14話
―クリスティーネの隠れ家―
無事エリウッド王子とステラ嬢の婚約破棄に成功したワケだ。
王族と貴族家、御子息の間で結ばれた婚約を破棄した事による弊害は、クリスティーネが神々ネットワークを使い、天界から取り寄せた『天界式ベル型忘却装置・ワスレール』とか言う名前の、何故かレールをした形状のベルを鳴らす事で、この婚約に関与していた人間全ての記憶から二人が婚約していた事実を抹消する事で面倒事が起こらない様にしてくれた。
あんなノリなクリスでも何だかんだ言って面倒ごとの解消は行ってくれる辺り責任感自体はあるのだろう。
で、婚約破棄に関する面倒事が解消した今、俺はクリスティーネの隠れ家に居る。
今いる部屋は、俺の部屋にある鏡台の引き出しからこの部屋に入ってすぐの部屋だ。
「ルチーナ様。これで私達の仲を邪魔するモノは無くなりました」
惚れ薬の効果で、俺にめろっめろなステラ嬢は満面の笑みを浮かべ、俺に抱き着く。
勿論、最大限のサービスをして頂いて、だ。
「フフフ、そうですねステラ。これでわたくし達は未来永劫何者の邪魔を受ける事無く幸せな」
真正面から感じる、ステラ嬢のやわらかな感触を堪能し、その感情を完全に押し殺しながらも返事をする俺であるが、そんな俺の努力なんてお構いなしに、
「そうはさせないYO。ミス・ルチーナはこの私エリウッドのモノSA」
エリウッド王子が飛びあがり、空中で上着をパージさせながら俺に飛びついた。
ちょっと待てお前、汚いモノを見せるな!
と思いながら、エリウッド王子からの強襲を回避しようとするが、
「うぎゃあああああっ」
ステラ嬢に抱き着かれ身動きがとり辛くなった状態ではエリウッド王子によるダイブアタックを回避する事は出来ず、俺の背後から抱き付かれてしまう。
俺の身体の前方からはステラ嬢による天国の至福。
俺の身体の後方からは、エリウッド王子による地獄の抱擁。
ぬわーーーー! ルチーナちゃん大ピンチっ!!!! どうする、どうすればいいのだ!?
エリウッド王子の地獄は回避したいけど、ステラ嬢の天国は手放したくないぃぃぃぃ。
ヘル&ヘブンなサンドイッチを受けている俺は頭を抱え悩む。
「あらあらー? 田中さん、お元気ですねー?」
パシャッと音をたて押し入れの扉が開かれると、中から顔を出したのはサドスティックな女神クリスティーネだ。
「ををを、クリスよ。迷える子羊であるわたくしルチーナ・ファルタジナを導いて下さいませ」
女神を前に、思わず神頼みをしてしまう俺である。
「田中さんー? そんな事よりも、神々ネットワークで面白いもの見つけたんですよー」
おい、貴様、今この状況はそんな事で済ませる様な状況じゃないぞ、少なくとも天国と地獄どっちを選ぶか超悩んで自分一人の力じゃ解決出来ない位だぞ。
「うふふー? 知っていますよー? 何だって私はSな女神ですからー? 分かってて言っていますよー? でも、面白いモノを見付けたのも事実ですよー?」
何だか腹立つ位得意気に言うクリスティーネだ。
「で、でしたら、その面白いモノとやらを紹介して下さいませ」
ヘル&ヘブン以前に自分の身体の前後から抱き締められている、それ即ちかなりの圧力が俺に掛かっている訳で、段々と息苦しくもなって来ているせいか言葉を紡ぎ出す事もしんどくなってきた。
出来る事ならその面白いモノをチャチャッと出してパパっと今の状況を開放して欲しいモノだが如何せん、Sな女神クリスティーネの前ではもう少し総合的に見て苦痛な状況を覚悟しなければならなそうだが。
「うふふー? 田中さん、ちょーーーーと待って下さいねー?」
ニヤニヤしながら押し入れ上段に戻るクリスティーネだが良い予感はしない。
ガサゴソガサゴソと押し入れの中から何かを探す音が聞こえる。
「あれれー? ありませんねー?」
わざとらしい、クリスティーネの独り言が聞えると、彼女は押し入れの下段を探し出す。
確かそこは山積みにされた多種多様の同人誌が眠っているはずだが。
それにしても息苦しい、少しばかり意識が薄れていく気がしなくもない。
「おかしいですねー?」
やっぱりわざとらしい声でクリスティーネが言う。
おかしいのは、お前の頭だろ! と突っ込みたくなるが前後から抱き締められている俺がそんな力の強いツッコミを入れる事は不可能だ。
「私の頭はおかしくないですよー?」
と、俺の心の中で思った事を都合よく拾い返事をするクリスティーネ。
「あー思い出しましたー」
棒読みな独り言を言うとクリスティーネは、押し入れから出て別の部屋に向かった。
クリスティーネが暫く別の部屋を物色した音が聞こえた後、何やら機械を両手で抱えながら俺の居る部屋に戻って来た。
クソッ、やっぱり嫌がらせをして来たか、このS女神め!
