21話
どだだだだだだ!!!!
と壁に向かい派手な音を立てダッシュ。
あまりにも慌て過ぎたのか、壁に辿り着いても止まる事が出来ず、左の壁にゴツン。
頭を抱えながら疾走し右側の壁にゴツン、頭を2度打ちふらふらくらくらしながら部屋の角に辿りつくと頭を抱えしゃがみ込み、ガタガタと小刻みに身体を震わせた。
「はわわわわ、あわわわわ。許してください何でもします、今日のカレーライスの福神漬けも人参も玉ねぎもじゃがいもも全部あげますから許してくださいいいいいいいっ」
いや、肉はあげないのかよ。
「まぁ、HPの25倍の攻撃を受けたならそうなるわな。俺はステラ王女を部屋に連れていく」
俺は、ステラ王女をお姫様抱っこしたまま地下室へ向かう。
道中、魔族達に見付かり、とーーーーてつもない哀れみに満ちた視線を四方八方から受け、何をどうあがいても大レ○魔王ルチーナ様の汚名を被される事は免れなくなる。
うるさい、うるさい、うるさーーーーい。
汚名は挽回するもんじゃボケェッ! この程度の汚名、ルチーナ様にとっては蚊に刺されるよりも痛く無いわっっっ!!!!
汚名などナンボでも来い! 今の俺は魔王だからなあぁぁぁぁぁっ!!!!
どうしようもなくなった俺は完全に開き直ったのである。
地下に辿り着いた俺は、比較的よろしい部屋にステラ王女を案内しここに軟禁されてもらう事にした。
ステラ王女はもっとひどい部屋を案内されると想像していたのか少々驚いていたが、幾ら囚われの身とは言え愛しきステラたんを劣悪な環境に於いてしまうのは心が痛んでしまう。
ステラ王女の案内を終えた俺はサナリスが居る部屋へ戻った。
「あうううううっ、ご飯も半分差し上げますから何卒あの魔法だけは勘弁してくださいぃぃぃぃ」
サナリスは、部屋の角でまだ震えていたが、肉は何が何でも譲らないつもりだ。
「戻ったぞ」
俺はサナリスの肩をポンと叩く。
「わひっ! はわわわっ! ひいいいいいいぃぃぃぃぃッ」
俺をステラ王女と勘違いしたサナリスは、目を丸くし、またしても壁にゴツン。
走って逃げられないと悟ったサナリスは、頭を押さえながら跳躍、力加減を間違え天井に頭をゴツン。
ずどん、と派手な音を立て地面に落下し頭に大きなたんこぶを作り、またしても地面でうずくまる。
「いや、俺だ」
「うぅぅぅ、ルチーナ様、怖かったですよぉぉぉぉ」
唇を噛み締め、瞳を涙で溢れさせながら俺を見つめるサナリスだ。
ぐぬぬ、可愛い、ヒジョーに可愛い。
こんな可愛い女の子を目の前に、どうする、どうすればいい?
そうだ、サナリスの頭をナデナデしてあげよう。
うむ、我ながら完璧な作戦じゃ!
名案を思いつき、実行しようとした刹那。
「ルチーナ様! 御報こ」
先の魔族が、改めて報告に来た様だ。
彼の声に反応し、俺は振り向く。
可愛い仕草を見せるサナリスを前にした現在の表情は、ひじょーに、ニヤついている。
そんなにやついた顔を見せている俺の前には頭を押さえうずくまり、涙を流しているサナリスだ。
さて、この状況を見たモノはどう思うだろうか?
「失礼いたしまいた。ルチーナ様、サナリス様に対する厳罰の最中でありましたね」
魔族は丁重なお辞儀をし、トトトトト、と音を立て、立ち去った。
そう、誰もがこの様な感想を抱くだろう。
女の子を泣かせるまで、否、泣いてもいじめ倒すドSでド畜生だとっ!
だーーーーーっこんちくしょう! これで俺は大レ○魔王ルチーナからッ大レ○ドS魔王ルチーナになってしまったぢゃないかぁぁぁぁぁぁっ!
