20話
俺は深いため息を付いて、
「なら、サナリスが悪いぞ。まぁいいわ。ステラ王女が本気出した際の魔法の威力が分かっただけでも儲けモンだ」
「い、威力でしたら、ご、5000ダメージって表示が出ました」
威力と言う言葉に反応したのだろうか? サナリスが藪から棒に変な事を言い出す。
「5000ダメージ?」
「私のHPは200あるんですけど、ステラ王女からの魔法は5000ダメージ受けたみたいです」
そういえば、ここはゲームの世界だったな。
「そら、跡形も無くなる訳だな」
しかし、このゲームのHPは最大でも255だった様な?
それを考えたらサナリスのHPは高い方だし、消し炭を通り越した挙句蘇生に必要な魔力もヤバイ位に増大した事も納得が出来る。
しかし、竜の冒険で4桁ダメージって、いや、確か最新作だと4桁ダメージだせたな。
「それはそうと、ステラ王女の誘拐が難しいとなると別の方法で勇者エリウッドを誘い出す必要があるなぁ」
「うぅぅ、私嫌ですよ? 5000ダメージなんて食らいたくないです」
「それは否定できないな。カンストHPの20倍ダメージなんて俺だって食らいたくない」
「ですよね? ですよね?」
俺に向ける視線をチラッ、チラッと小刻みに逸らすサナリス。
サナリスが何を言いたいかは分かるが。
「サナリスが言いたい事は分かる。ま、仕方無い、俺が直接行ってくる」
「やったー。素敵ですルチーナ様☆」
サナリスが、がっつりと胸を押し付けながら俺に抱き着いて来た。
菜、何を大胆無い!? ぐふ、ぐふふ。胸元から伝わるこの柔らかき感触、しばらくこのまま、なんならやっぱりステラ王女の元へ行くのを止めてしまいたいところだ。
自分が魔王である事をすっかり忘れ、サナリスたんのお胸の感触を暫く堪能していると。
「ルチーナ様! ご報告に……ハッ!? 申し訳ございませんルチーナ様、我々男魔族が不甲斐ないばかりにその様なお思いをなされていたとわっ!」
別の魔族が俺に報告をしに来たみたいだが、俺に抱き着くサナリスに、それに対し鼻の下を伸ばす俺。
で、現在の俺は人間でいう女性に該当する訳だ。例え精神が35歳のおっさんだったとしても!
さて、女性に抱き着かれて鼻の下を伸ばす女性、はたから見たらそれはつまり、ゆりっゆり、すなわちレ○趣味を俺が持っていると捉えられてもおかしくは無い。
そして繰り広げられる噂ッ! 大レ○魔王ルチーナッ! 魔族内だけに飽き足らず、人間にまで広げられ、挙句ステラ王女の耳にまで俺がレ○と言う噂が広まってしまうっ!
まずい、それはまずいっ! ステラ王女に余計な誤解を与えるのは言語道断だーーーーっ!
「うむ。報告とはなんだ?」
俺は何事もなかったかの様に真顔をし、部下の報告を受ける。
「ルチーナ様、だーいすきぃ☆」
が、俺の考えなんかこれっぽっちも汲み取る気が無いサナリスは、誤解を深める事を言う。
「ももも、申し訳御座いませんッ! お楽しみを邪魔してしまった事をお許しくださいませっ!!!!!」
魔族はばびゅ~んと音を立てながら部屋を去った。
誤解を解けぬまま部屋を立ち去られました。
お、終わったーーーーー!?!?!?
何もかも全てがッ! 大レ○魔王ルチーナが誕生の瞬間ぢゃーーーー!?!?!?
「ぬは、ぬはははは、サナリスよ我は王女ステラを誘拐しに行って参るぞよ。我が居ぬ間城の守りは任せたぞ。ふははははは」
頭のネジが外れた俺は、焦点が合わぬ瞳のままステラ王女の誘拐に向かったのであった。
―西の王国―
そんな訳で、転移魔法を使いちょちょいのぱっぱでステラ王女が居る部屋の近くまでやって来た訳だ。
彼女の部屋は2階にあり、俺は対空しながら彼女に問いかける。
「ふはははは、我は大魔王ルチーナである。憎き勇者エリウッドを誘い出す為の囮になってもらおうぞ」
残念ながら、俺の魔王演技は棒読みだった。
「まぁ、ルチーナ様で御座いますか? お会いしとうございました。是非ともお願い致します」
丁重なお辞儀をするステラ王女。
俺と違って演技ではなく本心の様だ。
俺の棒読みセリフに対して無反応だったのは少しだけ寂しい気がするが。
「ぬははは、世界征服の野望を満たす為貴様に協力してもらうぞ」
言動が棒読みのまま、自分でもわかる位に顔がにやけている俺だ。
そんな俺に対し、ステラ王女は柔らかい笑顔を見せ応える。
や、やめるんだ、そんな笑顔を見せられたら萌え死んでしまうではないか!?!?!?!?
