2話
「そうですかー。私からしても結構えぐい死に方と思いますが、田中さんがそんなに知りたいのならばご説明させて頂きたいと存じ上げます。ほんと、仕方ありませんねー?」
「遠慮しておきたいのだが??」
俺の声が聞えて無かったと思い、先程よりも大きな声を出して否定するが、残念ながら女医は俺の言葉を完全に無視し、俺が事故に遭ってからの説明を始める。
ご丁寧にも机の上にはその時の資料があり、1枚1枚、妙に嬉しそうにしながらハキハキとした口調で説明をする。
それはもう、言葉に出来ないレベルで悲惨な写真を見せつけられて、あまりに気持ち悪いがあまり思わず胃の中から何かを吐き出してしまいそうな気持を必死に抑え写真から目を逸らす。
「テレビのニュースで全身を強く打ったって報道されますよねー? 田中さんの時もそうでしてー。でも実際は見るも無残にピーでピーな状況でしてー」
そんな俺の様子を知った上で更に意気揚々とし、ひっじょーに、にこやかな声で延々と説明をする女医。この人、サドスティックなんじゃないだろうか? と余計な事を必死に考えながら、俺が受けた現実の説明から意識を外そうとする。
「いや、だから俺はその話は必要無いので次の話に進めて下さい」
俺は改めて説明を止めようとするが、やっぱり彼女が話を止める事は無くこの説明はこれから小一時間続く事となった。
「はぁー。分かりました。田中さんがそこまでおっしゃるなら次の話に進みますねー?」
深いため息と共に漸く話を終える女医、この言い方だと話す事が尽きたと伺えるが。
それよりも、それよりも、だ。
ちょーーーーーと待て! アンタ俺の話しっかり聞いていたのかよ!
聞いた上で自分が話したい事を一から十まで言っただけかよッ!
てーか、やっぱりアンタ、話しのネタが切れただけじゃねぇのか!
それで俺が言ったから仕方なく止めるってなんやねん!
ハッ!? 心の中とは言え、思わず強いツッコミが出てしまった。
まぁ良い、心の中だ、今の言葉が彼女に聞かれる事は無いだろう。
「お願いします」
俺は平静を保ちながらも返事をする。
「田中さーん? 生前はお笑い好きでしたねー? ツッコミ位は口に出して良いのですよー?」
女医はにこーーーっと意味ありげな笑顔を浮かべ言う。
彼女の視線が泳いでいる事は無い。また、自信ありげな笑顔からも嘘を付いているとは思えない、つまりこの女医は俺の心が読めるのだろう。
心が読める??? それは人間が持つ能力ではないハズだ。
それよりも、この女医は俺の心を読めながらも延々とグロデスクな写真が転載された資料を見せつけるとは、俺の心情を知った上で嫌がらせの如く見せ付け楽しんでいたとなれば、やはりとんでもないSなのだろう。
「はい、そうでございますー。 わたくし女神クリスティーネはSかMと言われましたらSで御座いますよー? でも、SかMの2択でしかないですからーしかたありませんよねー? いやー田中さんって素晴らしいですねー。生前は無駄に洞察力が高く、察する能力はヒジョーに高くございますが、言語能力磨きをサボり、周りの人間から良い様に利用されていましたねー?」
「褒めているのかけなしているのかどっちだよ!」
いやまて、今女神と言ったよな? つまり、女医でも無ければ人間でも無い。いやいやいや、ここが死後の世界ならば俺の目の前にしゃべるやかんが座っていようが、しゃべるたこ焼きが座ってしゃべろうが、しゃべるウサギが居ようが女神が居ようが何とも無いのか。
「しゃべるしゃべるが座っているとは考えないのですね? あ、そうですね、田中さんまだ35歳ですから親父ギャグを垂れ流すようなおっさんではありませんでしたね」
「いや、考えるだけなら考える事も無い訳じゃないし俺は、35歳はおっさんと思っているから別におっさん呼ばわりされても構わないが」
「良いのですよー? この部屋には私と田中さんしかいませんからー? 生前口にしたくても口に出来なかった親父ギャグを好きなだけ言っても良いのですよー?」
「全く持って興味無いが。仮に言ったとして、Sな女神のやる事と言えば俺が居なくなった後、自慢気に親父ギャグを言う痛い人がいたと周りに吹聴する事だと思うが?」
俺のツッコミに対し、唇を尖らせながら視線を泳がせる女神クリスティーネだ。
「あははは、まさかこの美しくて可憐でびゅーてぃふるな女神であるこの私がそんな面白い事をやらないワケないじゃないですかー」
「ってやるんかい! そんな目を泳がせて焦る様子見せるなら嘘でもやる事を否定しないんかい!」
「えへへ、嘘は良くないじゃないですかー? 事実を言って焦る姿を見るのも楽しいじゃないですかー?」
「ここは敢えて嘘を付いて、更におだてて誘い出した上でしっかりばら撒く方が楽しい事になると思うがな」
「大丈夫ですよー? 私は田中さんと違ってゲスで畜生で悪魔じゃありませんからー、純情ピュアで正直者の女神クリスティーネちゃんですからー」
クリスティーネは、椅子に座ったまま腰に手を当て、えっへんと言いたげに俺に見せつけるかの様に胸を逸らして見せる。
医者の身に付ける白衣の中程より豊満な胸が押し出され、思わず視線を釘付けさせられてしまう。例えそれが白衣の下にしっかりとインナーを着ており肌が露出する事が無くても、だ。残念ながらおっさんと言う生物統計上男である俺田中太郎にとっては十二分な破壊力を持つ訳だ。
「誰がゲスで畜生で悪魔だ!」
俺は必死に自分の脳内を駆け巡る煩悩を振り払い、女神に対しツッコミを入れる。
「えへへー? 無理しなくても良いのですよぉ? たなかさーん?」
悪戯に満ちた笑顔を見せながら、席を立ち俺の耳元で囁く女神。
こうなると、どちらかと言えば女神では無く小悪魔の方が近いと感じてしまう。
「む、無理って何がだ?」
女神との距離が近い。あまりもの近さに心臓の鼓動が高まって来る事を感じる。
「知りたいですかぁ? 素直に触りたい物は触りたいと言えば良いのですよ☆」
にぱーっと笑みを見せながら俺の頬を人差し指でつつく小悪魔、基女神クリスティーネ。
やめろ、これ以上やられると俺の理性が止められなくなる。
「いや、だから何をだ……?」
「うふふ、秘密ですよー、ひ・み・つ☆」
クリスティーネは甘い香りを残し元の席に戻った。
一体何だろう? 高まった胸の鼓動は彼女が傍から離れても止まる事は無かった。
「そ、そうですか」
俺は安堵のため息をつくが、心の中に何かもやもやする事が残る気もする。
「それでー。どうて……の田中さん」
クリスティーネが机の上から1枚の書類を探し当て俺に見せる。
「今なんて言おうとした?」
「ハイ・ウィザードの田中さんって言っただけですよー?」
口笛をひと吹きしながら、視線をチラチラと泳がせ言う。
「誰がいつどこでそう言った? 俺には童貞と言いかけた様にしか聞こえなかったが?」
言い終わった所で、あれ? 何か俺誘い出された様な? と思ったが既に遅い。
「あれあれー? まさか田中さん? 本当に、ああー。だから私が至近距離に近付いても手を出さない上に私の胸元を嫌らしくバレない様に必死に心掛けながら素晴らしい努力の果てにチラチラ見たのですねー?」
仮にそうだとしても、女神を相手に押し倒せる様な猛者が居るとするならそれはそれで凄いと思うが。