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悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2章「おっさん、ルチーナ・ファルタジナに転生する」
12/46

12話

 目の前の夢を前に儚く散る事しか出来ない事を悟った俺は意気消沈し、ぶくぶくぶくと温泉の中へ沈んでいったのである。勿論、30秒後に息が苦しくなり浮上する訳であるが。

 十二分に温泉を堪能した俺は、温泉から上がり収納システムからタオルを取り出し身体を噴き上げ服を着た。

 俺と同じタイミングでエリウッドとステラ嬢も温泉から上がるも身体を拭くモノが無かった為視界が悪過ぎる中、手探りで二人にもタオルを渡した。

 二人共服を着た所で元々二人がくつろいでいたテーブルへ戻った。

 さて、最初の惚れ薬はとてもじゃないが惚れているとも思えないが、もしかしたら俺が気付いていないだけで、深層心理上ではステラ嬢が俺に惚れたかもしれない。ならば、2つ目の惚れ薬を使いその効果を高める必要がある。


「おーほっほっほ、ステラお嬢様、悪く無いお湯でございましたわ。お礼にこれを差し上げます事よ」


 俺は2つ目の惚れ薬、白色の液体が入った小瓶をステラ嬢に手渡した。


「これはルチーナ様、丁度水分が欲しいと思っていました。お気遣い感謝いたしますわ」


 ステラ嬢は俺から受け取った惚れ薬の中身をゆっくりと飲み干した。

 それに対し、エリウッド王子が何か羨ましそうにしているが、気にしても仕方が無いだろう。

 これで、ステラ嬢が俺にめろめろになり、無事婚約を破棄させてやる事が出来ると思うのだ。

 俺が2本目に使った惚れ薬の効果が表れる事を待ち遠しく思いながらステラ嬢を見ていると、


「ハッ! エリウッド様、私、素晴らしい事を閃きましたわ! 暫くお待ちになって下さい!」


 まるで宇宙の真理を1つ閃いた様な表情を見せたステラ嬢は、びゅーんっと駆け足で何処かへ向かった。

 そう、びゅーんと駆け足で、エリウッド様と告げて、だ。

 ルチーナさまぁ(はぁと)なんてハチミツの様に甘くとろけそうな瞳でじぃーっとこの俺を見つめながら飛び付かれる、素晴らしい事が起こらずとも、だ。

 おいおいおいおい、これって惚れ薬じゃないのか!? まさかこれも伏線でしかなくって? 3本全部堪能して初めて効果を発揮します、みたいな感じか?

 俺はもどかしい気持ちを胸に秘めたまま、深いため息をつきステラ嬢を待った。

 ステラ嬢を待つ事しばし、隣に居るエリウッド王子様がなんだかよーわからんポエムを歌い出す。

 ステラ嬢様に対する愛を綴異っている様だが、せめて本人の前で綴れ! 俺に聞かせてどーすんだよ!

 まさか、こやつ俺にきょーみあるとかいうんじゃないだろうな!?

