004_景品
半透明の画面が切り替わって、二足歩行するウサギのキャラクターが現れた。
【僕は幸運を運ぶラッキーだよ。これから初回特典コモン十一連ガチャを回すよ!】
愛嬌のある動きでラッキーがレバーを回す。
このレバーを回すことから、ガチャを回すと表現したようだ。
【何が出るかな、何が出るかな、プリプルルルルル♪】
ラッキーが可愛らしい尻尾のあるお尻を振りながらガチャのレバーを十一回連続で回していく。
【さあ、十一回回したよ! 何が出るかは運次第だよ! いい景品が出るといいね!】
画面の上から丸い何かがボトッボトッと十一個落ちてきた。
十個はただの白色の玉で、一個だけ黄色の玉がある。
【カプセルにタッチすると景品が現れるよ。タッチしてみて】
どうやら玉はカプセルと言うらしい。
ラックはラッキーの言うように、画面上の白いカプセルにタッチしてみる。
すると、カプセルが割れて中から何かが飛び出したと思ったら、画面の左下に景品の絵が現れた。
【なんの変哲もない鉄の片手剣だよ】
剣の絵についてラッキーが説明してくれる。
【アイコンにタッチすれば、鉄の片手剣が具現化するよ。今、必要なかったら保留カゴに収納するよ。保留カゴに入れた景品はいつでも具現化できるから、安心していいよ。どうする?】
アイコンというのは、絵のことを言っているらしい。
いつでも具現化できるのであれば、今すぐ必要ではない鉄の片手剣は保留カゴにいれようとラックは判断する。
画面の左下から鉄の片手剣のアイコンがスッと消える。
【さあ、どんどんカプセルにタッチしてね】
ラックは白いカプセルにタッチし、絵が左下に現れる。
【カセットコンロ(本体)だよ。別に出てくるガスカセットをセットすることで、簡単に火がつくから料理の時に便利だよ】
どうやらカセットコンロ(本体)だけでは使えないらしい。
これも保留カゴいきにして次の白いカプセルをタッチする。
【ガスカセット(六本セット)だよ。ガスコンロ(本体)にセットすると、簡単に火をつけることができるよ】
その後、白色のカプセルからは、高級タオル、外套、小麦粉が十キロ、塩が一キロ、革鎧一式、ポーションが三本、マナポーションが三本出た。
そして最後に残った黄色のカプセル。
コモンの十一連ガチャで一個だけ色が違うため、この黄色のカプセルはアンコモンだと考えられる。
ラックは恐る恐る黄色のカプセルをタッチし、景品が画面の右下に表示される。
アイコンを見ると、何かの豆のようだ。
【腕力の種だよ。食べると腕力がちょびっとだけ上がるし、栽培も可能だよ】
その説明を聞いて、ラックの胸が躍った。
「そんなものまで……」
しかも、アンコモンという比較的低いレア度だ。
今後のことを考えたら腕力の種を食べたいところだが、これが一個限定の景品だったらと思うと食べるよりも栽培して増やすことを考えるべきだ。
ただし、ラックに農業の知識はない。種を土に埋めれば育つていどのことしか、分からないのだ。
【それじゃ、ラッキーは帰るね。今度はガチャポイントが溜まったら呼んでね。バイバーイ】
ラッキーだけじゃなく画面も消えた。
「………」
「ラック様?」
ゴルドが心配そうにラックを見つめている。
「ゴルド。僕、スキルが使えたんだ」
「えっ!?」
「モンスターを倒すとガチャポイントっていうのが溜まって、そのガチャポイントが溜まると景品がもらえるんだ」
「そんなスキル……聞いたことがありませんぞ……?」
「そりゃそうだよ。前例のないスキルだから僕は今まで使えなかったんだから」
「そ、そうですな……して、その景品というのは?」
ラックは画面を開いて、保留カゴに入れておいた革鎧一式を具現化した。
どさりとラックの前に落ちてきた革鎧一式を見て、二人して「おーーーっ」と歓声をあげる。
「なんだか感動しますな、ラック様」
「うん。僕のスキルで得た革鎧だと思うと、感慨深いよ!」
「今日のゴブリンとの戦いで防御に不安があったので、この革鎧はラック様がお使いになられるとよろしいでしょう」
たしかに今日のゴブリン三体との戦いは、被弾があった。
ただの服しか着ていなかったことで、ダメージが大きかった。
「他にこんなものもあるんだ」
ラックはガチャで出た景品についてゴルドに説明した。
「小麦粉と塩は地味に嬉しいですな。それに、カセットコンロとガスカセットですか? 火を簡単に熾せるのもありがたいですぞ」
そしてアンコモンだと思われる腕力の種のことを話す。
「そんなものが……」
「これは栽培して増やしたほうがいいと思うんだ」
