17話
なんて悠長な考え事をしていたらサリナスが、俺が着ている服の袖を鼻元に持っていき、
チーーーーン
「ちょ、おま、何人の服で鼻かんでやがる! 鼻水でぐちゃぐちゃになったやんか!」
予想の斜め上を行く行動をとられた俺は、思わずサリナスを突き放す。
俺に突き飛ばされたサナリスは、トテン、と音を立て地面に突っ伏した。
「全く、それで、何の用だった?」
俺がサリナスに尋ねると、彼女は衣服についた埃をパンパンと払いながらゆっくりと立ち上がり、
「はい、ルチーナ様。申し訳ありません、王女ステラの誘拐に失敗致しました」
10秒程前までは涙でぐちょぐちょだったサリナスは、キリッとした表情で俺に報告を上げた。
「そうかそうか、ってお前何すっきりしてんねん! さっきまで涙でぐちょぐちょになってたのはなんやったん! まさか、鼻をかんだからちゃうやろな!?」
俺に突っ込まれたサリナスは、視線をそらし天井を見上げほほを指でかき3秒程沈黙をしたところで、
「私サリナスはその様にふしだらな事は一切ございません」
と、丁重な言葉で言うもサリナスの視線は天井を見上げたままだ。
これではその言葉が真意では無いと言っている様なモノだ。
「カッコイイ事言うならせめて俺の目をみろっちゅうねん! てーか、なんやねん! おまえそんな真面目なキャラちゃうやんけ! なんで鼻かんだだけで人格が変わってんねん!」
くそっ、ハリセンがあるなら思いっきりどついてやりたいところだ。
「分かりました、ルチーナ様が所望されるのでございましたら」
サリナスは俺に向け一礼すると、再び俺の服の袖をひっぱり鼻の元へ近付ける。
「ちょーーーーと待たんかい! おまえ人の服で何鼻かもうとしてんねん! ティッシュつかいーや、ティッシュ!」
俺はサリナスの両ほっぺたをつまんでむにーーーーっと引き延ばしてやる。
「るふぃーーなふぁまっ、わらひはもろのひんふぁふにもふぉれをおっひゃふぁふぇふぁられれふぉふぁいまひゅ」
訳「ルチーナさまっ、私は元の人格に戻れとおっしゃられたからそうしただけです」
「なら猶更ティッシュでええやんけ!」
俺はサリナスのほっぺたから手を放し、ティッシュを取ろうとサリナスに背を見せた瞬間。
チーーーーーーーン!
サリナスが、俺の着ている服で鼻をかむ音が今いる部屋の中に響き渡った。
「でぇ? さりなすくぅん? ステラ誘拐失敗がなんだったかなぁ?」
衣服の2か所をサナリスの鼻水でぐちょぐちょになった俺は、ひきつった笑顔で目を座らせながらサナリスに尋ねる。
「ななな、なんでもありませーーーん」
「無い訳ないやろ! 報告位ちゃんとしぃや!」
「らっれ、ステラ王女のファイヤー、アイス、サンダーで死んだなんて言えませんよぅぅぅぅぅ」
俺に詰められ再び涙目になるサリナスだ。
キツク言い過ぎたか? いや、どちらかと言うと初級魔法でやられた事を恥じているみたいだな。
「初級魔法か? サナリス、魔法防御力高いんじゃないのか?」
「ふぁい、そうですよっ、わらひ、魔族の中では魔法防御高いですよぅ、それでも、ステラ王女が加減した魔法で死んじゃったなんて言える訳ないですよぉぅ」
「思いっきり言っとるやんけ」
つまり、ステラ嬢の魔力はえげつないって事か。
実は囚われの王女様が超魔力を持っているって、なんだよこのゲーム。
まさか、勇者エリウッドもあんな様子に見えて実は滅茶苦茶強いとか?
