039_決意
ボドル王国の首都で盗賊を役人に引き渡したラック一行は、役人から何度も礼を言われた。
あの盗賊団はこれまで何度も摘発の手を逃れてきたため、国も手を焼いていたらしい。
いくばくかの報奨金をもらい、一行は山を越えてホードリス共和国に向かうことにした。
ラックはこのボルド王国で暮らそうと旅をしてきたのだが、状況が変わってしまった。
天職ガチャマンを持つラックは、勇者パーティーを支援することになった。
帝国のためでもサダラム教のためでもない、ましてや人類のためでもない。魔王と魔王軍を相手に戦う勇者パーティーを支援するためだ。
今の勇者パーティーは、ゴルドとシャナクがいる。ラックにとって大事な人たちだ。
二人の性格を考えたら、ラックが戦うなと言っても魔王と戦うだろう。
だからラックは二人に戦うなとは言わない。その代わり、二人が魔王と戦えるように、最大限の支援をするつもりだ。
旅を続けるのもその一環である。このまま旅を続けることで、箱庭を使って色々な国に一瞬でいけるようになる。そのためにも、旅は続けなければいけない。
ホードリス共和国はドワーフの国で、鉱山が多くあって金属加工製品で有名な国だ。
このボドル王国とは違って大国としても名を馳せているホードリス共和国は、質のよい武器や防具を配備した精強な軍隊をもっていることでも有名である。
駅馬車もないためラック一行は歩きで首都を出て山を目指す。
「ラックさん、私、決めました」
道中で昼食を摂るため休憩していたら、カトリナが真剣な瞳をラックに向けてきた。
「決めたというのは?」
「今のままでは、私は役立たずのままです。ですから、私は戦う聖女になろうと思います!」
「戦う聖女?」
ラックだけではなく、ゴルド、シャナク、ローザが何のことかと顔を見合う。
「神聖魔法には自分の身体能力を上げるフィジカルアップという魔法があります。それに支援魔法でも身体能力を上げることができます。ですから、私もゴルドさんやシャナクさんのように前で戦います!」
カトリナはトゲトゲの金属球が先端についたモーニングスターを握り絞めて覚悟を語った。
これはまた極端な考え方だなとラックは思ったが、過去の聖者は精神を鍛えるために肉体も鍛えたことで戦士としても優秀だったと聞いたことがある。
それにカトリナのスキルには格闘や棍棒がある。だったら聖女が肉体派になっても問題ないのかと、思ってしまう。
「カトリナさんがそう決意したのであれば、僕はそれを否定しません。思う存分やってみればいいと思います」
「ありがとうございます! そこでお願いがあるのです」
「お願い? なんでしょうか?」
「私に戦い方を教えていただけないでしょうか! 恥ずかしながら、これまでモンスターを直接殴ったり切ったりしたことがないのです。お願いします!」
なるほどと、ラックは納得した。
ラックも最初はゴルドに補助してもらいながらゴブリンを倒していた。
ラックはそれほど昔でもない思い出を懐かしく思った。
「それならカトリナさんにいいものがあります」
ラックが宙で指を動かす動作をすると、何もなかった空中に何かが現れてラックの手の上に落ちる。
カトリナとローザは「えっ!?」と声を出して驚く。
「このカプセルを開けてください」
ラックはカトリナに緑色のカプセルを差し出す。
「これは……?」
ラックが差し出したのはスーパーレアの十一連ガチャで出たスキルのカプセルだ。
レジェンドレアの十一連ガチャを何度も回せるだけのガチャポイントがあるラックだが、エリクサーが五個、若返りの秘薬が四個も出てしまったので他のガチャを回すことにした。
その時にレジェンドレアの十一連ガチャを回して出た景品の一つがこのカプセルなのだ。
「カプセルを開けると分かります」
「そうですか……」
カトリナは恐る恐るカプセルを開けると、カプセルの中から光が飛び出してカトリナの胸に飛び込んでいった。
「きゃっ!?」
「カトリナ!?」
ローザが心配してカトリナの胸の辺りを何度か触る。
「ラックさん、今のは何?」
ローザがラックに詰め寄る。
「お二人が僕に会いにきた理由です」
「?」
ローザはラックが何を言っているか分からないようだ。
「カトリナさん、ステータスを確認してみてください」
「は、はい……えっ!?」
「カトリナ、どうしたの?」
驚くカトリナにローザが何があったか聞く。
「そ、それが……見切りというスキルがあるの」
「え?」
カトリナとローザは聖女と賢者という天職だけあってレベルが二十なのに、ラックと再会した頃のレベルが三十五だったゴルドよりもステータスの能力値は高い。
