かせばこの世界じゃなく日本でも滅茶苦茶目立って凄まじい事になりそうだ。
(ここからコックピットに?)
ベッドの反対側には1つ上の階層に行ける梯子が掛けられていた。
俺はその梯子を上り上の階層を覗いてみると、思った通りこの人型起動兵器と化したカボチャ、いや面倒だ、名前はカボッチャムで良いだろう。このカボッチャムを操縦する部屋があった。
ざっと見た感じ左右のレバーで方向を操作してアクセルとブレーキを使って前進するみたいだ。
あくまで人を乗せる為の性能かそこまで複雑には見えない。
目的地まで50km位あるんだよなぁ。
原付でかっ飛ばしてって言いたいけど森の中走る訳だから最悪ぬかるみにはまって動けなくなるまであり得るし何より精々頑張っても二人しか乗れない。
ならばコイツを使って目的地まで行くのが無難か。
「皆様出発致すますわ」
カボッチャムの内部をざっくりと把握し終えた俺は、コックピットから顔を出し住居エリアに居る二人に告げる。
うん? なんだ? ステラ嬢とサナリスが椅子に座りながらテーブルの上で何かやっているぞ?
「えへへ、フルハウスです☆」
フルハウス? ああ、ポーカーをやっていたのか。
フルハウスは強い役だからな、完成すればまず勝てる。
サナリスもそれを分かってかニコニコ笑顔で手札を公開した。
「まぁ、素晴らしいですわ」
フルハウスと言う、大体の漫画では勝ち確定の手役を見せられたにもかかわらず、いつも見せる柔らかな笑顔でサナリスに対応するステラ嬢。
負け試合でも対戦相手に笑顔を見せられるステラ嬢の素晴らしさに思わず魅せられてしまうが。
「サナリス様、失礼致します。ストレートフラッシュで御座いますわ」
ステラが一度丁重にお辞儀をした後手札を整え公開、そこにはスペードの5~9が並べられていた。
って、フルハウスに勝てる役が揃っていたのか! フルハウス様もヒロイン補正の前では勝て無いと言うか何というのか。
「ふ、ふえぇぇぇぇぇ。ステラ様、竜の冒険の外でも規格外の強さなのですかぁぁぁ」
サナリスは、目を丸くしながらあわあわとした後がっくりと項垂れた。
「いえ、偶然運が巡って来ただけで御座います」
ニコっと笑顔を見せ丁重な応対をするステラ嬢。
「つ、次は負けませんから!」
サナリスが鼻息を荒くしながらリベンジを申し立てた。
ま、このままカボッチャムを動かして目的地に向かっても問題無いだろう。
多分今頃上空に居るエリウッドに関しては、空を飛んでいる以上よっぽどのアホでない限りこちらに追従するだろう。
よっぽどのアホでない限り。
俺は再びコックピットに戻りカボッチャムを動かす事にした。
俺がパネルを操作すると、カボッチャムはズシンズシンと音を響かせながら目的地へ向かう。
(それにしても、この辺りは寂しい土地だな)
俺の視界には、整地がされていないと考えられる草原が広がっている。
もしかしたら野生動物が歩いているかもしれないが、明確に獣道と言える道はあまりない。
開拓が進んでいないのか、或いは痩せた土地だからか分からないが、田畑らしきものも視界に入らない。
カボッチャムに乗り、低い草木を踏み鳴らしながらふと日本の事を思い出す。
日本の田舎は、田舎と言えど発展自体はしているのだな、と。
日本では当たり前の様に敷かれたアスファルトで舗装された道路、それだって今俺の目に映る草木が広がる世界からすれば都会なのだろう。
景色の流れる速度から、今現在時速50km位の速度で移動していると思える。
これ位の速度、普段乗っていた車が出していた速度と酷似している。
似た様な速度で今現在移動しているのだが、日本の時とは違いその速度を妨げる要素が何一つとして無い。
信号も無ければ前を走る車も居ない、後ろから速く走れと圧を掛ける車も居ない。
前方から急に飛び出す歩行者や自転車も存在しない、必要以上に気に掛けさせられる要素も無く快適に目的地へ向かっている。
注意する要素が0に等しい今、あまりにも快適故に少しばかり眠気が襲ってきてしまう。
小さくあくびをした俺は、僅かに生じた涙を指で拭うと小さく首を振り眠気に負けない様小さく首を振った。
カボッチャムを発進させ、そろそろ30分位立っただろうか?
前方に映る景色は草原から、人間から見れば背丈の十分高い樹々が群生する森へと変化し始めていた。
俺が調べた情報によると、この森を進んだ先に例の廃屋が存在している。
この廃屋は、何十年か前にここら一帯を治めていた貴族の館らしいが、領土自体は狭くざっと見た限り農作物を作るのは難しそうなエリアだからかしらないが没落してしまったとの事。
また、立地が立地である為に他の貴族がその館を拠点にすると言う事は無かったらしい。
更に30分、俺は出来るだけ周囲の樹を倒さない様に注意を払いながら森の奥を進む。
カボッチャムの接近に対し危険を感じた鳥達が、樹々で羽を休める事を中断し飛び立つ姿をよく見かけた。この辺りには多数の鳥が生息しているのだろう。
恐らくは猪や熊と言った動物も生息して居そうだが、残念ながらカボッチャムのコックピットからそれらの動物を視認する事は難しく、稀にそれっぽい物を見つける位しか出来なかった。
(あれかな?)
合計で1時間と少し、カボッチャムで移動した所で目的地の廃屋が視界に映った。
無事目的地の近くに辿り着いた俺は、カボッチャムを停止させコックピットから客間にあたる部屋に居るステラ嬢とサナリスの元へ向かった。
二人はこの1時間ずっとポーカーをやっていたらしく今も対戦中の二人に、俺は目的地に着いた旨とカボッチャムを降りる事を伝えた。
俺の言葉を受け、相変わらず柔らかな笑顔で応えるステラ嬢と、目をぎゅるぎゅるさせながらなんか泣きそうな気がしなくもないサナリス。
サナリスを見ると、この1時間でどれだけ負けたのか気になる所で、これでもしも何かを賭けていたとするならばどうなっていたのだろう? と少しばかり気になった。
「るちぃなさまぁぁぁだずがりまじたぁぁぁ」
まるで俺の事を奇跡の救世主とでも言わんばかりに、サナリスがパっと表情を輝かせると俺に飛び付いた。
その瞬間、柔らかな笑みを浮かべていたステラ嬢より絶対零度とまでは言わないが氷点下100度位はあるだろう凍て付く視線を、俺に鋭く突き刺した。




