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032_ダンジョンボス戦

 


 ラックたちは灼熱のダンジョンの五十層でダンジョンボスである、ファイアエレメンタルと対峙している。

 ファイアエレメンタルは物理攻撃耐性と魔法攻撃無効を持っているため、面倒な相手である。


「ラック様、ここは某とシャナクにお任せください」

「分かったよ。二人なら問題ないと思うけど、何かあったら僕も参戦するね」

「「はい!」」


 魔法攻撃が無効化されてしまうので、戦うのは剣がメインになる。

 ゴルドは聖剣アスカロンを、シャナクも不退転の剣を抜いて構えた。


 ファイアエレメンタルは燃え盛る五メートルほどの水晶で、その周囲の床がマグマ化しているのでその膨大な熱量が推し量れるというものだ。


「シャナク、必ず守ってやる。思いっきりいけ」

「はい!」


 ゴルドが守護者の盾を全面に構えて突っ込むと、その後方にシャナクが続く。


「我が心の炎のほうが熱く滾っているわっ!」


 ゴルドの突撃にファイアエレメンタルは炎の槍を放ってきたが、ゴルドはその炎の槍を守護者の盾で受け止める。

 炎の槍が守護者の盾に防がれた瞬間、炎が周囲に飛び散りゴルドを焼く。

 しかし、ゴルドは体が焼かれようとお構いなしに突っ込んでファイアエレメンタルに体当たりする。


「舐めるなっ!」


 ファイアエレメンタルと守護者の盾がぶつかって甲高い音を立てる。

 さきほどの炎の槍の時もそうだが、地面がマグマ化しているのもお構いなしのゴルドだ。

 今のゴルドは熱耐性のスキルレベル五になっているのだが、それだけでは耐えられるものではない。

 熱耐性と守護の聖騎士が持つ高い耐久力があってこそ、こんな人外の戦い方ができるのだ。


「決して退くことのない、私の剣を受けてみなさい!」


 勇敢なる勇者であるシャナクの不退転の決意が剣にこもり、物理攻撃耐性を持っているファイアエレメンタルに深い傷を与える。


「お前の相手は某だ!」


 ファイアエレメンタルがシャナクを狙おうとしたのを感じ取ったゴルドが、ファイアエレメンタルを守護者の盾で激しく殴る。

 それによって、ファイアエレメンタルの意識がゴルドに固定された。

 これは、固有スキル聖剣盾技の盾の技で、自分に対して敵対心を大きく引き上げる効果がある。


 ゴルドとシャナク対ファイアエレメンタルの戦いは続き、ファイアエレメンタルHPが三分の二以下になった。

 だが、ここでファイアエレメンタルが大技を繰り出す気配を出す。


「くるぞっ!」

「はい!」


 ゴルドは守護者の盾を持つ手に力を込め、シャナクも耐熱の盾を構える。

 ファイアエレメンタルは全方位に向けて灼熱の炎を放出する。

 ゴルドはその攻撃の直撃を受けるが耐え、シャナクは距離を取ったがあまりの熱気に体中の血液が沸騰するような感覚を味わう。

 地面が広範囲でマグマ化するだけではなく、周囲の空気を大量に消費したことでゴルドとシャナクは酸欠にも悩まされることになる。


「くっ、やらせはせん! やらせはせんぞ!」


 ゴルドが灼熱の炎が噴き出すファイアエレメンタルに聖剣アスカロンを叩きこむ。

 ゴルドの手が足が体が焼かれ、口の中の湿気がなくなる。

 苦しいが、ここで退くわけにはいかない。

 ラックに任せろと言った以上、自分とシャナクだけでこのファイアエレメンタルを倒す。

 強い意志を持って守護者の盾を握る。


「シャナク、大丈夫か!?」

「大丈夫です!」


 シャナクも体中を焼かれているが、それはゴルドほどではない。

 それでもかなりのダメージを負っているシャナクだが、決して退くことのない強い意志をもって不退転の剣を握りなおす。


「ゴルドさん、大技、いきます!」

「おう! こいつは某が引きつけておく、シャナクは好きにやれ!」

「はい!」


 シャナクが大技を準備する気配を感じ取ったのか、ファイアエレメンタルはまた全方位へ炎を噴射する。

 ここでゴルドがレジェンドスキルのパーフェクトシールドを発動させた。

 今のゴルドでも三十秒ほどしか発動できない奥の手である。


 パーフェクトシールドは、ゴルドだけではなくシャナクも庇うように展開され、ファイアエレメンタルの炎を完全に遮断する。


「いきます! コンヴィクションアタック!」


 このコンヴィクションアタックは不退転の気持ちが強ければ強いほど、威力が上がる勇者の剣技で片手剣と片手剣技が固有スキル勇者の武へ昇華したことで使えるようになった必殺技である。


