14話
『ステラって娘が嘘付いたんじゃないですかー?』
『確かに俺はステラ嬢に嘘を付いてしょうも無い話をしたが、ステラ嬢が嘘を付いていたようには思えない』
『否定出来ませんねー。なんたって穢れ無き王道令嬢様ですからー』
『なら、そうだとして、何故そうなったのか思い当たる節は無いか?』
『無い訳じゃないですけどー。例えば死神さんとかがその権限を使ってこの世界に異世界転生させた人間が居るとするならば、こんにゃくを破棄したら王家に家を滅ぼされるなんて設定を作る可能性はありますねー』
俺自身この世界に異世界転生をした訳だから、別の誰かがこの世界に異世界転生して来たとしても不思議では無いが。
『もしそうだとするなら、私が作った設定を上書き更新しやがったんですよねー。少しムカついては来ますけどー』
『まぁまぁ。ステラ嬢の話では、俺の家にもこんにゃくがあるらしい。まずはそれを探して真相に近付けたいな』
『お言葉ですけどー田中さんはまだ婚約のこの字もないですからー、ファルタジナ家にこんにゃくは無いハズなんですよねー』
『けど、ステラ嬢の話だとどの家にも絶対にあるって話だったんだ。どうせ、家の中をちょちょっと探せば白黒はっきりするし、やるだけやってみる』
『私が疲れる訳じゃないから止めないですよー。それにしても、私が作った設定を上書きするなんて随分と太い野郎ですねー。見つけ次第額に肉って書いてほっぺたむにむにのぺったんぺったんにしてやりますよー』
何と無く怒っている事は伝わるが、報復が随分と可愛いのは気のせいか。
『仕方ないじゃないですか、女神様のイメージって大事ですからー』
人を散々いたぶってイジメ倒そうとしている女神の言うセリフじゃないと思うが。
『それはそれ、これはこれですよー。田中さんからのイメージとかしょーじきどーでもいいんでー。それよりも大衆からのイメージが凄く大事ですからー』
『大衆って、一体誰の事だよ。この話を聞いているのは俺だけだろうに』
『そうとも限りませんからー。田中さん以外多数の転生者が私の話を傍受している、かもしれませんしー』
居るかいないか分からない人間のケアって、意外としょうも無い事をするんだな。
『それをしょーもないと思うから田中さんは立派な魔法使いになれたんですよー』
『だったら前世の時にファイアー・ボールの1つでも使いたかったな。現代の日本なら割と完全犯罪にも使えるだろうし』
『あーはいそうですねー。田中さんって意外と黒い事考えるんですねー』
明らかに呆れて良そうなクリスティーネ。
俺としても魔法使いネタは飽きているんだが。
『うるさいですねー。女の子を楽しませるトーク術すら無い可哀想な田中さんの為に分かって行っているだけですからー。あーあー同人誌の続きが気になりますー。田中さん、こんにゃく探し頑張って下さいねー』
俺がクリスティーネに返事をしようとする間もなく念話は途切れた。
俺は大きなため息を一つついて、ファルタジナ邸にあるかもしれないこんにゃくを探し出す。
こんにゃくと言ったら食べ物。
食べ物と言ったら厨房。
と言う事で、厨房でこんにゃくを探したのだが。
「お嬢様? 如何なされました?」
当然、厨房の責任者であるコックに秒で見つかり声を掛けられる。
別に嘘付いてもしゃーないし、もしかしたらこんにゃくについての情報が得られるかもしれないと思った俺は、
「ええ、少々こんにゃくを探していまして、此方にあるのではないかと」
素直に尋ねてみたのは良いが、こんにゃくと言う単語を聞いたコックがしかめっ面を見せる。
「ルチーナ様。もしかしなくとも婚約者が出来たのですか?」
何故しかめっ面をしたし。
と思うが別にどうでも良い。
「いえ、その様な者は御座いません」
「ならば何故、こんにゃくを口になさりましたか?」
何だか威圧気味に聞いて来るコックだ。
高々こんにゃく如きに何を、と思うがそれはこんにゃくが安価な食べ物である世界を知っているからそう思うのだろう。
「少々気になったからですが、何か不都合な事でもありますか?」
コックは少し押し黙るが、
「下手をすれば、ファルタジナ家が王家により滅ぼされてしまいます。その様な危険な代物を迂闊に触れる訳にはいきません」
真剣な目で俺に言う。
こんにゃくが安価な食べ物、其処等辺のスーパーで売っている程度の物だった事を知っている俺は思わず笑ってしまいそうになるが、そんな事をすれば説教をされそうな空気がでているので仕方なく我慢するしかない。
しかし、ステラ嬢と同じ事を言うって事はそれが嘘と言う可能性は限り無く0に近付いたと思うべきか。
このコックとステラ嬢は接点が無いハズだから猶更そう思う。
「けれど、正式な婚約者が居るならば問題が無いでしょう? それは何故でしょうか?」
「私は貴族では無いので詳しくは分かりかねますが、どうやら正式な婚約者と手を繋いだ状態でこんにゃくに触れなければとんでもない事が起こると言われております」
「そのとんでもない事は、王家がこの家を滅ぼすと」
「はい。とんでもない事がきっかけで王家の兵隊が目覚め突撃するとかなんとか」
兵隊が目覚める?
そりゃ、兵隊も人間だろうから寝起きはするだろうけど。
何か引っかかるな。
「それで、そのこんにゃくは何処にあるのかしら?」
「例えルチーナ様であろうと、わ、わたしの口からは言えません。」
コックが震えている。
この怯え方は、お父様から大変な目に遭わされるのだろうか?
「そう、けれどこの屋敷にはあるのでしょう?」
当然コックが答えられる訳が無いが。
はいとも言えない、だからと言って俺に嘘を付くなんてとんでもないからいいえとも言えないからね。
思った通りコックは黙ったままだ。
どちらにせよ、この状況下でいいえと言って来ない以上はいと言っている様なモンだけど。
「まぁ良いわ。ちなみにこの厨房の探索を続けたらダメかしら?」
「ダメではありませんが、ルチーナ様が所望しそうなものはありませんよ」
と言う事はここにこんにゃくがある可能性は0に近いか。
今の流れなら、ここにこんにゃくがあるとするならば絶対にダメと血相を変えて言ってくるはずだ。
このコックがそこまで読み返して今の発言をした可能性も0では無いが、普通のコックがここまでの推察をして来ると考えるのは厳しいだろう。
つまり、ここにこんにゃくは無いと見て良い。
最も、厨房にこんにゃくが無いと言われたらちょっと違和感を覚えてしまうのは日本での生活が長かったからだろう。
「そう、なら仕方が無いですね。私はここで失礼させて頂きます」
俺はコックに一礼をすると厨房を後にした。
しかし、婚約者と手を繋いだ状態で触らないと王家が家を滅ぼしに来るのか。
で、その時には王家でよく分からない謎の兵隊が目覚めると。
おとぎ話と言われればそうかもしれないが、もしもその兵隊が目覚めたとしてその兵隊の正体が謎と言うのも厳しい。
が、普通の人間の兵隊だったとしてもただの貴族令嬢に過ぎない俺が抵抗出来るかと言えばまず不可能だけど。
いや、ファルタジナリングの機嫌次第か。
次に向かったのはお父様の部屋で、お父様に尋ねてみても大体コックと同じ反応。
その次はお母様の部屋で、以下省略。
まぁ、そこまで皆が口をそろえて似た反応をした以上この世界のこんにゃくはそういうモノなのだろう。




