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033_ケミスマリアージ

24日に短編「軍人をしていたら、不時着陸した惑星で超人になってしまった!」を投稿しています。

楽しんでください。

 


 灼熱のダンジョンのダンジョンボスを倒した三人は、箱庭で英気を養ってから地上に戻ることにした。


「マスター、お帰り~」


 可愛い二足歩行のウサギのラッキーが三人を迎えてくれた。

 三人は家に入ってとにかく寝ることにした。

 それぞれの部屋が割り振られているが、三人は毛布に包まってリビングで雑魚寝する。

 その間もラッキーは箱庭の管理をするのだが、ラックたちがそろそろ起きそうだという頃に箱庭に異変が起きた。


「マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、大変だよ! 起きてよ~」


 ラッキーはラックたちを叩き起こす。


「どうしたの、ラッキー」

「マスター、大変だよ。誰かが箱庭の中に入ってきたんだよ!」

「え!?」


 寝ぼけ眼だったラックの目が見開かれる。


「でも、この箱庭には僕の許可がないと入れないんじゃないの?」

「そうだよ。だから大変なんだよ!」


 ラックとゴルドとシャナクの三人は急いで鎧を着込み、剣を腰に佩く。


「侵入者はどこに?」

「今、家の前にいるよ」


 三人に緊張が走る。

 ゴルドとシャナクは盾を構え、ラックは何があってもいいように支援を重ねかけていく。


 家の扉がノックされる。

 三人は顔を見合う。


「どなたですか?」


 ラックが代表で声を出した。


「私は怪しい者ではありません。どうか家に入れていただけないでしょうか?」


 怪しい者が自分から怪しいと言うことはない。

 だが、声の感じからすると敵対心は感じられなかった。


「「「………」」」


 ラックが頷いたのを見たゴルドが扉に手をかけて開ける。

 扉の向こうには金色に輝く髪の毛と、引き込まれそうになるほど深い青色の瞳を持った美しい女性が立っていた。


「初めまして。私はケミスマリアージと申します」


 洗練された所作で礼をする女性に、ラックも思わず礼を返してしまう。


「ケミスマリアージ……どこかで……?」


 その名に聞き覚えのあったラックだったが、どうも思い出せない。


「あっ!?」


 シャナクが思い出したように声をあげた。


「し、師匠! この方はもしかして、もしかすると、ケミスマリアージ様ではないですか!?」

「本人がケミスマリアージと名乗っているのだから、そうだと思うよ」


 ラックに何を言っているんだ? と、シャナクに答える。


「いやいやいや! ケミスマリアージ様ですよ! 教会の銅像にあるじゃないですか!」

「え……っ!? ケミスマリアージ様!?」

「はい、私は運命の女神、ケミスマリアージです。どうぞ、よろしくお願いしますね、ラックさん」

「あ、はい! よろしくお願いします!」


 随分と大物がやってきたものである。と、ラックは背筋を伸ばす。


「ラック様、ここではなんですので、中に入れてはいただけませんか?」

「あ、そうですね! どうぞ、お入りください。ケミスマリアージ様」

「では、お言葉に甘えて」


 ケミスマリアージを家の中に入れたはいいが、リビングには簡素なテーブルと椅子しかない。

 まだソファーもまともな食器もない状態の箱庭の家である。


「こんなところですみません……」

「いえいえ、十分ですからお構いなく」


 ラックは異空間庫の中にある最も高級な茶葉をラッキーに渡してお茶を淹れてもらう。

 と言っても、大した茶葉ではないのだが……。


「ラックさん、ゴルドさん、シャナクさん。三人も座ってください」

「は、はい」

「失礼」

「お、恐れ多いことです」


 三人はケミスマリアージの前に座る。

 まるでケミスマリアージの家のように、三人は緊張している。


「粗茶ですが」


 ラッキーがケミスマリアージと三人の前にお茶を出すと、ケミスマリアージがそれを飲む。


「うふふふ、ラッキーさんはお茶を淹れるのが上手ですね」

