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ガチャマン  作者: 大野半兵衛


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045_波紋

 


「そうなんだよ。魔王も大変なんだぞ」

「そうなんですね、こっちも勇者がクズで大変だったんですよ」


 年寄りがお茶を飲みながら話をしているような……。ゴルドはそんな光景を見つめていた。


「こっちだって四天王がうるさくて、遊びにもいけないんだよ」

「うん。僕もちょっと前まではクズなお嬢様の下で、奴隷のような扱いを受けていましたので、自由がなかったんです」

「ラックも苦労しているんだな」

「魔王さんも、大変ですね」


 わけの分からないシンパシーのようなものが、2人の間に築かれていく。


「よし、決めた!」

「どうしたのですか?」

「ラックはいい奴だから、ラックがいる間は人間界を攻めないことにした!」

「え? いいんですか?」

「ああ、構わないぞ!」


 そこでラックは気になったことを聞いた。


「でも、魔族全体が攻めてこないわけじゃないでしょ?」

「まあ、私の部下は抑えてやれるが、末端の跳ねっ返りがいないわけではないからな。そこは人間も同じだろ?」

「そうですね。でも、魔王さんが攻めてこないと言うのは、本当にありがたいです」

「うむ。そうだろ、そうだろ」

「あ、でも、このベルメルリドはどうしましょうか?」

「好きにしていいぞ。そいつも私の命令を無視した奴だ。どうなろうと、私のあずかり知らぬことだ」


 魔王はとてもフランクな人物だった。しかもラックがいる人間界には攻め込まないと約束した。

 この情報はすぐにサダラム教やバーンガイル帝国にもたらされた。


「そのようなことが本当にあるものなのか?」


 皇帝は玉座に座り、そう呟いた。


「魔王が言うことなど、信じられません!」


 多くの貴族は今回のことを信じないと言った。信じる信じないは、個人の勝手である。

 そもそも、人間は防衛する側である。デモンズゲートの発生方法も知らなければ、魔族と戦いたいとも思ってもいないが、攻められるので防衛していただけだ。

 信じたくなければ信じなくてもいい。ラックにとってどうでもいいことである。


「しかし、もしその情報が正しければ、ラック・ドライゼンは魔王と通じているということですぞ。これは由々しき問題でございます」

「そうだ。そのドライゼンなる者を陛下への反逆の罪で断罪するべきでしょう!」


 気性の激しい貴族がラックを断罪するべしと、声高に罵る。

 皇帝はそういった貴族たちを冷めた目で見ていた。


「陛下。よろしいでしょうか?」


 白髪の老人が進み出た。この老人は、皇帝の大叔父に当たるベルスト・アブラハム公爵である。


「アブラハム公爵か。何か?」

「はっ。ただ今、ラック・ドライゼン殿を断罪するべしと言った者を処分なさいませ」


 その言葉に謁見の間に緊張が走った。


「そもそもラック・ドライゼン殿は、この帝国の勇者だった者によって家族を殺されております。つまり、我が国に恨みはあっても義理はありませぬ。つまり、彼が帝国に何かを配慮する必要はないのです。そんなことも分からぬ者は、ラック・ドライゼン殿が帝国に協力してくださることになった時に、必ず邪魔になります」

「アブラハム公爵の言は正しいかもしれぬ。だが、それだけで処分はやりすぎではないか」


 皇帝も貴族たちのバカな考え方に腹を立てていたが、このていどのことで罰を与えるわけにはいなない。そんなことをすれば、縁者たちにラックが逆恨みされることも十分に考えられる。


「では、もっと踏み込んだことを申し上げます」

「何か?」

「ラック・ドライゼン殿が生きている限り、魔王は攻めてくることはありません。つまり、ラック・ドライゼン殿を罰せよと言った者たちは、魔王の侵攻を呼び込む者たちにございます。それ即ち、陛下に対する反逆の意思ありと、某は愚考いたします」

「なるほど、そういう意図があると考えれば、看過できぬな」

「お待ちください! 某に陛下への反逆の意思などございません!」


 貴族たちが弁明するも、皇帝はラックへの好感度アップのために、貴族たちを処罰するほうに傾いた。

 理由が謀反ともなれば、他の貴族たちも簡単に擁護はできない。もし擁護したり、ラックへの恨み節を述べたら、皇帝への謀反を疑われてしまう。これならば、ラックへの風当たりを弱めることができると考えたのだ。

