19話
サナリスに対し、だんだんとジトーっとした心理が芽生えて来る。
大体ジト度70%位の視線を俺はサナリスに送っている気がするが。
「ゆ、勇者様なら私が覗いた事を知った上で見せたのです!」
魔族が、自分の知らない場所で新しく開発したマジックアイテムの性能を一瞬で見抜ける勇者なんて居たらそれはチート勇者と言いたくなる所だが。
「ははは、まさかそんな事あるワケ無いで」
全てを知っていたとするなら、それ即ち俺にも見せ付けた事である。
現状俺の見た目は女性であるが故100%あり得ない話では無いがその様な事実、あまり認めたくないものだ。
「あああ! 私と言う女が居ながらもう許せません! この事をステラ王女にチクって来ます!」
エリウッド王子がツヤツヤとした顔をしながら風呂屋から出て来た所で、サナリスの何かが音を立て切れたみたいだ。
「自分でシバキに行くんじゃないんかい」
「愛しきエリウッド様を自らの手で傷つけるのは最終手段です!」
「どういう理屈でそうなんねん」
サナリスから謎のプライドを見せられ呆れ果てた俺は深いため息を付いた。
翌日。
俺に宣言した通りサナリスはステラ王女に対し勇者エリウッドが昨日行った事についてチクりに行った。
それから2時間位経過したところで、
「ルチーナ様、復活ポイントまでお越しください」
復活ポイント担当の魔族が俺のところにやって来た。
「何があった?」
「それが、あまりにも大ダメージを受け死亡した魔族がいまして、その魔族を蘇生させる為に膨大な魔力が必要となった訳でして」
「ああ、そっか、それだったら今向かう」
確か昨日、サナリスはステラ王女が手加減した魔法で死んだって言っていたな。
つまり、何かしらの理由でステラ王女から手加減無しの魔法を受けたと言う事か。
「申し訳御座いません」
担当魔族に連れられ、俺はサナリスの蘇生を行った。
「うげええええ、滅茶苦茶魔力持ってかれたんですけどっ」
サナリスの蘇生を終え元の部屋に戻った俺は思わず愚痴を零す。
「ふえええええん、るぢぃなざまぁあああっ、物凄く痛かったですよぉぉぉぉぉ」
元の部屋に戻り、周りに俺以外誰も居ない事を確認したサナリスが、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら飛び付いてきた。
この流れで行けば、またしても俺の服で鼻をかまれるが。
しかし、この状態のサナリス語を翻訳しながら報告を聞くのも正直しんどい。
仕方無い、ここは鼻をかまれてでもまともな言語で報告をしてもらう方が良いだろう。
俺はサナリスの鼻かみを受けるべくあえて棒立ちを選択する。
「ずでらざんがひどいんですよぉぉぉ、ふあぃあぁのさいじょういまぼうを゛でがげんなじでうっでぎだんでずよぅぅぅ」
が、サナリスは俺にすがりつきワンワン泣きじゃくるだけだった。
「鼻かまないんかい!」
「あ! ごめんなざいるぢーなざま。わずれでまじだっ」
思わず俺がツッコミを入れるとハッとした表情を見せるサナリス。
そして、
チーーーーーーーーン
俺の服で思いっきり鼻をかんだ。
「忘れてただけかい! 指摘して損したわ!」
「すみませんルチーナ様、あまりにも衝撃的でしたのでつい」
「はぁ、もういいや。報告宜しく」
「はい、ルチーナ様。私はステラ王女に対し、勇者エリウッド様の浮気現場を報告いたしました」
ここでサナリスが言葉を止め、俺をじっくりと見つめる。
この状況、傍から見ればじーーーーーーっと見つめ合う二人である。
それは即ち相思相愛の男女の構図であり、非モテの男達からしたら何かしらの妨害工作を施す為の作戦会議でも開きたくなる所だろう。
……しかし今の俺は残念ながら魔王、つまり身体は女だ。
女同士が見つめ合い何かに発展する、百合とか言う属性の何かに発展する事になる。
腐男子とやらが存在するならば、彼等が遠くよりスマホのカメラでも構えその一部始終の録画でもするかもしれない。
俺はルチーナ様、嫌々自分はサナリスが良いでござるなんて言いながら。
とは言え、俺の見た目は女と言えど精神構造帯は男なのだ、サナリスと言う魔族ながらも可愛くて出る物もしっかり出ている女の子にじーーーーーーっと見詰めると思わず胸がドキドキして来なくもない。
しかし、残念ながら等のサナリスは勇者エリウッドに夢中で俺の事は眼中にないと冷静に考えるとどこか寂しい気持ちにさせられてしまう。
と、下らない事を考えた訳でここまで大体20秒程経過したのだろうか?