いや、アレは入浴中の様子を覗いただけで勇者エリウッドの実力とは無関係か。
「ま、しゃーない貴重な情報を持ってきてありがとな」
「ふぁ、ふぁひ!? わ、わたし、任務に失敗したんですけど!?」
俺の礼に対し、雷に撃たれたかの様に驚いているサリナスだが。
「んな事言われても、俺はステラに対する情報なんて特に渡してないし。それで失敗しても仕方ないぞ? 新たな情報を持ち帰っただけでも手柄だぜ?」
「る、るちーなさまぁ、お優しいんですねっ!」
サリナスは俺に飛びつき、三度俺の服に手を伸ばすが、
「同じギャグを3度もすんなや!」
反射的に、サリナスに対して素手でのツッコミを入れた。
俺としてはごく一般的な加減のツッコミをしたつもりだったが。
「ぎ、ぎゃぐじゃないですよおおおおおおっ」
どうも、魔王の身体と言う奴は想像以上に筋力があるみたいで、俺のツッコミを受けたサリナスは大きく吹っ飛ばされ、地面に接触するとゴロゴロと転がり壁にぶつかると、ぽふっと音を立て地面に倒れた。
「げ、スマン、そんなつもりは無かった」
「る、るちーな様の愛の鞭しかと承りましたのです」
頭の上でヒヨコが回っている様に見えるサナリスは、派手に頭を打ったのか変な事を言っている。
「は、ははは、とにかく勇者エリウッド達の様子を見に行こう」
俺は、ぴよぴよしているサリナスを連れ、水晶玉よりエリウッド達の様子を確認した。
「なぁ、サリナス。勇者って魔王討伐するんじゃないのか?」
「私もそう思います。もうっ、ステラって女の子ばかり見ても面白くありませんからっ」
やや不機嫌に言うサナリスに釣られ水晶玉に目をやると、そこには何故かステラ王女ばかりが映っていた。
たまに勇者エリウッドの姿も映るが、王女ステラとデートし鼻の下を10M程伸ばしている姿しか映らなかった。
最も、鼻の下をそんなに伸ばしたら地面貫通する訳だが。
「女性視点で考えたらそれは否定しないけど、それにしてもこいつ等装備も道具も整えないし外に出て魔物を討伐しようともしないぞ」
「ああっ、王国の資金を勇者エリウッドに渡していますよ!」
王女ステラが勇者エリウッドにお金を手渡している場面を見て驚くサナリスだが。
王女は仮にも王族であって、その王族と仲の良い勇者ならばどう考えたって王国の方から相応の支援が施されるよな?
俺が知っているゲームで、伝説の勇者の血を引く人間に対して鋼どころか銅で出来た剣すら買えないどころか、皮製の盾、もしくは皮製の服を買ったら竹製の棒しか買えない。
こん棒を買ってしまえば布製の服しか買えない程度のお金しか渡さない王様。
伝説の勇者の子孫が最初に装備する武器がこん棒ってなんやねん!
つーか、布製の服すら買わなきゃいけないってことは少なくとも上半身裸、下手すれば王様の前でフル○ンっつー事か?
で、その続編は、自分の息子である王子に対して銅製の剣と皮製の鎧と小銭を渡して魔王を倒してこい、だ。
しかも、同盟国が魔物により滅ぼした報告を受けた直後で、だ。
いやいや、王国を守る兵士は鉄製の鎧と鉄製の槍を装備しているけど?
1万歩譲っても、今から世界平和の為に旅立とうとしている息子に対しては彼等と同じ装備位渡してやれよ。
あれか? 確か魔法が使えない設定だったから、魔法すら使えない出来損ないの息子とはおさらばしたいのが本心だったのか?
全くもって酷い王様だと思う。
その次の作品もだ。
旅の途中で命を落とした勇者の息子が、魔王を倒しに行く話だけど。
その勇者の息子に対して支給するのが小銭とこん棒やら冒険用の衣服数着だ。
いやいやいや、勇者の息子だからせめて、せめて、城を守る兵士達と同じ装備は支給してやれよ。
しかも、彼が持つ銅製の剣も冒険用の服も自前だ。
もはや、実は彼の母親が裏で悪行の限りを尽くしていたと邪推してしまう領域だ。
と考えたら、世界を救う勇者エリウッドがステラ王女から支援を施されるのは何の間違いでも無い訳で。
「むっふー。やっと邪魔な女と別れましたよッ」
サナリスが頬を膨らませ、不服そうに言う。
勇者エリウッドがステラ王女とデートしていた事に対し妬いているのだろうか?
「日が暮れたからな」