「あ、貴方様は!?」
俺がステラ王女とのこれからを妄想しているところ、地上より聞き覚えのある声が。
「ゲッ、貴様は勇者エリウッド!?」
くそっ、よりによってこんなタイミングで!
いや、ステラ王女をデートに誘いに来たのか?
昨日あれだけ夜遊びしておいた癖になんてタフな野郎だ!
これが16歳と言う若さなのか! 35歳のおっさんには想像が付かないッ
「OH。愛しきマイハニールチーナ。不思議な衣装を纏って居ようが我がエリウッド。貴女への愛は変わらないのSA!」
髪をそっと掻き上げ、不敵な笑みを見せ、口元から見せる歯をキラリと輝かせるエリウッド。
目の前に本日デートのご予定があろうステラ王女を目の前に俺を口説くエリウッド。
先日、ステラ王女がいらっしゃるにもかかわらず夜の街で遊び尽くしたエリウッド。
さて問題です。ここまでの愚行をやり尽くしたカレシ? に対してカノジョ? がとる行動と言えば???
有り体に言って、あまり良い予感がしねぇな。
多分、ステラ王女はエリウッドに対して魔法をぶっ放すんじゃないかなぁと思った俺は安全確保の為飛翔し高度を上げる。
「エリウッド様? おいたは許しませんわ」
ステラ王女はいつも通り柔らかな笑顔を見せながら魔法の詠唱を始める。
「HAHAHA。勿論君への愛も変わらないSA」
と、エリウッドがごまかすが、ステラ王女は詠唱を止めない。
魔法が完成され、エリウッドの頭上付近に暗雲が立ち込め、激しい光が発生したかと思うと、
『ステラはサンダーの魔法を唱えた!』
ずがががががががーーーーーん!!!!!!
エリウッドの頭上に物凄い雷が直撃した!
ステラのサンダーが直撃したエリウッドは、一瞬だけ黒焦げになったかと思うと魔法の威力が高すぎたのか跡形もなく消えてしまった。
『ゆうしゃえりうっどは999のだめーじをうけた! ゆうしゃえりうっどはしんでしまった!』
今のサンダーで999ダメージかよッ!
カンストHPの4倍ダメージが出てるじゃないかッ!
だが、だがっ、しかしそれでも俺は魔王の威厳を保たねばならぬ!
「ふはははは、勇者を一撃で倒すとはやるな、ステラ王女」
俺はステラ王女の近くへ舞い戻り強がったセリフを言う。
やはり棒読みで。
「お褒めに頂き光栄で御座います。しかしながら私ステラは手加減を致しております。ルチーナ様がご所望でしたら手加減を致さず魔法をお見せ致したいと存じ上げます」
平然とした口調で言うステラ王女だ。
「いや、見せなくともよい魔力は大事にしたまえ」
強がってはいるものの正直冷や汗が出てきそうだ。
「かしこまりました。ルチーナ様がそう仰るのでしたらお従い致します」
「うむ。では魔城へ向かうと致そう」
俺は魔王のセリフをぎこちなく吐くと、王女ステラを抱え転移魔法を発動、俺は魔城へ帰還した。
「ルチーナ様お帰りなさいませ」
魔城へ帰還するとサナリスが俺を出迎えた。
どうやら彼女には俺が抱えるステラ王女が目に映っていないのか、
「ルチーナ様、今晩はカレーライスですよ☆」
にっこにこ笑顔で俺の手を取ろうとするサナリス。
彼女に答え、手を取りたいところだが生憎俺はステラ王女を抱えていて無理だ。
「いや、俺はステラ王女を捕えてきてだな」
サナリスにステラ王女の存在を教えると、にっこにこ笑顔だったサナリスの表情が。
嬉しそうな瞳が段々と小さくなっていき、口元の笑顔が消滅。
ステラ王女と目が合った瞬間、恐怖に怯える表情を見せる。




