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悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2章「おっさん、ルチーナ・ファルタジナに転生する」
16/53

16話

―エリウッド王子の私室―



(はぁ、どうして私が王子なんかに、確かに鏡に映る私はイケメンだけどさ)


 私は過労で死んだOLの元日本人。

 零歳ブラック企業に勤めていて、毎日朝の6時から24時まで仕事をさせられていた。

 休みは週に1日だけで、有給なんてもっての他だった。

 大学を出て8年間勤めてたっけ。

 30歳になって暫くした所で、ある日突然会社の中で意識が飛んで気が付いたら目の前にほっかむりを被った死神が居た。

 てっきり病院で目を覚ますかと思ったんだけど、


『私が赴任してから10000人目の魂だよおめでとう~記念に異世界転生させてあげるけど、どう? どう?』

 

 なんて、妙にノリ良く言われたっけ。

 死神なのにこの娘、明るくはっちゃけているって想いながら、彼女に対して優雅な生活が出来る身分になりたいとお願いしたんだけど。


『私、死神なんだけどそんな曖昧な頼み方で良いのかなー?』


 なんてニヤニヤしながら、まるで悪戯をする前の子供の様な笑い方をしていたっけ。

 けれど、どうせ夢か何かとしか思っていなかった私は、別に良いよと返事してしまった。

 

 その結果、私はタルティア王国の王子・・として転生したんだっけ。

 常識的に考えたら女の私が転生するんだから王女に転生すると思っていたけど、何故か王子様、しかも第4王子って中途半端だった。

 なんて言っても、この時代にしては優雅な生活を送られるし食べ物も悪くは無い。

 ただ、底辺薄給OL時代に食べていた食べ物と比べると総合的な評価で言えばそこまで大差は無くって、日本の食糧事情がいかに優れているのかと思い知らされた。

 けれど、周りに賛美されながら食べるコンビニ弁当も実は物凄く美味しくなったのかもしれないなと。

 だからつまり、エリウッド王子に転生したのも悪くは無いとは思う。

 

 でもさ、王子様で私は第4王子で王位継承権を手にするのが難しい。

 両親達もそれは分かっている。

 分かっているから、タルティア王国内で優秀な貴族、キルミール家、その令嬢と結婚する事が決められた。

 王国としては割と使い道に困る第4王子だけど、優秀な貴族と強いコネを作る事が出来るなら王国として十分な成果を果たす事になる。

 

 正直、ステラちゃんは元女の私から見ても滅茶苦茶可愛い。

 礼儀正しいし気遣いレベルも高くって、スタイルだって良い。

 私が中学生の頃、そんなに発育していなかったし羨ましい位だ。

 

 ただ、私の見た目は金髪イケメン王子様なんだけれど、中身は元OL、つまり女性。

 ステラちゃんがどれだけ魅力的な女の子だったとしても、同性に対して趣味がある訳じゃない私にとっては一切興味が無かった。

 

 だから、ステラちゃんとの婚約は正直しんどいとしか思えない。

 けれど、本当の事を両親に告げる事が出来るハズも無い。

 時代も時代だし、王子である身分なら猶更の事。

 これが、日本であり一般人ならまだ言えなくもないけど。

 