「ありがとう、女神様」


 この美女ケミスマリアージは、サダラム教が祭る神々の一柱で、主神の次に神格が高いとされている女神だ。

 ラックは緊張しながらも、誰もラックの許可なくして入れないはずのこの箱庭だが、女神であれば入れるのかもしれないと考えていた。

 事実、目の前には女神ケミスマリアージがいるのだから、やはり神の力というものは人知の及ぶところではないと思った。

 でも、なぜ女神ケミスマリアージがここにいるのか、それが不思議でならない。


「美味しいお茶をありがとう」

「い、いえ……」

「そう緊張しないでください。ラックさん」

「は、はぁ……」

「私がなぜここにきたか、それが気になっているのですね?」

「端的にいいますと、そうです」


 ケミスマリアージは手を口に当てて、くすりと笑う。

 その所作がまた美しい。


「今回、私はラックさん、ゴルドさん、シャナクさんにお願いがあって参りました」

「「「お願い?」」」

「はい。三人がこの後地上に帰ると、バーンガイル帝国の帝都サダメリスより使者がやってきます」

「「「………」」」

「その使者の頼みをきいてやってほしいのです」

「使者の話はケミスマリアージ様が僕に会いにくるほど重要なことなのですか?」

「そうです」


 ラックは眉間にシワを寄せる。


「ラックさんの心情は理解しています。そのことについて、我慢しろとは言いません。ラックさんが思うことを使者にぶちまけて構いません」

「……いいのですか?」

「ええ、構いません。ラックさんにはその権利があります」


 ラックは帝国と二度とかかわるつもりはなかった。

 どんな言葉を並べても死んだ家族は戻ってこないし、帝国に戻るとどうしても家族のことを思い出してしまうから。


「ケミスマリアージ様は僕に何をしろと仰るのですか?」


 その問いにケミスマリアージはラックの目を真っすぐ見つめる。


「魔王が復活しました」

「「「魔王!?」」」

「今回の魔王はとても強く狡猾です。ですから、ラックさんに勇者たちの支援をお願いしたいのです」


 この場合の勇者は、この場にいるシャナクではなく帝都にいるベルナルド・ファイナスのことだとラックは思った。


「ベルナルド・ファイナスは……、僕にあのベルナルド・ファイナスを支援しろと仰るのですか!?」


 いくらラックがお人よしでも、ベルナルド・ファイナスを支援する気にはなれない。

 それが人類存亡にかかわることであっても。


「いえ、私が言う勇者は、目の前にいるシャナクさんです」

「「「え?」」」

「勇者は同じ時代に複数存在しません」

「で、でも……。ベルナルド・ファイナスは勇者では……?」

「彼は勇者だった(・・・)方です」

「「「………」」」

「天職が変わることは三人とも実感していますよね?」

「「「あっ!」」」

「はい、ベルナルド・ファイナスも天職が変わっています。当然ですよね、あれ(・・)が勇者だと言うほうがおかしいのです。おへそがお茶を沸かしてしまいますよ」


 言葉は丁寧だがケミスマリアージの目がとても冷たいものなので、三人はケミスマリアージが相当怒っていると感じた。


「ああ、アナスターシャ・モーリスの天職も変わっていますよ。後任が誰かは言うまでもないですよね」


 ラックとシャナクがゴルドを見る。


「とにかく、神々はあの二人を魔王討伐の任から外しました。そして、勝手ながらお二人を後任に充てています」


 ゴルドとシャナクがゴクリと唾を飲みこむ音が聞こえた。


「そんなわけですから、ラックさんには勇者パーティーが魔王を討伐するための支援をお願いしたいのです」


 ラッキーが気を利かせて新しいお茶を淹れなおし、ケミスマリアージがそれを飲む。


「あの……聞いてもいいですか?」

「なんでしょうか?」

「ベルナルド・ファイナスだけでなく、アナスターシャ・モーリスも天職が変わってしまったのはなぜですか?」

「そうですね、ラックさんはまだ知らないのですね……。いいでしょう、教えましょう。ドライゼン男爵領で発生した大侵攻はベルナルド・ファイナスが仕組みました。これはラックさんがご存じの通りです」