いや、俺の根っこは畜生ドSだから否定は出来無いんだけどさ。
ついさっき汚名など、どんと来いと思っていたのだが、実際汚名が増えてしまうと強い抵抗を感じてしまった。
「はぁ、サナリス? 次の作戦立てるで?」
「うっぐ。はい、分かりました」
サナリスは、涙をこらえながら承諾した。
くそっ、これはこれで可愛いのが何とも憎いものだ。
俺とサナリスは、改めて人間達の様子を伺う事にした。
そう言えば、勇者は王女の手によって消し炭にされたけどこのゲーム終わってないな?
新たな勇者が生まれるか、あの状況から蘇生されるかのどっちかだろうか?
サナリスが、25倍オーバーキルされても蘇生は成功したとなると。
「教会だな」
俺は水晶玉を手に取り中を覗くと、教会が映し出された。
教会の中では、蓋の開かれた棺の前で神父様が何やら念じている。
で、何かの儀式らしきものが終わると棺の中から何者かがむくりと起き上がる。
「エリウッド様☆」
サリナスの言う通り、勇者エリウッドが神父の手により蘇生され棺の中から起き上がったみたいだ。
俺の記憶が正しければ、ステラ王女の手により跡形も無くなったはずだが。
人間側の蘇生技術も驚かされるモノがあるな。
しかし、感心している場合じゃない。
勇者を討伐してもこのゲームが終わらないとなれば、いや、あれはパーティキル扱いだからノーカウントかもしれない。
つまり、俺達魔族側の誰かがエリウッドを倒さなければならないのか?
いや、王国そのものを破壊してしまえば勇者は復活出来なくなるハズだ。
「ルチーナ様ぁ? エリウッド様が、ルチーナ様がなんちゃらかんちゃらって言ってますよ?」
「そら、俺は魔王だし、勇者が魔王を討伐するのは当たり前だな」
「そうですか? どこか嬉しそうにしているんですけど?」
サナリスに言われ、俺もエリウッドの様子を伺うが、俺にはエリウッドが嬉しそうにしているかは分からなかった。
いつも通り気持ち悪いとは思ったが。
「気のせいじゃないの? 勇者が魔王に対して嬉しがる要素なんて強い奴と戦いたい熱血バカ以外ないぜ?」
「それもそうですね? エリウッド様からはその様な気配感じませんし」
「おろ? エリウッドの奴街の外に出たぞ?」
ふむ、なんか真面目そうな表情に切り替わった辺り、魔城目指していると考えて良さそうだ。
となると、勇者が不在の隙に王国に攻め立てるべきか。
ちーっとばかし卑怯な気もするが、俺は魔王やしこれ位の事ちょっと言い訳すればみんな許してくれるだろう。
「よし、勇者が出払った隙に王国を攻めるぞ」
「ええ!? ルチーナ様!? それ物凄く卑怯ですよ!?」
「あんなぁ? 俺等は魔族だぜ? 魔族がそれやらんかったら誰がやるんだよ?」
「そぉですけどぉ~?」
サナリスがジト目で俺を見据える。
「知らんって、行くと決めたら行くんだ!」
どこか心がチクチクと痛む訳だが自分が魔王だと言い聞かせるしかなさそうだ。
俺は魔将軍達と共に西の王国の襲撃に向かった。
魔王直々に攻められる事を想定していなかったのか、西の王国の連中は成す術無くやられていった。
どいつもこいつも、いきなり魔王が襲撃して来るなんて聞いていない、こんな卑怯な魔王は有り得ないと連呼しながら。
だから、卑怯は魔族の十八番やねん!
ったく、どいつもこいつも。
どうもこの王国は王女に戦力を集中させていたらしく、戦力の要である王女が誘拐された中ロクな抵抗を出来ぬまま兵士は魔将軍達にやられていく。
王女を誘拐するなんて卑怯だと叫びながら。
だからそれが魔族の(以下略)
俺達魔族の軍勢はあっという間に国王の前に詰め寄った。
で、国王は必死の命乞いをし出した。
民の命も財産も全て差し出すからどうか自分の命だけは助けてくれと。