「YOYO。浮かない顔してるじゃん☆」


 天井から、自称畜生死神の有紗ありさちゃんが顔を出す。

 これが例の死神で、今は私の部屋の天井裏を生活空間にしているんだけど。


「当り前よ。女の私が男になっているんだから」

「そいつは仕方ないんだYO☆ 私はちゃんと忠告したからねっ」


 確かにその通りで、夢と決め付けた私にも落ち度がある。


「まぁね、それは否定しない」


 全く、コイツの能天気さが羨ましいし、羨ましいから人前では私も能天気にならないとやってられないけど。


「ところで、有紗の指輪はどうDAI?」

「悪くないんじゃない? 使う際何かしらの代償が生じるのは球にキズと思うけど」


 この死神から貰った指輪。

 試しに使ってみたら便利と言えば便利なんだけど、死神から貰った品物のせいか何かの代償が生じるわけ。

 今回の件で言うと、ステラちゃんとの婚約を破棄出来る。

 その代わりに、キルミール家、ステラちゃんの家が滅んでしまう。

 私の家、王家の軍が動き出してキルミール家を滅ぼすって。

 その軍隊が何者なのか私も知らないし、有紗ちゃんが教えてくれる事も無い。


「それは死神の力だからNE。しょうが無いんだYO」

「それは分かっている」


 試しに使っただけで、下手をすれば1つの家が滅んでしまう。

 だから、これから先安易に使う訳には行かないと思う。

 けれど、仮に他国がタルティア王国を責めて来た。

 つまり、戦争になった時はこの力を使わなければならないかもしれない。

 

「君の願いを叶える代償として多くて10人が死ぬだけだYO」


 気軽に言ってくれる。

 コイツは人の命を、いや死神だからこの程度普通なんだろうね。

 

「10人って……」

「君にとってどうでも良い人間が何人死のうが関係無いんじゃないかい?」


 陽気に問い掛ける有紗ちゃん。

 関係無い、確かに関係無いのかもしれない。

 だけど、それは。

 多分、ダメだと思う。


「関係あるんじゃない?」

「そうかい? なら、君が望まない結婚をしてこの世界で死ぬまで後悔するKAI?」

 

 有紗ちゃんの指摘がド正論過ぎる。


「それも嫌ね」 

「私としてはどっちでも良いけどね、楽しく見学するだけだからね」


 嫌な2択ね。

 他の選択肢は、何かないかしら?

 

「そう言えば、ステラちゃんとの婚約を破棄させようとした張本人を知らない?」


 元々、他の誰かが私とステラちゃんとの婚約を破棄させようとしていたんだ。

 それで、私はそれを知らないから有栖ちゃんが、ステラちゃんとの婚約嫌そうだよねーと言って来た。

 だから私はそうよと答えた。

 その結果、有栖ちゃんが代償はあるけど破棄出来るかもねーと言った。

 それで私はイエスと答えてしまった。

 だって、代償を見てからやるかやらないか決めれば良いと言われたもの。

 代償見てもやらなければ今と変わらない、けれど代償を見て軽いと考えてやれば自由の身になれる。

 結局、ノーと答えていればそれを実行した人が私とステラちゃんの婚約を破棄してくれるのだから。

 つまりは、私は有栖ちゃんにまんまと騙された事になる。

 死神は伊達じゃないと言うか騙される私が悪いと言うか。

 OL時代も良く人に騙されていたっけ。


「知ってるYO」

「なら教えて」


 どうせ何らかの代償を支払わされるでしょうが。


「今晩出て来るデザートで良いYO」


 意外と安い代償だった。

 有栖ちゃんは何だかんだ言って女の子なのだろう。

 だから甘い物が欲しいみたい。

 案外可愛い所があるなぁ。


「仕方ないわね」

「やったNE☆」


 私のデザートを貰えると知った有紗ちゃんが嬉しそうにしている。

 やっぱり根っこは女の子なんだ。

 

「ファルタジナ家って知っているかい?」

「ファルタジナ家? 知っている様な知らない様な」

「そこのルチーナちゃんが張本人だNE」


 ルチーナ? そう言えばステラちゃんが偶に話していた様な?

 金髪碧眼の貴族令嬢で年はステラちゃんと同じだっけ。

 何回か見かけた事もあるし顔は……思い出した。

 私もあんな女の子に転生したかったな、なんてね。


「ああ、あの娘ね」

「どうやら、数日後行われる貴族令嬢のパーティーに参加するみたいだYO」


 数日後? あのパーティかしら?

 あの日はステラちゃんと一緒にそこの会場に行く事になったわね。

 折角だし、ルチーナちゃんを探してみましょうか。

 

「そっか、ありがとね」

「前払いの報酬を貰うんだYO」


 有栖ちゃんはテーブルの上にある皿の上に置いてあったクッキーを3枚程くすねると天井裏へ戻って行った。

 ……随分気前が良いと思ったらそう言う事だったのね。

 別に良いんだけどさ。

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