「はい」

「ドライゼン男爵暗殺もベルナルド・ファイナスが仕組みました」

「はい」

「ですが、ベルナルド・ファイナスにそのようなことを考える頭があったでしょうか?」

「………」


 ラックはベルナルド・ファイナスのことをあまり知らない。

 いつもアナスターシャ・モーリスとベタベタする間抜け面しか見ていないことを除けばだが。


「今の仰りようでは、まるでベルナルド・ファイナスが操られていたように聞こえますが……?」

「その通りです。ベルナルド・ファイナスはアナスターシャ・モーリスに操られていただけなのです。ただ、本来であればそのようなことをしてはいけないとか、それによって大勢の人に迷惑がかかるということを考えられるのが、勇者なのですが……。ベルナルド・ファイナスを育てた者や周りの者がいけなかったのもありますが、ベルナルド・ファイナスは浅慮の人になってしまったのです」


 勇者ともてはやされて、人の痛みも分からない人格が形成された。

 貴族であれば、こういった浅慮や傲慢な人物が現れるのはよくあることなのだが、それが勇者では笑い話にもならない。


「では、なぜアナスターシャ・モーリスは僕の家族を……?」

「アナスターシャ・モーリスがラックさんを振り向かせられなかったことが原因です」

「へ?」

「彼女はラックさんのことが好きで、従者にと請いました。しかし、ラックさんはアナスターシャ・モーリスを女性とは見ずに主人として扱いました。それがアナスターシャ・モーリスには屈辱だったのでしょう」

「え……え? 僕のせい?」


 驚愕の事実が明らかになった。


「ラックさんは従者としてアナスターシャ・モーリスに仕えたのですから、当然のことをしたまでです。しかし、アナスターシャ・モーリスもまた蝶よ花よと育てられ、自分の美貌に自信を持っていたのです。ですから、ラックさんがすぐに自分に対して恋心を抱くだろうと思っていたのです」

「た、確かに最初は暴力は受けなかったけど……」

「いつまで経っても自分に恋をしないラックさんが、いつしか憎らしくなってしまったのですね……。可愛さ余って憎さ百倍といった感じになってしまったのです」


 なんと言っていいか分からず、ラックは呆然としてしまった。


「そんなことで、お屋形様は殺されたのですか!?」


 怒りの声をあげたのはゴルドだった。


「残念ながら……」


 ラックはあまりにもバカげた話に開いた口が塞がらず、ゴルドは怒りで何度もテーブルを叩いた。

 二人が落ち着くまでケミスマリアージとシャナクは待つ。


「取り乱してしまい、申しわけございません」


 ゴルドが落ち着きを取り戻した頃には、ラックも自分を取り戻していた。


「いいえ、お怒りはごもっともなので、仕方がありません」

「ケミスマリアージ様、あの二人の天職は何になったのですか?」


 ラックの質問にケミスマリアージは首を横に振り、ため息を吐いた。


「ベルナルド・ファイナスの天職は勇者から堕者(おちたもの)になりました。アナスターシャ・モーリスは聖騎士から暗黒騎士になっています」

堕者(おちたもの)と暗黒騎士……」

「二人は大侵攻を人為的に起こしたことと、ドライゼン男爵暗殺の件で帝国に捕まるところでしたが逃げ出しております」


 それを聞いたラックとゴルドは、二人を捕まえなくてはと考えるのだったが、二人がどこに逃げたのか分からない。

 いつか、二人に天罰が下ることを願うばかりだが、願わくば自分たちの手で天罰を与えてやりたいと思うのだった。


 

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