 謀反は疑われるだけでも罪に問われるというほどの、重い罪だ。そういったことに関わらないのは、貴族として正しい選択である。つまり、ラックのことをとやかく言う者もいなくなるということである。


 その頃、教皇庁では……。

 教皇の部屋の中で教皇と四人の幹部たちが頭を突き合わせていた。


「魔族が元は人間などということは、サダラム教の教義に反することにございます。決して認められるものではありません」


 帝国にもたらされた情報以上の情報を、聖女カトリナからもたらされた。その情報は、あまりにも衝撃的な内容で、教皇を始めとした幹部たちも頭を悩ませている。


「ことは教義の根幹に関わる重大事。一度、聖女様と賢者殿を呼び戻して、ことの詳細をお聞きになったほうがよろしいのではないでしょうか?」

「いや、それはマズいであろう。ラック・ドライゼン殿は今でも聖女様らに心を開いてはいないと聞く。もし、ここで聖女様らを戻せば、ラック・ドライゼン殿を抑える者がいなくなります」

「ならば、聖女様だけ戻しましょう」

「賢者殿だけでラック・ドライゼン殿を抑え込めるだろうか?」

「はあ……。ベルナルド・ファイナスとアナスターシャ・モーリスの愚考が祟りますな。あの二人がまともであれば、ラック・ドライゼン殿もこのように聖女様らを拒絶されることはなかったものを……」

「今さらそれを言っても仕方がないであろう。今はラック・ドライゼン殿に協力を仰がねばならぬ」

「だが、ラック・ドライゼン殿は魔王との不戦を受け入れたと言うではないか。それは、人類の代表として勇者様を助けて魔王と戦うことを放棄したことに等しいのではないのか?」

「だが、ラック・ドライゼン殿が生きている限り、魔王は攻めてこないと言うではないか」

「ラック・ドライゼン殿が長く生きれば、それだけ魔王の侵攻に備える時間ができたと考えることもできる」

「「「「………」」」」

「とりあえず、聖女様だけ帝都に戻し、話をお聞きしましょう」

「「「そうであるな」」」


 四人の幹部は、なんの結論も出すことはできず、それを聞いていた教皇も嘆息するだけで結論は出せなかった。


 結局、聖女が戻っても何も話は変わらず、誰もが束の間の平和を享受することになった。

 結論を出さないことが、今回の結論になったのだ。


 ラックはそれ以降も旅を続け、やがて人々の記憶から消えていくのだった。

 だが、そのそばには常にゴルドとシャナクがいた。2人は決してラックから離れず、ラックも2人を心から頼りにしていた。


 ラックを虐げたアナスターシャとベルナルドは十年以上の逃亡生活の末、最後は辺境の地で野垂れ死んだ。その後、2人が堕聖霊になったのは言うまでもなく、魔王からのプレゼントとして、ラックの下に贈られることになった。

 魔王には魔族になりたての者の前世が分かるのだ。それが魔族を率いる魔王の権能の1つであった。


 ラックは前世の記憶もない2人の魔族を殺す気になれなかったが、本能による怒りをラックへぶつけてきたため、ラックは仕方なく2人の魔族を成敗した。


「魔王さんも要らないことをしてくれたよ……」


 人が死ぬと聖霊になって、酷い恨みを持っている聖霊は堕聖霊になる。それが魔族の正体だが、それなら魔族が死んだらどうなるのか? 答えは誰も知らなかった。

 精霊王エフェナイスも魔王も知らないと言った。もしかしたらその魂は消滅してしまうのかもしれない。そうなるのは、悲しいことだとラックは思った。


 聖女カトリナがラックの信頼を得ることは最後までなかった。賢者ローザは適度な距離を保ちラックと時々連絡を取るていどには友誼を結べたが、カトリナは最後までサダラム教の聖女として振る舞ったからだ。

 人を騙してサダラム教を護ろうとするカタリナは、ラックから見たら信用できる人物ではなかった。残念なことだが、人は簡単に変われないということだろう。


 晩年のラックは人が立ち入らない山の中で、ゴルドとシャナクと共に暮らした。

 しかし、ラックに助けられた者や、楽しい思いをした者たちが、ラックの最後を看取ってくれた。幸せな最後になったと、ラックは笑顔で逝った。


 

長いことガチャマンを読んでくださり、ありがとうございました。



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