「当たり前じゃないですかー? 私はSですからー? 隙あれば田中さんに、ぢみーな嫌がらせをしちゃいますよー☆」
可愛くウィンクを見せながら言うクリスティーネ。
なんだかんだ言って美しくて可憐でびゅーてぃふるな女神に可愛気のある仕草を見せながら言われてしまうとこの位許してしまいそうになる。
悲しきおっさんの性質なのかもしれないが。
いいや、相手は女神なのだから日本に居た全ての男性は俺と同じ事を考えるハズだ。
「さー、皆さん折角ですのでー、ゲームでもしましょうー」
クリスティーネが、手に持つゲーム機を3人に見せながら言う。
このゲーム機、見覚えがあるような無い様な? いや、日本で有名だったゲーム機3種類をを足して3で割ったデザインにみえるか。
「まぁ、クリスティーネ様、ゲームで御座いますか?」
「FUFUFU。ミス・クリスティーネ、面白そうではないKA」
クリスティーネの言うゲームに反応した事で、二人はようやく俺を開放した。
「これが凄いんですよー? 神々ネットワーク漁っていましたらー、とある並行世界の日本ではダイブ型のゲーム機が発明されていたんですよー! それがもう大ヒットしていたみたいでー」
まさかクリスティーネ、この14年間の大半をそのゲームをプレイして過ごしたとか言うんじゃないだろうな?
俺の心の声を聞いたクリスティーネが、図星を付かれた表情を見せるが、無かった事にし話を続ける。
「これがまたすごいんですよー? ゲームソフトの中に直接ダイブする訳ですからー、ゲーム中現実世界に居る自分がどうなっているか気にする必要がないんですよー」
「あら? それは素晴らしい事ですわね」
「うふふー。そうでしょー? では早速始めましょー。私のお勧めは竜の冒険でしてー、面白かったんですよー。私はクリアしてしまいましたからー、外から観戦させていただきますけどー」
その竜の冒険とやらは、既にゲーム機に刺さっており、パッケージを見ると『竜の冒険~悪役魔王女ルチーナの野望~』とタイトルが書かれていた。
また、パッケージデザインは、今の俺をモチーフとしてなんか頭の両サイドに角を生やしていかにも魔王ってツラをしているキャラが描かれている。
その手にはさらわれた王女様役のステラ嬢の姿があり、魔王を打ち倒し王女を取り戻さんと片手剣を持ち上げ、俺を打ち倒さんとするポーズを決めている勇者がエリウッド王子だ。
まさか、クリスティーネの奴? このゲーム参加者に合わせてパッケージデザインを変えたのだろうか?
綺麗なタッチの絵なのだが、何処か素人っぽさを見せているその絵は一層クリスティーネ画伯が書いたデザインを予見させる。
「分かりましたわ。それでは皆様、参りましょう」