 シャナクが放ったコンヴィクションアタックが一本の筋となって、ファイアエレメンタルを貫通する。

 さらに、光の筋がどんどん太くなっていきファイアエレメンタルを貫通した穴が広がっていく。

 この光の太さが不退転の気持ちの強さを表しているのである。


 ファイアエレメンタルを貫通したコンヴィクションアタックが太くなるにつれて、ファイアエレメンタルのクリスタルの体にヒビが入っていく。

 あと少しでファイアエレメンタルが粉々になって砕けるだろうというところで、ファイアエレメンタルが最後の足掻きとばかりに高熱線を放った。


 だが、その高熱線はゴルドのパーフェクトシールドによって完全に無力化された。……ように見えたが、高熱線が放たれている途中でパーフェクトシールドの効果時間が限界に達して消えてしまった。


 高熱線は高速でシャナクに向かっていくが、そこにゴルドが立ちはだかる。

 ゴルドが身を挺して高熱線からシャナクを守る。

 守護者の盾の表面が融解していくのが分かるほどの熱量で、あまりの熱量のため守護者の盾を持ったゴルドの左手が燃え上がる。


「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 大爆発。

 轟音と共にゴルドとシャナクが吹き飛び二人が壁に激突する。


「ぐあっ!?」

「きゃっ!?」


 二人がずるずると壁伝いに床に落ちていく。


 ファイアエレメンタルが二人に追い打ちをかけようとする。

 二人はダメージが大きく、なかなか立ち上がれない。


 ファイアエレメンタルの前に炎の槍が浮き上がる。

 その瞬間、ファイアエレメンタルの体のヒビが大きくなっていき、バリバリと音を立てて崩れていき、炎の槍も消え去った。


「「………」」


 静寂。


「や、やったのか……?」


 最初に口を開いたのはゴルドだった。

 痛む体を引きずるように二人は立ち上がる。


「おめでとう。ダンジョンボスを討伐したよ」


 ラックのその言葉に、二人は床にへたり込んだ。


「あははは……。私たちやりました……」

「ああ、やったぞ」


 精も根もつき果てた二人を優しい光が包み込む。ラックの神聖魔法だ。


「ゴルドのその左手は僕の神聖魔法では回復できそうにないね……」


 ゴルドの左手は守護者の盾をしっかり握りしめたまま動かない。

 皮と肉は完全に燃え尽き、見えている骨も完全に炭化している。

 このような状態だと、今も激痛がゴルドを襲っているはずだが、ゴルドは泣き言一つ言わない。


 ラックは異空間庫から瓶を取り出して、ゴルドに差し出した。


「それはエリクサーではないですか」


 エリクサーは死んだ人間でも生き返らせるほどの霊薬だ。

 普通であれば一生お目にかかることのない薬を、しかもラックでも一本しか持っていない薬を、ゴルドのために惜しげもなく使おうというのだ。


「そうだよ。飲まないなんて言わないでね」


 ラックはニコリとほほ笑んで、ゴルドの言葉の先回りをした。


「……ありがたく」


 ゴルドは目頭を熱くして、エリクサーを呷った。

 すると、炭化して真っ黒だった骨が白く再生し、肉が盛り上がり、皮が肉を包んでいく。

 見ていて気分のいいものではないが、これがエリクサーの効果なのかと三人は感嘆した。


 エリクサーを消費したとは言え、灼熱のダンジョンのダンジョンボスであるファイアエレメンタルをゴルドとシャナクの二人だけで倒したのは、二人にとって自信になった。

 これまではラックのおかげで戦えているという気持ちが大きかったが、今ならラックと肩を並べて戦えると自信をもって言えるだろう。


 

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