 いや、有り得るぞ、さっきの認めたくない推測が正しいのなら。

 婚約者おにの居ぬ間になんとやらってのはこの世界でも常識なのかもしれん。

 だがしかし、俺はエリウッド王子が自分に求愛する様子を想像し、背中をゾっとさせる。

 やめた、変な事を想像するのは精神衛生上宜しくない。

 エリウッド王子からステラ嬢へ綴る、愛のポエムを6曲聞かされたところで、生き生きとした表情をするステラ嬢が戻って来た。

 な・ぜ・か。

 肩に工具箱をかついで、だ。


「エリウッド様! わたくし、芸術が爆発しそうですわ!」


 嬉々とした表情を見せながら工具箱を開け、中から石材を彫る道具を取り出すステラ嬢。

 いや、だから、キミはいつからそんなキャラになったのだい? と俺が疑問を思っているとそんな事おかまいなしに、


「Oh~マイハニー、さぁ素晴らしき芸術を爆発させたまえ」


 両手を広げながらものすげー勢いでステラ嬢をほめるエリウッド王子だ。

 だめだこりゃ、とてもじゃないけど俺に惚れている様には見えない。

 まぁ良いや、ほっといても俺に害がある訳じゃない、このままステラ嬢の芸術を傍観させて貰うとしよう。

 俺はテーブルに付属されている椅子に座り、多分予備と思う空のティーカップに紅茶を注ぎ一口程飲んだ。


「ステラ様、お待たせ致しました」


 ステラ嬢の従者っぽい人達が、高さ2Mで幅はエリウッド君より少し太い石を持って来た。

 ステラ嬢はこれから石像を彫るのだろう。

 俺が眺めていると、ステラ嬢が彫刻具を使いカツカツカツ、音をたてながら石を彫る。

 その最中、俺の隣ではステラ嬢に向ける愛のポエムがエリウッド王子の口より垂れ流されている。

 どちらかと言えば耳障りでしかないポエムを聞かされながら、かと言って相手は王子様であるが故に指摘する事の出来ないジレンマと戦いながら、俺はステラ嬢が産み出す芸術の行方を見守った。

 先の例により、ステラ嬢は人間離れした速度で作品を作っていくのだが。

 石像の髪が彫れて、顔が彫れる。

 その容姿は俺の隣でポエムを綴っているエリウッド王子にそっくりで、ステラ嬢はエリウッド王子の石像を作るつもりだろう。

 続いてステラ嬢は上半身に着手したのだが。

 おや? 服は? ねぇ、ステラちゃま? 愛しきエリウッド王子様の石像に貴女はお服を着せてあげないのですか?

 その刹那、俺の脳裏にナイトメアがよぎる。

 いや、大丈夫、まだ1匹だ。

 自分をモデルとした石像が全裸にされる事など一切気にしていないのか、エリウッド王子はポエム第三章を始めた。

 ステラお嬢様は華麗に彫り続け、遂にエリウッド像の下半身部分に到達する。

 さて、このままステラ嬢が石像の下半身を上半身と同じ目に遭わせてしまえば見事エリウッド王子をモデルとした全裸の石像が完成されてしまう訳だ。

 そりゃー、一部の女性と言うか王子様の全裸姿なのだから大概の女子はきゃーきゃー喜びながらガン見しそうなんだけど、残念ながら俺の精神構造は男だからなぁ、特別な趣味がある訳でも無いしわざわざ見たいとは思わない。

 願わくば、パンツの1つでも穿かせて欲しい所であるが。

 俺の心配事とは裏腹に、当事者であるエリウッド王子はポエムの第4章を綴り始めた。

 ステラ嬢は遂にエリウッド王子のピーに当たる部分に到着した。

 ノリノリな雰囲気を醸し出しながら石像を彫るステラ嬢である。

 さて、ここまで来たのならば石像エリウッド王子の下半身がどうなるかの結末を見届けるしかあるまい。

 俺は一杯目の紅茶を飲み干し、ティーカップを専用の皿の上に置く。

 なんと俺の予想とは裏腹に、腰の周りに紐が創られていく。ぐるっと一蹴周って、どうやら穿き物は想定されている様だ。

 ピーを見なくて済んだ事に対しほっと一息し胸を撫で下ろすと、続いてピーに当たるエリアには四角の布状に彫られて行く訳だ。

 ここで、ステラ嬢がエリウッド石像の下半身に穿かせている物が気になる所だ。

 腰の周りを紐で縛り、ピーの部分は四角い布で覆われる、確かそんな下着あった様な?

 俺は記憶の奥底をほじくり返しそれが何なのかを探り当てる。

 そうだっ! 思い出した、あれはHUNDOSHIだっ!

 脳の奥底に引っかかっていたモヤモヤが晴れた俺は一人で勝手に満足し、誰も見て無い中謎のドヤ顔を決める。

 うん? ちょっと待てよ? 何故にこの世界に住む令嬢が褌の事を知っているのだ? この世界のベースはヨーロッパと思うのだが。

 思いあたる事と言えば、2本目の惚れ薬の効果だけど。

 心の中で違和感は育つが、俺の隣にはポエム第五章に移行したエリウッド君に、視線の先には生き生きとした職人の顔をし、石像を作成するステラ嬢。

 この二人を意識してしまうと俺が考えている事なんて露程にどうでも良い気にさせられてしまう。

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