何故か次の言葉を言わないサナリス。
いい加減考える事の尽きた俺は、サナリスの目の前で手の平をふりふりして見せる。
すると、現実世界に戻って来たのかサナリスがハッとした表情を見せ言葉を続ける。
一体何を考えていたのだろうか? まさか、俺との百合展開も悪く無いとか考えてないだろうな?
「そしたらですよっ! その様な事は心得てますって言われたました! ひどいと思いませんか? あれだけお金を巻き上げられているのに、それが女遊びに使われているのに、でも、心得ているって言葉だけですよ、もっと怒ってもいいじゃないですか!?」
物凄い勢いで捲し立てるサナリスだ。
本人が良いと言っているならそれでいいと思うのだが? まさかこの娘、正義感も強いのだろうか?
「そ、そうか、そうだな、確かにそれは酷い。20秒も間を作るだけの価値はある」
「そうですよ! ステラ王女ったら、世界平和の為なら女遊び程度安いモノだの、世界を救う勇者の前に自分は一国の王女に過ぎないだのまるで貴女が主人公って言いたくなるくらいカッコイイ事言うのですよ!」
またしても興奮気味に言うサナリスだ。
「確かにステラ王女の言う通りだな」
と、俺が口を滑らせステラ王女を擁護すると、サナリスが俺の襟元を掴んでゆっさゆっさと振り出す。
「うげぇぇぇ、頭が揺れる、気持ち悪いッ」
「ルチーナ様が悪いのです! ステラ王女のエリウッド様への愛が足りないんですからっ!」
ここでサナリスは揺さぶりをやめてくれたが、
「支離滅裂に聞こえるけど」
「ルチーナ様!?」
俺の一言で、また揺さぶれる事になる。
もしも俺が赤ん坊だったら揺さぶられ症候群にでもなってしまうのではないかと思わされる位にゆっさゆっさと揺さぶられる。
「そんな事言われてもなぁ。けど、それだけでぼろクソにされるとは思えないが、真坂サナリス、ステラ王女に対して余計な事言って無いか?」
再度サナリスが揺さぶりをやめたところで俺は言葉を紡ぎだした。
「むぐぐ、私、ステラ王女に対してエリウッド様のぴーを見た事言っちゃったんです。そしたら、そしたらですよ? 心臓が凍るかと思った程凍てつく空気をまとってですよ? 私は見た事無いと呟いたら、物凄い綺麗な笑顔で最大出力のファイアーを撃ってきたんですよ!」
「いや、それは」
サナリスが悪いと言いかけるが、下手すれば揺さぶられながら天井向けて投げ飛ばされる気がした俺は言葉を止めた。
「酷いじゃないですかぁ! 下賎な人間の女共はいかがわしいお店に努めていたらエリウッド様のぴーを見るだけじゃなくてあんなことやこんなことをしているんですよ! 私なんて見ただけですよ! なのに灰になっても燃やされるなんてあんまりじゃないですかぁぁぁぁ」
改めて、支離滅裂な事を言うサナリス。
てーか灰になっても燃やされるって、そもそも灰って燃えるんかいな? 灰になって蘇生失敗したら失われてしまう設定のゲームもあったけど、でもその場合灰すら残らないから一発で失われるんか? いやいやいや、灰すらも無い状況から蘇生に成功させた俺って実は凄くね?
滅茶苦茶魔力消耗したけど、灰すら残ってないサナリスを蘇生させられたってこの世界では実は俺も中々のチートキャラだったりしちゃう?
「そ、そうだな、本当に酷い話だな。まさかと思うんやけど、その具体的な事をステラに言って無い?」
「むむむ、い、言いました。その、そこまで言っちゃいましたからその、ステラ様の魔法を」
サナリスは胸元で右指と左指をつんつんしながら目を泳がせている。




