30話
翌朝。
ファルタジナ邸敷地を出て少しの場所に、俺とステラ嬢とエリウッド王子とサナリスが集まった。
皆の集合を確認した俺は、昨日調べ上げた情報を元に作戦の説明を始めた。
「わたくしが調査致しましたところ、ここから南西に50km向かった森の中に誰も住んで居ない廃屋がありました。この廃屋内に、不当に潜む事で軽犯罪法第一条、人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくて潜んでいた者。を破らせて頂きます」
俺が説明すると、サナリスは瞳を輝かせ拍手をし、ステラ嬢はにっこりと笑い肯定の意を示す頷きをし、エリウッドは歯をキラリと輝かせサムズアップを見せた。
「それでは皆様、先日クリスティーネより至急された乗り物を取り出しますわよ」
俺はファルタジナリングを使い、収納ボックスに入れられた乗り物を確認する。
【収納ボックス(ルチーナ)】
→くりすてぃーね特性原動が付いたすーぱーすぺしゃるな自・転・車☆(リミッター解除)×3
くりすてぃーね特性原動が付いた自・転・車・☆用ヘルメット×99
くりすてぃーね特性原動が付いた自・転・車・☆乗車用ゴーグル×1
その他アイテム沢山
なんだこの長ったらしい名前のアイテムは……って名前が長いだけでただの原付かよ!
しかも何故か3台? ヘルメットに至っては……なんで99個あんだよ! 原付にそんな人数乗れねぇってか日本では二人乗りすら禁止やぞ!
クリスティーネの野郎、ナーロッパと言う世界観にそぐわない物を入れるなんて事しやがる! と言いたいが、原付って移動手段としては凄い便利なんだよな。
まぁ、仕方無いここは有難く使わせて貰うとしよう。
続いて、3人が支給された乗り物を確認するが、
「HAHAHA。素晴らしいNE。まさに私は白馬の王子SA」
「すごい、すごいですよ!」
エリウッドが支給されたのは白い馬だった。
彼の言う通り白馬の王子である事は否定しない、キャラは兎も角イケメン王子で白い馬に乗っているのだから。
でもな? よくよく見ると、その馬に天使の様な翼が生えているんですけど? あの、この世界はあくまでナーロッパの中でも悪役令嬢が活躍する世界であって剣と魔法のファンタジー世界じゃないんですが?
どうしてそんな世界で、俺が持っている知識上ペガサスと呼ばれるお馬さんが居るのですかねぇ?
「エリウッド様? くれぐれも空を飛ぶなんて目立つ事はなさらぬ様に」
「Oh! ルチーナ嬢、この馬は空を飛べるのKA!?」
俺の指摘を受けたエリウッドだが表情を輝かせ、さっと空を見上げた。
げっ、余計な事言っちまった。エリウッドは、馬に翼が生えている=空を飛べると思っているだろうと思っていたが、この世界の住人からしたら、ペガサスなんて想像上の馬など知らぬ以上、ペガサスの様に見えた馬にまたがったところでそれが空を飛べる、なんて発想に至らないよな。
「さぁ? 分かりませんわ。しかし、もしも馬に乗り空を飛ぼうものなら国中で大騒ぎになりますわ」
「HAHAHA。望むところSA、王子であるこの私が目立つのは光栄だNE」
逆効果だった。
エリウッドの言葉に対し、ペガサスがその意志を汲み取ったのか、ひひーんといなないた後に天高く飛翔、そのままここら一帯の空中散歩を始めた。
続いてステラ嬢に用意された乗り物を確認しようか。
俺はステラ嬢の方に視線を向けると、
「ルチーナ様、これはどの様に致せば宜しいのでしょうか?」
丁度目を点にしながらステラ嬢が俺に尋ねて来た。
近くを見ると、大きなカボチャに、魔法のタクトと思われる金属製じゃないかなぁと思われる棒が地面に転がっていた。
まさかこれは童話シンデレラの物語上に出て来た、魔法の力で作られたカボチャの馬車と同じか?
