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041_殲滅と冒険者ギルド

 


 魔族との戦いは、死炎(デスファイア)から始まった。

 魂を焼くという死炎(デスファイア)の、邪悪で黒い炎がラックたちを襲う。


「させません! ホーリーシールド!」


 カトリナが、神聖魔法のホーリーシールドを展開して、死炎(デスファイア)を防ぐ。


「ほう、死炎(デスファイア)を防ぐとは、やるな小娘」

「私は、魔族を屠る聖女カトリナです! 覚えておいてください!」

「聖女だと……?」


 魔族はカトリナを見て、ローズ、シャナク、ゴルド、そしてラックを見た。

 その目にはやや戸惑いがあったが、それはすぐに消えた。


「はーっはははははは! これはいい。まさか、勇者パーティーに遭遇するとは、思ってもみなかったぞ。私は運がいい! はーはははははは」


 高らかに笑い声をあげる魔族は、ラックたちを勇者パーティーだと断定し、運がいいと言う。


「運がいいのは、私たちだ」


 死炎(デスファイア)のお返しとばかりに、ローザが魔法を放った。

 ローザの魔法の中でも、最大の威力を誇る爆破魔法のナインドラゴンフレアである。

 恐ろしいまでの熱量を持った九つの竜の首が、その(あぎと)を大きく開けて、魔族に襲いかかる。

 魔族はその攻撃を器用に躱していくが、九つ全ての竜の首を躱すことができず、三つの首が命中して大爆発を起こす。


「ぐあぁぁぁぁぁっ!?」


 九つ全てが命中すれば、いくら魔族でも消滅するほどの大爆発を起こしていたところだが、三発だったことで魔族は辛うじて命拾いをした。


「おのれ! この私に傷をつけるとは! 許さんぞ、貴様ら!」


 魔族は右腕をだらりと垂らし、その右腕から血が滴り落ちる。

 体中に火傷を負って肩で息をする魔族の顔には、先ほどまでの余裕はなく怒りによって眉間にシワが寄る。


「なんだ、このていどか。これなら、二人だけで余裕で対応できるのではないか? ラック様、あのような雑魚は二人に任せて、我らはモンスターの殲滅に向かいましょう」


 ゴルドがラックに提案すると、それに反応したのが魔族である。


「私を雑魚だと!? おのれ、これほどの侮辱、屈辱を味わうとは。許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さん、許さんぞーーーーーっ!」

「許してもらおうなどと、思っていません!」


 カトリナが、体勢を低くして一気に魔族との距離を詰める。


「はぁぁぁぁっ!」


 破魔のメイスを振る。魔族がそれを躱そうと後方に飛ぶが、魔族が飛んだ先に稲妻が落ちる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ……」


 魔族は、感電して体が思うように動かない。

 そこにカトリナが、極悪な棘つき鉄球がついた破魔のメイス振って、魔族の脇腹を強かに打つ。

 魔族は、バキバキとあばら骨が折れる音を立てて吹き飛んだ。

 地面の上を転がっていく魔族は、その時点で気絶していた。


「あっけないですね……」


 自分の出番がなかったと、シャナクがちょっと残念がる。


「それじゃ、この魔族を拘束してからモンスターを殲滅するよ」


 魔族はまったくいいところもなく、ラックが施した結界に拘束された。

 ラックたちの中で、最も弱いカトリナとローザの二人に、いいところなく倒された魔族がラックの結界を破れるとは思えず、五人は魔族を放置してモンスターの殲滅に向かった。


 バメルンドの町に向かって進むモンスターの後方に、大きな爆発が発生する。ローザの爆破魔法だ。

 その爆破の煙を突き抜けて、シャナクとゴルドがモンスターの大群の中に突っ込んでいく。


「ラック様の騎士、ゴルド・シバーズ、押して参る!」

「ラック様の弟子、シャナク・ルタシッダー、薙ぎ払います!」


 二人は、圧倒的な突破力でモンスターの群れの中を進んだ。


「二人に負けてはいられません! 聖女として、モンスターは見過ごせませんので、恨みはありませんが倒させてもらいます!」


 ゴルドとシャナクにやや遅れて、カトリナがモンスターに突っ込む。

 カトリナが突っ込んで、モンスターを倒していくその後ろで、ローザが雷魔法のサンダーレインを放ち、前衛の三人が取りこぼしたモンスターを屠っていく。

 さらにラックが、氷魔法のアイスワールドを発動させると、多くのモンスターが凍りついて動かなくなった。


 この戦い(虐殺)の最中、ラックは妙な違和感を感じていた。

 モンスターは明らかな意思を持って、一定の方角に向かって侵攻していた。

 本来モンスターは知能が低く、同じ種族でもこのように大群になると、統一性のない動きをするものだ。

 それが、複数の種族が一糸乱れぬ足並みで同じ方角に進んでいる。


「これが、魔族に操られたモンスターなのか……?」


 モンスターはオオカミ系のワイルドウルフ、クマ系のグリーングリズリー、トカゲ系のアリゲーターリザード、そして死霊系のゾンビだ。

 これだけの異種族を統率できる魔族というのは、いったいどのような種族なのだろうか?