「たしかにそうですが、正直言いまして私も農業のことはあまり詳しくないので……。それと栽培するにも、この地で栽培したら国に腕力の種が接収されるかもしれませんぞ」
腕力の種という非常に珍しく、有用なものを国が放置するわけがないとゴルドは主張する。
そのことを聞いて国の中枢に近い聖騎士アナスターシャや勇者ベルナルドたちの顔が、ラックの脳裏に浮かんだ。
「たしかに、力を背景に腕力の種を取り上げるかもしれないね……」
「今回のこと、本来であれば資金や物資の援助があってもいいはずなのに、国はラック様に何も援助をしませんでした。聖騎士様や勇者様が裏で動いているのでは?」
「あの二人ならやりかねないか……」
腕力の種については、しばらく後に判断することにした。
「モンスターを狩れば、それだけガチャを回せる。ラック様、明日からはモンスター狩りをメインにしばらくガチャポイントを稼ぎましょうぞ!」
「そうだね。ゴルド、頼んだよ」
「お任せください!」
話をしているうちに夜も更けたので今日は寝ることになった。
翌日、革鎧を身に纏い、外套を羽織ったラックは気合が入っていた。
昨日はゴブリン相手に不覚をとって気を失ってしまった。
だが、今回はそんなことはしない。相手が大勢ならゴルドにも戦ってもらい、確実にモンスターを倒してガチャポイントを獲得していくつもりだ。
ラックとゴルドは、モンスターの大侵攻を起こした森へ向かった。
ここにはゴブリンやオーク、奥にはオーガやトロルなどの人型のモンスターが集落を作っている。
勇者パーティーが大侵攻を鎮圧させたことでモンスターの数は減っているだろうが、この森はゴルドの庭である。
「ラック様、そろそろゴブリンの集落が近いはずです。気を抜かないようにお願いします」
「分かったよ」
ゴルドがやや先行しながら進むが、ゴルドが手を上げて止まり身を低くする。
モンスターがいた合図である。
ラックも身を低くして音を立てないようにゴルドのところへいく。
「ゴブリンが三体です」
ゴルドが小声で伝える。
「某が二体を相手しますので、ラック様は一体を確実に」
「うん」
「それではいきますぞ」
ラックが頷くと、ゴルドは立ち上がって走り出した。
ゴルドの後をラックも走ってついていく。
ゴルドが一体のゴブリンを殴り飛ばすと、もう一体に蹴りを入れた。
一瞬で二体を無力化したゴルドの動きは、とても五十歳を過ぎた老人の動きではない。
ラックもゴルドに負けないように、ゴブリンに切りかかる。
奇襲が成功してラックの剣はゴブリンの喉元を切り裂いた。
「ふー……」
倒れたゴブリンを見下ろして息を吐く。
「ラック様、こちらの二体にとどめを」
ゴルドが倒したと思っていたゴブリンは、気絶しているだけのようだ。
「すまない、ゴルド」
ラックは二体のゴブリンの心臓に剣を突き刺してとどめを刺した。
【氏名】 ラック・ドライゼン 【種族】 人族 【性別】 男
【天職】 ガチャマン 【レベル】 1(17/100)
【HP】 21/21 【MP】 11/11
【固有スキル】 ガチャ 【ガチャポイント】 6
ガチャポイントはしっかり三体分増えている。
コモンの十一連ガチャであれば、あと四体のゴブリンを倒せばいい。
だが、ラックはアンコモンの十一連ガチャを狙っている。だから、ガチャポイントは百まで溜めるつもりだ。
その後もゴルドの支援を得て、ラックはゴブリンを狩り続けた。
おかげで今日一日でガチャポイントを七十三ポイントまで溜めることができた。
「この調子なら明日には目標の百ポイントが溜まりそうですな」
「ゴルドがいてくれて、助かったよ。僕一人だったらポイントを溜めるのも一苦労だったと思う。ありがとう」
ゴーストタウンに戻った孫と祖父ほどに年が離れた二人は、これまでに見たこともないカセットコンロという珍しい道具でスープを温める。
「このカセットコンロは、便利なものですな……」
「マジックアイテムではないと思うけど、このつまみを回すだけで火がつくなんて不思議な道具だね」
今日は干し肉と森の中で採取した山菜と塩が入ったスープの他に、小麦粉に塩と水を入れてこねたものを焼いたパンを食べる。
パンと言っても帝都のモーリス公爵家で食べられているような柔らかいものではなく、焼き固めた歯ごたえのあるものだ。
モーリス公爵家で食べていたものに比べれば、数段どころか十数段劣るものだが、モーリス公爵家では決して味わえない温かみのある食べ物だ。それにゴルドと二人で食べる食事はとても美味しく感じた。