18話
「えへへ、えへへ、これでやっと勇者様のぴーが見れますよぉ! さぁ、さぁ、早くお風呂に入るのです!」
究極の覗き魔が、瞳を輝かせる。
おいおい、よだれ、よだれが垂れるぞ!?
「俺は見たくねーが」
サナリスにジト目で冷ややかな視線を送る俺。
勿論、サナリスのぴーなら喜んで見てやるところだが、流石に言ったら色々とまずいだろう。
「おいおい、エリウッドの野郎、酒場に入りやがったぞ?」
ステラ王女と別れてすぐ、勇者エリウッドは酒場に入った訳だが。
実はアイツ酒好きだったのか? いや、ゲームの中だから今はまだ未成年で飲めない酒を堪能したいのか?
「疲れていたんじゃないですかぁ?」
「ステラ王女とデートして? んなアホな」
「王女様からお金を引き出す為に仕方なく演技していたのかもしれませんよ? それだったらめーーーーっちゃくちゃ疲れます」
まるで経験したことがあるかのように言うサナリスだ。
腹黒い言動をためらいなく言うところは腐っても魔族と言うことかもしれない。
「あのアホっぽいエリウッドがそんな考えする訳無いぜ?」
「そうですかぁ? そのアホっぽさが演技かも知れませんよ?」
不気味に笑い、瞳を輝かせるサナリスだ。
やはり、過去に何かしらの腹黒い経験した事がある様に見える。
ここから1時間程、浴びる様にお酒を飲む勇者エリウッドの姿を鑑賞した。
ウェイトレスと思われる女性従業員の臀部に触れる、なんてセクハラをしながら。
この王子、城内でも同じ事をやっているのか? でもまぁ、王子だし触られた方が嬉しい女性も多いかも知れないが。若しくは強い願望を持っており、ゲームだからと好き勝手やっているとか。
ゲームだから、か。俺は近くで一緒にエリウッドを観察しているサナリスの胸元をチラ見する。
ゲ、ゲーム内のキャラだしぃ? 好き放題セクハラしても問題無いんじゃないのか!? とミイラ取りがミイラになる発想をしてしまう俺であるが。
「あのエリウッドがねぇ? おや? 酒場を出たぞ?」
悲しいかな、どーてーおぢさんである田中さんは、多分大丈夫だろー、なんて思いながらも目の前に居るサナリスに対しセクハラ行動を取る事が出来ないのでした。
クリスティーネに関して出来たのは、多分彼女がSだからか無意識に誘い出されたんだろうなー、多分。
「むむむ、エリウッド様の向かう先は、夜の街じゃないですか!?」
酒場で仕上がったエリウッドは男の宿命を果たしたいのか、お金さえ払えばお姉ちゃんとあんな事やこんな事が出来るお店が立ち並ぶエリアにやって来た。
「確かに。お、風呂屋に向かっているな」
平然な言葉を発する事が出来るのは、今の肉体が女性の物だからなのかもしれない。
近くに中々のお胸さんを持つ可愛い女の子、水晶玉に映る背景は夜の街。
生前の田中さん、つまり男の身体であったならばピーがそろそろ大変な事になってきっと、トイレに行って来るとサナリスに行っている頃合いかもしれない。いや、でも30代のピーならばそこまでの元気は無いな、多分杞憂な事だろう。
「ルチーナ様、何をおっしゃっているのですか!? あの様な下賎なエリアにその様な健全なお店は御座いません!」
目を見開きながら鼻息を荒くしながら力説するサナリス。
君、興奮しながら言うのは良いが水晶玉よりエリウッド王子を覗いては説得力が無いぞ。
「魔族が言う事違くない?」
「いいえ、ルチーナ様! 王子様とは健全でなければなりません! 売女にかどわかされるなんてあってはなりません!」
「いやー、エリウッドの野郎自分の意思で行っているから別にかどわかされている訳じゃねーぞ?」
確かに、理想の王子様が実は夜の街が大好きです、なんて現実は認めたくないだろうが。残念ながら美しいイケメン王子様だって人間は人間なんだよなぁ。かと言って多分16歳位の王子様がニコニコ笑顔で夜の街に繰り出している訳だから、きっと誰かがその素晴らしさを教えた訳であって考えられるとすれば、この国の国王が実は大の女好きであると言う事だが。
