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AKUYAKU☆令嬢に転生したおっさんのAKUGYOU記1  作者: うさぎ蕎麦
1章「おっさん、交通事故で死す」
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1話

 俺は田中太郎たなかたろう35歳の非正規労働者だ。

 世間の流れに乗る事に失敗し、正社員にもなれず今日この日まで漠然とした人生を送って来た。

 いや、違うのだ、ブラック企業がはびこる世の中、正社員なんてやったらそれこそ死に急ぐだけじゃないか―。

 カノジョ? なんだそれは? そんな守るべきものがあるならとっくに頑張っている。

 と、言い訳まみれで戦いもしなかった結果、何も無い空っぽなおっさんが生まれてしまった訳であり、

 

「ハァ、友達は結婚したり出世したり王道人生を歩んでるっつーのに俺は」

 

 今日もまた、車で職場へと向かう道のりで過去を思い返しながら独り言を呟く。

 今の自分に与えられている結果は、自分が選んだ事なのだから仕方が無いと思いながらも、周りの連中が手にしている結果との大きな差を受け入れろと言うのは難しい。


「前方にトラックか、運送業の人達も大変だよな」


 赤信号の交差点に辿り着いた俺は、前方で止まるトラックの運ちゃんに少しばかり同情しながらもブレーキを緩やかに踏み丁寧に停車し、信号が青になるのを待つ。

 信号待ちの最中、ふとバックミラーに目をやると後方からトラックが迫って来る事が分かった。

 だから何だと言う話であるが、万が一にも後ろのトラックが止まらなかった日には普通乗用車に乗る俺は車もろとも押し潰されてぺっしゃんこ、になってしまう。

 とは言えその様な事、後ろのトラックに乗っている運転手が居眠りでもしない限りまずないから気にしても意味はない。


(うん? 後ろのトラック減速しない? あれか? ギリギリまで前の車に近付いてから強いブレーキを踏むタイプか?)


 速度をギリギリまで維持し、強いブレーキを踏み停車する運転手は居るだろう。

 しかし、トラックがその様な事をしてしまうのは積荷に対してダメージが入ってしまう以上避けるべき事であると思うが。

 後方から迫りくるトラックの運転手に対し考察をしていたが、どう考えてもブレーキが

間に合わない距離を越えても減速する気配を見せない。このままでは、俺はトラックに挟まってペッシャンコのミンチになってしまう!

 だからと言って、交差点で信号待ちをしている現状ではアクセルを踏み進む事も不可能であり出来る事と言えば運転席から脱出する事しか無い、俺は運転席から脱出しろと脳から身体に命令するが、


 ガッシャーーーーン!!!!!


 残念ながら、脳から緊急避難命令を受けた俺の右手が僅かにシートベルトの装着口へ向け微動した所で物凄い音が耳に入った所で俺の意識は途絶えてしまった。


―天界―


 気が付けば俺は病院の待合室にある椅子に座っていた。

 部屋の広さは大体20畳位だろうか? 病院の待合室にしては狭い方だと感じる。

 総合病院では無く、個人経営の病院だろうか? 

部屋を見渡すと俺が今座っている場所を中心に、右手方向手前に建物の外に出られる出入り口があり、左手方向手前に受付、左手方向奥には診察室へと続く通路がある。

また、この待合室には患者さんらしき人が同じ待合室で順番を待っているおり、受付で患者さんの応対や事務処理を行う看護婦さんに、診察室へ呼び出す看護婦さんがいる。

 やはり完全に病院の待合室に見えるが、俺の記憶が正しければ、俺は後方よりトラックからぶつけられ前方に停車していたトラックの間に挟まれたと思う。

 俺が今まで見て来た同様の状況である事故現場の画像を見る限り、間に挟まれた一般車は運転者が生き残るスペースが存在出来ないレベルで、誰がどう見ても身元の判別すら出来なくなりそうなレベルの即死をする位にぺっちゃんこになっているはずだ。

 しかし、今の俺は5体満足である上に身体の痛みは何も感じない、あの状況から奇跡的に助かったとしても身体の何処かが痛むと思うのだが。


「田中太郎さん、こちらへどうぞ」


 俺が現状を考察していると、担当の看護婦に呼ばれた為診察室へ向かった。

 今居た部屋から診察室へ向かう通路を10歩程歩くと左手側に診察室があった。

 俺は扉をノックし、中に居る医者からの返事を確認すると扉を開け診察室の中へ入った。

 診察室は一般的な広さであり書類が並べられた事務机に、医者用と患者用の椅子が設置されている。


「どうぞ、そこにお掛け下さい」


 部屋の中に居る医者用の椅子に座り、薄紫色でロングヘアーな女医が着席を促した。

 女医は特に表情を作る事無く淡々とした空気をまとっている。

 しかしながら、そんな様子であるにもかかわらず凄まじい美しさを感じ取る事が出来る。まるで女神か何かと勘違いしてしまう位に。


「俺の身体は大丈夫でしょうか?」


 俺は、気を抜けば見惚れたまま小一時間経過してしまいそうな美人女医を目の前に気を保ちながらも口を開く。


「田中太郎さんですねー。あなたの身体は大丈夫じゃありませんよー? ええ、今の田中さんは無傷ですけどー」


 女医は机の上に乗せられた資料をチラチラと見ながら事務的な口調で言う。


「俺の身体が大丈夫じゃないってどういう事ですか?」

「えーっと、聞いちゃいますかー? 仕方ありませんねー、田中さんもう死んじゃいましたから今更貴方がショックを受けるとか関係ありませんからねー」


 妙に軽いノリの女医だな、仕事以外で人と接する事が少ないから心がはしゃいでいるのだろうか? いや、いや、いや、待てよ待て待て、今この人なんて言った? 田中さんもう死んじゃいましたって言ったよな!?


「俺が死んだのですか?」


 心の中では慌てふためきながらも、冷静さを保ちながら返事をする。


「そうですよー? トラックとトラックの間に挟まれてどっかーんですからねー? 田中さん、ぐちゃぐちゃのぱっきんぱっきんになってめっためたになっていましたよ? あ、具体的な状況知りたいですか? もう、仕方無いですねー具体的な状況を記した写真がありますし説明も出来ますけど必要でしたか???」

そうか、あの後乗っていた車は爆発までしたのか、と考察を始める暇もなく畳み込む女医。

 何だか口元が緩んで目も笑いだして物凄く楽しそうな表情をしながらはきはきと言って来た訳だが、この人グロテスクなものが好きだったりするのだろうか?

 いやいや、俺は死んだと告げられたのだぞ、何で冷静な考察をしているのだ!? 女医の説明に対し俺の身体が5体満足なのは何故だ!?!?!? あれか? ここは死後の世界とやらか? 死後の世界で目の前にいるのがお医者さん??? 一体どう言う事? 死んだ人間って治療できるのか???


「いや、遠慮しておきます」


 俺は混乱する頭の中、必死に否定の言葉を紡ぎ出し言葉に出す。

 残念ながら俺はグロテスクなモノを見る趣味が無いので、ましてや自分がぐちゃぐちゃになった姿なんか見たい訳が無い。

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