天職が成長に影響することは、レベルが上がっても自力でまったく成長しないラックの能力を見ればよく分かる。
現状でかなり能力値が高いカトリナやローザが、スキルを覚えて戦闘訓練を積めば強くなれるはずだ。
ただし、精神的なことは本人次第なので、戦闘に不向きだと思えるカトリナの性格で強くなれるかは、カトリナ次第である。
今回、ラックがスキルカプセルをカトリナに与えたのは、ラックからカトリナに手を差し伸べているという意味だ。
ラックは彼女たちの後ろにいる帝国とサダラム教は信用していないが、この二人は悪い人間ではないことを知っている。
それに、このくらいは知られても問題ない。ダンジョンの中でもたまに宝箱などからスキルが手に入ることがある。
帝国やサダラム教に何か言われたら、そういったものと同じだと言えばいいのだ。
「ススススス、スキルを覚えることができるのですか!?」
「僕のスキルのガチャは、このようなスキルをランダムで得ることができるスキルです。片手剣がほしいとか体術がほしいと思っても狙っては無理ですけど。今回はたまたまカトリナさんによさそうなスキルがあったので、出しました」
「他にもスキルを持っている、もしくは得ることができますか?」
珍しくローザがはっきり聞こえる声で喋ったから、珍しいなとラックは思った。
「スキルはいくつかありますが、今の二人に与えるようなものはありませんよ。それに先ほども言いましたが、狙って特定のスキルを得ることもできません」
「それでも、素晴らしい力です」
「その力で勇者パーティーを支援はできます。ですが、スキルを得るにはそれなりの条件がありますので、無限になんでもできるわけじゃないですよ」
二人はラックが条件つきでスキルを得ることができることを理解した。
「何はともあれ、見切りを覚えたのだから、接近戦の幅が広がります! ラックさん、ありがとうございます!」
カトリナがモーニングスターを硬く握る。
その決意にラックは水をさすつもりはなく、カトリナが高みを目指そうとするのであれば、応援と支援をするつもりだ。
▽▽▽
ホードリス共和国へ向かうには、険しい山を越えていくことになる。
しかし、その山には多くのモンスターが生息していて、旅人や商人は山を通らず迂回する。
ラックたちがあえて山を越えることにしたのは、モンスターを狩るのが目的ではなくただ単に最短でホードリス共和国に入るためだった。
しかし、今は戦う聖女になろうとするカトリナと、フレンドリーファイアをしないように魔法制御の熟練度を上げるローザの訓練の場になっている。
「こんなもの!」
ロックイーターという石の皮膚を持つウシ型のモンスターの突進を見切ったカトリナは、回避しつつモーニングスターをカウンターで叩きつけた。
極悪な棘を持つ鉄球の部分が、石の皮膚を破壊するとロックイーターは痛みで悲鳴のような唸り声をあげる。
怒りにそまったロックイーターの石の皮膚が真っ赤に変化する。バーサーカーモードである。
このバーサーカーモードになると、全ての能力値が三割マシになる代わりに、防御を無視したなりふり構わない戦い方になる危険なものである。
「穿て、破壊の槍!」
バーサーカーモードに入ったロックイーターの背中に、ローザが放った爆破魔法の槍が刺さる。
「せいっ!」
その槍をカトリナがモーニングスターで打ちつけて、ロックイーターの体内深くへ差し込む。
「爆破!」
ドンッ。とくぐもった爆破音がして、ロックイーターの石の背中にヒビが入る。
この数日でローザは爆破を操る術を身につけた。
それによって、戦闘中の味方へフレンドリーファイアなく、モンスターにダメージを与えることができるようになった。
まだ高威力の魔法で爆破のタイミングを制御しきれていないが、賢者である以上は魔法に関して天才的な素質を持っているであろうローザなら近いうちにそれも成し遂げるだろう。
カトリナのモーニングスターが頭部を破壊したことで、ロックイーターは力尽き地面に伏した。
カトリナも接近戦に慣れてきて、最初の頃のようにモンスターに気押されることはなくなった。
二人は確実に成長しているとラックの目には見える。
ガチャマンを読んでくださり、ありがとうございました。
読者の方たちにお願いです。
ガチャマンが面白かったら評価してやってください。
☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★
★の数は多いほど嬉しいです。
誤字脱字は誤字報告してくださると、助かります。




