13話
「エリウッド様! 完成ですわっ!」
額に浮かべた汗を手で拭いながら満面の笑みを浮かべエリウッドに報告するステラ嬢。
その仕草は、やはり田中太郎の胸に突き刺さり新たなるトキメキを生み出してしまう。
「OH! 実にビューティフル! 実にグレイトNE!」
ステラ令嬢の完成報告に対し、エリウッド王子がポエムを続けながらステラ令嬢を抱え上げる。
ものの見事に婚約者達がはしゃいでいる姿を見る限り、やはり2本目の惚れ薬も俺を惚れさせる効果無かったみたいだ。
しかし、ほれ薬を3本中2本使っても一切効果が出ないとなると少しばかり不安な気持ちにさせられる。
俺はファルタジナリングを使い『悪役令嬢の手引書』を呼び出し内容の確認をする。
悪役令嬢手引書は、前回よりも厚みを増していた。クリスティーネが加筆したのだろう。
『田中さんー。ほれ薬の効果ですけどー。1つ目は掘れ薬でしてー。これを飲むと物凄く地面掘りたくなるんですよー。2つ目は彫れ薬でしてー。これを飲むと無性に彫刻をしたくてたまらなくなっちゃうんですよー。あははー? 田中さん、面白い事好きですよねー? 折角ですのでー、余興の一環と思って効果は伏せておきましたー。3つ目は正真正銘の惚れ薬ですから安心して下さいねー』
今更、惚れ薬の効果が丁寧な解説が書かれていた。
確かに、掘れ薬も彫れ薬もぜーんぶほれ薬ですよね!
何だかムカついて来る気がする反面、掘れ薬のお陰でステラ嬢に対し夢を見られた訳であり、白く広がる湯気の先に広がる楽園を素晴らしいまでに妄想出来たとなればそれはそれで悪い話でもない、少なくともクリスティーネに対し怒り散らす程ではないな。
3つ目は惚れ薬と書いてあった。ならばこの薬をステラ嬢に飲ませ、今度こそステラ嬢様をめろっめろっにさせてやるのだ。
「おーっほっほ、ステラ嬢。ステキな芸術感謝いたしますわ! お礼にこれを飲みなさい」
俺は惚れ薬の3本目をステラ令に差し出す。
「ルチーナ様。丁度喉が渇いていた所で御座います。度々のお気遣い感謝致します」
ステラ嬢が正真正銘の惚れ薬を受け取り口に含む。
フフフ。これで、今度こそステラ嬢が俺のモノになって、無事に婚約を破棄させてやる事が出来るッ。
俺が勝利を確信し、ステラ嬢との今後を妄想し、傍目からすればきっと物凄く気持ち悪いにやけ顔をしたところで急にエリウッドのポエムが止んで、
「Oh~愛しのステラよ~私も歌い続けて喉が枯れたのSA~君の持つフルーティーなジュースを私にも分けてくれたまえ~」
ステラ嬢が半分程お飲みになられた正真正銘の惚れ薬を、エリウッド王子がステラ嬢から受け取って。
赤い液体を~きっと彼はいちごぢゅーすと思って~ごっくんと一飲みしたのさ~♪
もーそーにふけっていたおーれは~突然起こった出来事に~か~らだがうーごかずぅ~。
こーのまーまでは、エリウッドおーじもおーれに惚れてしまうのさ~と気付いたのは惚~れ薬を飲み終わったあ~とだったのさぁ♪
願わくば、惚れ薬は全部飲まなければ効果が無いと言ってくれ給え。
ステラ嬢から惚れられなくなってしまうが、男であるエリウッド王子から惚れられるよりはよっぽどマシだ。
「ル、ルチーナ様、じ、じつはわたくし前々から思っていた事がございます」
俺の願望とは裏腹に、ステラ嬢が頬を赤らめモジモジとしながらじぃぃぃぃぃぃっと俺を見つめる。
この時点で、惚れ薬の効果は少なくとも半分位飲めば効果が現れる事が分かった。
先に効果を発揮させたのがステラ嬢でだった事は辛うじての救いだろう。
と、思っていると、もにゅっと優しい音と共に俺の腕に柔らかい感触が伝わる。
こここ、これは! ままま、まさかステラ嬢のお胸さんの感触か!?
予想外な、至福の瞬間を感じ取った俺の精神は天界向かいかける。
なんなら、いっそのことこのまま天界まで行ってしまって再度転生をしても構わない気持ちにさせられるが、首を小さく振り意識を現実に戻し平静さを取り戻して、
「あら? どの様な事でありましょう?」
ゆっくりとした口調でステラ嬢に返事をする。
「はい、及ばせながら私ステラ・キルミールはルチーナ様に恋心を抱いてございます」
真っ直ぐな瞳で俺をみつめ、ほほを赤く染めながらも言い終ると、恥ずかしさに耐えられなくなったのか視線をそっと外すステラ嬢。
流れに身を任せ、このまま立ち上がりステラ嬢を抱きしめ様と思うが、そうは問屋が卸さない様で、
「Oh~ミスステラ~それはこの僕が認める訳には行かないNe」
髪をさっとかきあげ、俺の隣に立つエリウッド王子。
「愛しき貴族令嬢ルチーナよ、僕の婚約者になりたまえ」
瞳を輝かせ私をじっくりと見据えながら、片膝を立てひざまづくエリウッド王子。
チッ。どう考えてもエリウッド王子にも惚れ薬の効果が効いているな。
このままでは、例え王子と言えど男相手にあんな事やこんな事をしなければなってしまう。
それは避けたい、しかしここまで来たのならばステラ嬢を手にしない訳にもいかない。
「嫌で御座います、ルチーナ様はわたくしステラのモノでございます」
ステラ嬢は、ふわっとエリウッドをにらみつけると椅子に座る俺を手繰り寄せる。
この際、俺の体勢が崩れ掛けるも何とか立て直し立ち上がるとステラ嬢は更にべったりと俺にくっついた。
「HAHAHA! 恋に障壁はつきものSA! 良いだろう、婚約者であった僕達は気が合うNE!」
ステラ嬢に対し宣戦布告するエリウッド王子だ。
うん? そう言えば君は今さっきまでステラ嬢へ向けた愛のポエムを5章まで歌って無かったが?
「おっしゃる通り、婚約者であった貴方とは気が合いますわ。宜しいですわ、その勝負受けて立ちますわ。どちらがルチーナに様にふさわしいか白黒つけましょう」
俺としてはステラ嬢一択なんですけど、二人の空気を見る限りとてもじゃないけど俺が口出し出来る雰囲気じゃない。
かと言ってこの空気、取り合われる俺がビシッと言わなきゃ収まりそうにない。
俺はステラ嬢を優しく振り解き二人の間に立ち、指を天に向け差しながら、
「おーほっほっほ。このあたくしを取り合って踊り散らすが宜しくてよ!」
俺は高笑いを決め、二人の勝負をすげー勢いで煽ったのであった。
仕方が無い、仕方が無いのだ。
この空気、悪役令嬢である自分の立場を守る為にはこうするしか無かったのだッ!!!!
どーーーーしてこーーーなったああああっ!!!!