 ラックはモンスターを殺戮しながら、そんなことを考えていた。


「ラック様、モンスターの殲滅を完了しました。周囲にはモンスターの気配はありません」

「ご苦労さま、モンスターの死体を回収しようか」


 ラックたち五人は、大量に転がるモンスターの死体を回収する。ラックにはスキルの異空間庫、シャナクはマジックアイテムのアイテムボックスがある。

 ゴルド、カトリナ、ローザの三人が、モンスターの死体を集め、二人が異空間庫とアイテムボックスに回収していくのだ。


 そんな場所に、バメルンドの町の方角から、複数の人の気配が近づいてくるのが、ラックたちには分かった。

 近づいてくる人たちは、気配を消していることから斥候系の天職だと思われ、モンスターの様子を確認にきたものと思われる。


「ゴルド、シャナク、カトリナさん、ローザさん」


 斥候と思われる人たちと、そろそろ接触するころになったので、ラックは四人を集めた。

 周囲にはまだモンスターの死体が転がっているが、それは後回しでいいだろう。


 森の木々の影から窺うような気配が、カトリナとローザにも感じられた。

 その気配は、大量のモンスターの死体を見て、かなり驚いているようだ。

 そのモンスターの死体の中にいるラックたちを視認すると、バメルンドの町からきた者たちが姿を現した。

 姿を現した人物は三人いて、四十代と思われる茶髪の一人は、あまり背が高くないが、人族に見える。

 二人目は、赤茶色のドレッドヘアーに髭面、そして背は低く体ががっしりとしていることから、ドワーフだと分かる。

 三人目は、二十代の人族で、奇麗な金髪が特徴的だ。

 いずれも、革鎧に短剣や短めの剣を佩いていて、もし正規兵であれば、金属鎧が標準装備のはずなので、冒険者だと思われる。

 その中から人族の四十歳くらいの、熟練と思われる冒険者が前に出てきた。


「これは、あんたたちがやったのか?」

「そうですが、貴方がたはどなたですか?」


 カトリナが一歩前に出て答えた。

 こういう時は、聖女として名前が知られているカトリナが、前に出て対応するのがいい。カトリナの立場上、そういう社交的なスキルも身につけているからだ。


「俺たちは、バメルンドの冒険者ギルドの者だ。モンスターの大侵攻が確認されたため、様子を確認にきたんだが……」


 モンスターの死体の山を見て、彼は言いよどんだ。

 誰でも、この死体の山を見れば、こういう反応をするだろう。


「私は、カトリナ・ジスカール。バーンガイル帝国から旅をしてきたのですが、たまたまモンスターの大侵攻を発見しましたので、仲間たちと殲滅しました」

「殲滅……。この光景を見れば、殲滅という言葉に嘘はないと思うが……」


 彼は顎に手を当てて、やや考えるそぶりをした。


「ん、カトリナ・ジスカール? バーンガイル帝国……。まさか、聖女殿か?」

「はい。私は、聖女の天職を持っています」

「これは失礼しました。私は、冒険者ギルド・バメルンド支部の副支部長をしています、キース・パブロフと申します。後ろにいるのは、パックイ・オムラスとペリス・メンドウサです」


 パブロフ副支部長が頭を下げると、二人も慌てて頭を下げた。

 そこから、パブロフ副支部長と情報を交換し、魔族の話になった。


「なんと、魔族を捕縛したと言うのですか!?」

「あちらに、結界を張って閉じ込めてあります」


 場所を移して、まだ気絶している魔族を皆で囲む。


「本当に魔族です。さすがは、聖女様とそのお仲間たちだ。感服いたしました」

「この魔族を町に連れていって、尋問したいと思いますが、大丈夫でしょうか?」

「もちろんです。冒険者ギルドの地下牢は、力封じの結界が張ってありますので、魔族を閉じ込めるのにもってこいです」


 ラックとシャナクが、モンスターの死体の回収をしている間、ローザが暗黒魔法で念入りに魔族を寝かす。

 これでバメルンドの町に到着するまで、魔族は起きることがないだろう。


 

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