だからと言って、バレた時に女王から縛り付けられ拘束され、猿ぐつわをさせられ鞭でしばかれるんじゃないかなー位しか特別問題になりそうな事は浮かばない。それだって国王が実はドMであってそのプレイがしたい為に狙っているのだとすれご褒美を貰う為に計算している可能性だって考えられる。つまり、エリウッド王子が夜の街が大好きな事は何の問題も無いと言う訳だ。
少なくとも俺の推測の中では、だが。
「言い訳なんて許しません! このサナリスの目が黒い内は夜の街に行く事は許しません!」
力強く言うサナリスだが、ついこの前ステラ王女から目の黒さを奪われた事は黙った方が良さそうだ。
「つーか、いつから勇者エリウッドがサナリスの男になった?」
「私が作った水晶玉でエリウッド様を見付けてからです!」
無茶苦茶な理論を述べるサナリスだ。日本での例えになるが、テレビでアイドルを見たら私の男と言っている事に近い。つまり、サナリスは妄想や思い込みが強いタイプに思える。
「すっげー暴論だなぁ、おい」
「ルチーナ様、熱く燃え滾る恋をなされた事は無いのですか?」
ムスッとした表情をするサナリスだ。
こうなったら彼女を止める術は無い、精々玉砕させる位しか有効な手段は浮かばない。
いや、この手の輩は玉砕されても諦めないな、最も、エリウッドよりもいい男が現れた瞬間手のひらを反すのだが。
「いや、俺は無いぞ」
熱く燃え滾る恋ねぇ? そう言えば高校生の時同じクラスだった娘に恋心を抱いた事があったな。あの娘お前の事好きだぜ? なんて言葉で友達から唆され、いざ告白をしてみたらあっさりと振られて目の前で指差してげらげら笑われたっけな。くそう、思い出したら腹立ってきたぞ。
あいつ等のせいでそれ以来誰かを好きになる事がおっくうになったんだぞこの野郎!
「むむむ、そうですよね、ルチーナ様はお忙しいですから仕方ありませんよね」
唇を噛み締めるサナリス。一旦冷静になり、ヒートアップしていた事に対し何か恥じらいを抱いているのだろうか?
「まぁ、そうだな」
知らんけど。
「ああああああ! エリウッド様がいかがわしいお店に入りましたよ!」
目を見開き水晶を指差すサナリス。
まるで、浮気の疑惑がある彼氏を尾行して居たらその現場を見付けてしまった彼女の様だ。
「風呂屋っぽい店に入ったな」
エリウッドが露出度の高い服を着たお姉ちゃんに誘われ店の中に一緒に入った。
「ルチーナ様? あんないかがわしいお店に入ってお風呂に入るだけで済むワケありませんよ! あの店はぴーをぷーしてぺーしてぽーするお店ですから!」
やるせない怒りを抱えているのかグッとこぶしを握りしめ、わなわなと震わせながら、むぐむぐしているサナリスだ。
サナリスが好意を持つ相手に接している女性に対して焼き餅を妬く気持ちは分からないでも無いが、エリウッド王子だけでは無く、夜のお店で遊ぶ事は正常な男子ならばそこそこの割合で持っている願望だから諦めるしかないと思うのだが。
サナリスは、独占欲が強そうな気もしなくはない。仮にサナリスが魔族で無く人間だったとしてこれだけ可愛い女の子が自分を独占しようとするならそれはそれで俺はウェルカムと思うけど、現実問題そうもいかないのだろうか?
「スマンスマン、風呂屋ってのはそういう店の隠語だね」
「mんbvcxz! やっぱりそうだったのですか! 私と言う女がありながらっ! 私にピーを見せたのは何だったんですぁ!?」
知りたくなかった現実を突き付けられたサナリスは、目を見開き少しばかり発狂している。
「見せたと言うより、サナリスが勝手に覗いただけやん?」




