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悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2章「おっさん、ルチーナ・ファルタジナに転生する」
13/53

13話

「おーほっほっほ。まさか、その様な事御座いませんわ。ちょっと豆腐の角で頭をぶつけて記憶が混同しただけですわ」

 

 頭がこんがらがっている俺は何言ってんだ? と自問自答したい事を抜かしている。

 一先ず、クリスの力によりファルタジナ家の何処かにこんにゃくが生成されたという事にしておくしかない。


「そうですか、それならば良かったです」

 

 ステラ嬢が安堵の溜息をつき、続けて。

 

「ところでルチーナ様。豆腐とはどのような物で御座いましょうか? 大層お堅い物であると思いましたが……」


 ステラ嬢が不思議そうな表情を見せている。

 あーそうか、この世界に豆腐なんて代物は無かったな。

 勿論日本のことわざなんてある訳が無い。


「そうよ、とてつもなく硬いのよ。うっかりそれに頭をぶつけた時はどうなるかと思いましたわ」


 何故か俺は豆腐についてでっち上げていた。


「キルミール家にはその様な物が御座いますの? 是非1度拝見させて頂きたいものです」

「いえ、ステラ。豆腐は物凄く危険よ。そう、見る物を恐怖に陥れるの。しかも、心が綺麗な人を狙い撃つかの様に純白無垢な人間を恐怖に陥れる傾向が強い」


 どうしてだかわからない。

 気が付いたら、ゆっくりとした口調で低いトーンの声でステラ嬢に説明していたんだ。

 俺は悪くない、俺は悪くないぞ?

 あ、ステラ嬢の瞳孔が縮んだぞ。

 恐怖感でも抱いたか?


「で、でしたら。ルチーナ様はどうして御無事なのでしょうか?」

「それはね。私の心は真っ黒に染まっているからなの。だから豆腐は私に対して恐怖に陥れる事なんてしない」

 

 俺は自分の髪を掻き上げる。


「まさかルチーナ様が? ルチーナ様の心が真っ黒でしたらわたくしの心が純白無垢ではありません。ですので豆腐を拝見しても問題なさそうです」


 ニコっと微笑むステラ嬢。

 可愛い。

 それを自然とやってみせるのだから何とも悪魔的な可愛さとしか思えない。

 

「そう。なら私の心は純白無垢な天使そのもの。だからステラ。貴女もその通りなの。嗚呼、豆腐に見せられた恐怖がトラウマとして蘇ります。怖い、ああ怖いですわ」


 我ながら実に酷い棒読みだった。

 しかし、そんな棒読みですらステラ嬢は真実だと思った様で、再度身体を小さく震わせている。

 

「そ、そうですか……そうですよね。でしたら諦めるしかありません」


 よっぽど豆腐の事が気になっているのか、ステラ嬢はがっかりしているみたいだ。

 それはそうと、どうしたものか。

 ステラ嬢の話を聞いた限り、こんにゃくが俺の想像する以上に重要な存在となっている。

 それも、それが無ければ家が滅ぼされる位に。

 クリスティーネからの指令は、悪役令嬢として正ヒロインとの婚約を破棄する為にこんにゃくを奪え、だ。

 しかし、どうもそれをやればキルミール家が滅ぶかもしれない。

 女神クリスティーネはそんなド畜生だなのだろうか?

 確かにサディストではあったが。

 いや、女神からしたら人間なんてただのおもちゃとも考えられる。

 この世界の家が1つ滅ぼうが知ったこっちゃないし何なら惑星基準なら家が滅ぶくらい日常茶飯事に起きているだろう。

 

 キルミール家が滅ぶ、か。

 目の前には天使と言わんばかりに可憐な少女がいる。

 ただ、彼女はこの国の王子様と婚約をしている。

 つまり、俺にとっては彼女がどうなろうが知った事では無いし関係も無い。

 しかし、滅ぶとなるならばそこの人間達はまず処刑されると考えるべきか。

 俺の行動1つで目の前の天使が処刑されるかもしれない。

 いや、冷静に考えれば女神の指令に対して安請け合いしたが、そもそも悪意の元婚約を破棄させる事自体トチ狂っている。

 女神からすれば高々人間の1匹の婚姻とかどうでも良いしおもちゃとしか思っていないのだろうが。

 

 俺にはファルタジナリングが与えられている。

 ある程度は自分の都合を良くしてくれる便利な指輪だ。

 ステラ嬢が言った通り、こんにゃくが無ければ家を滅ぼされると言うならば、自分の家にあるそれで試してみる手はある。

 その上でキルミール家にあるこんにゃくを破棄かを再度検討すべきか。

 

 あのサディスティック女神ならまだしも、残念ながら今の俺は自分の裁量で1人以上の人間が処刑される様を傍観出来る程精神が強い訳ではない。

 ここは一旦帰宅し、情報を拾うしかない。

 どうせ、この手の貴族が集まるパーティーならファルタジナリングの力で何度でも開催出来るだろうから。

 

「懸命な判断ですわね。ステラ、それではご機嫌よろしくて」

 

 俺は一旦ファルタジナ邸へ戻る事にした。

 まぁ、その前にパーティーを適当に過ごしたんだけど。

 何か知らんけどこの場にエリウッド王子も居たみたいで、見付かるとマズいからと遠くからその姿を拝見させて貰った。

 金髪で中々にイケメンな王子様だった。

 感想はそれ位と言いたいが、かなりの距離があったにも関わらずエリウッド王子と目が遭ったような?

 しかも、何秒か。

 意図は分からないが、いや気のせいかもしれないのだけども。




『たなかさーん、どうでしたかー?』


 ファルタジナ邸に戻るや否や、クリスティーネが念話で話掛けて来た。


『んー、こんにゃくについての情報が足りないからその収集が必要と思ったよ』

『えー? どうしてですかー? そんな難しい話は無いと思いますけどー? パッと奪ってパッと婚約破棄させてパッと悪役令嬢の振る舞いをするだけですよー?』


 その婚約破棄をさせる事態軽い事ではないがそれはさておいてだ。


『本当にそんなお手軽な話なのか?』

『そうですよー? 田中さんみたいに頭脳が明晰で無い方へのファーストミッションを難しくする訳無いじゃないですかー』


 しれっと人をディスりやがって、この女神め。


『うーん、いやさ、俺もそうだと思ったんだ。幾らクリスティーネがサディストだからって人の道を外れた極悪非道な事はしないと思う』

『それはそうですよ、なんたって私は女神様ですから』


 無駄にドヤってそうな声を出しやがる。

 

『いやさ、ステラ嬢が居るじゃない? あの娘が言うには、家にこんにゃくが無ければ、その家は王家に滅ぼされるらしいのよ』

『なんですか? そのつまらない設定はー? 私がそんなつまらない設定する訳無いですよー?』


 婚約破棄をこんにゃく破棄とかしょうもないおやじギャグ未満に落とし込んでこんにゃくを破棄させようとしておいてよく言いやがる。

 

『そもそもですよ、私は女神ですよ? 純白無垢な女神様です。もしもそんな事を企てる様な個体でしたら、適性検査で弾かれて女神にはなれてませんよー?』


 そう言う割に、他人の婚約を破壊する事は問題無いのか。

 この世界で女神になれる基準がよく分からんな。

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