と考えた所で、カボチャの横に説明書らしき物がある事に気が付いた。
俺は説明書を拾い上げ目を通すと、思った通りシンデレラに出て来たカボチャの馬車と作り方が同じである事を知る。
「っておい! 何でハツカネズミまで用意せなあかんねん!」
童話シンデレラそのまま、魔法の力で馬車を引く馬を確保する為にハツカネズミまで用意しなければならない事を知った俺は、思わず説明書を地面に叩きつけながらツッコミを入れてしまった。
そんな俺の姿を見て、魔王ルチーナを知っているサナリスは兎も角、ほぼ悪役令嬢ルチーナしか知らないステラ嬢は驚いた表情を見せる。
「ルチーナ様如何なされました?」
ステラ嬢が心配そうな声で俺に尋ねる。
「ステラ嬢。失礼いたしました。わたくしとした事がついつい取り乱してしまいましたわ」
俺の言葉に対し、ステラ嬢はやはり柔らかな笑顔を返す。
何の脈絡も無く声を荒げた俺に対してもそんな対応を見せるステラ嬢は何度考えても優しいと痛感させられる。
しかし、カボチャの馬車か。
普通の馬車位なら父上に対し猫撫で声をしながらお願いすれば借りる事位可能と思うが。
まぁ、でも両親と不要なコンタクトを取る必要が無くなると考えればこれはこれで有益な事か。
折角だから試しにカボチャの馬車を作ってみようじゃないか。
俺はカボチャを馬車にする為、魔法のタクトを拾い右手をかざしそれっぽく、クルクルさせた後思いっきり振りかざす。
「どっせーーーーい!」
魔法を発動させる為の掛け声を、剣士が斬撃の時に発生する様な声にしてしまう。
これはきっと魔王ルチーナをやっていたせいなのだ、魔法の杖を使った記憶は無いがそういう事にしよう。
幸い、掛け声とかどうでも良いらしく魔法のタクトの先から黄色の光が溢れ目の前のカボチャに降り注いだ。
魔法の光を浴びたカボチャはぐんぐんと巨大化し、中身をくり抜けば4人位入れそうな大きさになった。
馬車のボディとしては十分だろう、次は車輪辺りが生えて来そうであるが。
俺は固唾をのみカボチャの行く末を見守る。
だが俺の予想とは裏腹にカボチャは、
「ちょっとこれはどういう事ですの!?」
にょきにょきにょきっと足が生え腕が生え、何かそれっぽい頭まで生え。
全長10M位の大きさで、まるで人型機動兵器みたいな造形となった。
丁度人を搬送する為の人型起動兵器に見えるが、そんな話聞いた事が無いぞ。
いや、問題はそこじゃない。
人型起動兵器だったら馬に引っ張られる必要は無いだろ! 何で説明書に、馬にする為のはつかねずみを捕まえましょう書いてあんだよ!
『それはねー。竜の冒険で魔王をやったからだねー。竜の冒険の中で保有していた魔力の一部が田中さん本体にも少し引き継いだみたいなのよー』
クリスティーネだ。
つまり、魔王ルチーナをやったお陰で魔力が継承され想定外の事が起こったと。
俺は試しに、地面目掛け氷魔法を放ってみるが残念ながら何も発動しなかった。
魔王ルチーナの魔力の内、何がどれだけ今の身体に継承されたか詳しい事は分からないが今はこれ以上気にしても仕方ないだろう。
人型起動兵器と化したカボチャに対し、俺は半ば呆れかけているのだが、ステラ嬢とサナリスは瞳をキラキラと輝かせ人型起動兵器と化したカボチャを眺めている。
「試しに乗ってみますわよ」
どう見ても中に入りたそうにしている二人を見た俺は、中に入りたいと念じながらかぼちゃに向け魔法のタクトを振るった。
タクトの先から放たれた魔法は人間で言う股の部分に辺り、カボチャの一部がぱかっと割れ中から階段が現れた。
構造上最適だと分かりつつ違和感出しかないが、俺は二人と一緒にかぼちゃの内部に入る為階段を昇る。
いや、別に狙った訳じゃないぞ? 魔法の光が勝手にそこに向かっただけだからな?
人型起動兵器と化したカボチャの中へと続く階段を昇り終え、内部に入ると階段は自動的に格納され出入り口は閉められた。




