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030_箱庭

 


「それじゃ、箱庭を発動するよ」


 レジェンドスキルである箱庭を発動させると、ラックの前に縦三メートル、幅一メートルの簡素な木の扉が現れた。

 木の扉の後ろには何かがあるわけではなく、十センチくらいの厚みの枠と扉があるだけだ。


「ちょっといってくるね」

「ご武運を」

「師匠、がんばってください!」


 自分のスキルである箱庭に入るだけだからご武運もがんばるもないと思うラックだが、それを指摘はしない。


 ドアノブを回して扉を開けると、ただ真っ青な空間が見えた。

 これに入っても大丈夫なんだよね? と思いながら、足を入れてみる。

 足はなんの抵抗もなく、真っ青な空間に入っていく。


「………」


 足に違和感はない。

 少し怖いが、これは自分のスキルだと思ってひと思い、真っ青な空間に飛び込んだ。

 ふわりとした感覚が一瞬だけあって、ラックは見たこともない場所に立っていた。

 今まで洞窟型のダンジョンである灼熱のダンジョンの中にいたのに、軽やかな風が吹き抜ける草原の中。


「ここが僕の箱庭……?」


 よく見ると、草原の中にぽつんと小さな家が建っている。


「あれは僕の家なのかな?」

「そうですよ~♪」

「うわっ!?」


 後ろから急に声がしたのでラックは驚いて飛び上がってしまう。


「だ、誰!?」


 振り向くと、そこにはラッキーがいた。

 あのガチャの画面に現れるウサギのラッキーだ。


「ラッキー……?」

「そうだよ、僕は箱庭の管理者ラッキーだよ」


 声も動きもガチャ画面のラッキーそのものだ。


「えーっと、ガチャの画面から出てこれるのかな?」

「あははは。僕はこの箱庭の管理者だから、ガチャは関係ないよ」

「………」


 よく分からないが、同じ容姿で同じ声のラッキーが二人いるということだろうと無理やり納得させる。


「この箱庭を案内するのが、僕の最初の仕事だよ」

「そ、そうなんだ」

「今の箱庭は小さな家があるだけなんだけど、家は増改築できるからね」

「そうなんだ……」

「それから、この箱庭の広さはマスターのMP量に比例して広くなるからね」

「うん」

「今は家以外は草原になっているけど、畑を作ったり、植物を植えたりできるよ」

「へー」

「他にも池や湖、山や鉱山、牧場だって作れるよ」

「すごいね……」


 可愛らしい動きで説明するラッキーに、ラックはなんだかほっこりする。


「まずは家にいってみようか」

「うん」


 ピョンピョンと跳ねて進むラッキーの後からラックも家へ向かう。

 家は木でできていて、こぢんまりとして大きくはない。


「ほら、早く中に入ってよ」


 家の外観を観察していたラックに、ラッキーは家に入れと促す。

 ラックは家の中に入ったが、唖然としてしまう。

 外観からは想像もできないほど家の中が広いのだ。


「広さがおかしくない?」

「あははは。この家はマスターのMP量に比例して大きくなるよ~。外観が気に入らないのならMPを消費して豪邸にすることもできるよ」

「そ、そうなんだ……」


 ラッキーは部屋を案内しようとしたが、ラックが何かを思い出した。


「あ、そうだ。僕の仲間が外にいるのだけど、この箱庭に入ることはできるかな?」

「マスターが許可すれば誰だって入れますよ。ただ、マスターに敵意を持ったものを入れると、マスターを守れませんので注意してくださいね」

「なるほど……。それじゃ、入場条件に敵意や害意がないってできるのかな?」

「できるよ。ここではマスターが神様なんです~」

「な、なるほど……」


 とりあえず、外で待っている二人を箱庭に連れてくるラックだった。


「なんとも不思議なことで……」

「ここが師匠の箱庭なのですね」


 二人は広大な草原の中に立ち、周囲を見回している。


「ラッキー、悪いけど僕にした説明をこの二人にもしてくれるかな」

「いいですよ~」


 ゴルドとシャナクは二本足で立って歩く可愛らしいウサギのラッキーを見て驚いた。


「これはまた、珍妙な」

「珍妙とは失礼な~」

「おっと、これは失礼仕った」


 ゴルドはラッキーに丁寧に頭を下げた。


「うふふ、いいよ~。僕はラッキーだよ~。箱庭の管理人だよ、よろしくね~

「某はゴルドと申す。よろしくお願い申す」

「私はシャナクです。師匠の二番弟子です。よろしくね、ラッキーちゃん」

「ゴルドとシャナクだね、覚えたよ~」


 三人が家の中でテーブルにつくと、ラッキーがどこからかお茶を淹れて持ってきて三人に差し出す。


「これは、ラッキーが淹れたのかな?」

「ふふふ、今回だけ特別だよ~。今後は材料がないと無理だからね~」

「そうなんだ。それでは、特別のお茶をいただこうかな」

「ご馳走になる」

「いただきます」


 ラッキーは、三人がお茶を飲んでいる間に、ラックに説明したことを二人にも聞かせて語った。


「この家には部屋が五つあって、簡素なベッドと簡素な机があるだけだよ。この食堂兼リビングもこのテーブルと椅子があるだけだからね。家具や食器、その他家に置きたいものはマスターのほうで用意してね」

「分かった」

「あと、さっきも言ったけど、畑も作れるからね」

「うん」

「………」


 ラッキーは何か言いたそうな目をすると、「はー」とため息を吐いた。


「もうマスターは、察しが悪いな~」

「え?」

「畑が作れるんだよ、マスターの保留カゴに入っている天使の実を畑で育てることができるんだからね!」

「あっ!?」


 ラッキーが首を左右に振って、呆れる。


「それから~、世界樹の若木も箱庭に植えることができるからね!」

「おおーっ!?」


 ラッキーが肩をすぼめて、首を左右に振る。


「まったくマスターは……」

「って、なんでラッキーが保留カゴの中身をしっているの!?」

「マスターのことならなんでも知っているよ~♪」

「え!?」


 それはちょっと嫌だと思ってしまう。


「そ、それじゃ、まずは天使の実を育てたいと思うんだけど、どうすればいいのかな?」

「天使の実を僕に預けて、畑を耕すMPを消費すればいいよ。あとは僕が天使の実を育てるから~」

「MPを消費すると、上限値は下がってしまうの?」

「違うよ。魔法と同じで、今使えるMPから消費するんだよ。だから、時間が経てば上限値まで回復するよ」

「そうなんだ。それでMPは、どのくらい消費するかな?」

「畑を作って天使の実を育てるだけだから、五十でいいよ~」

「それだけなの?」

「畑を作って天使の実を育てるだけだからそれで十分だよ」

「それじゃ、……これを。畑で天使の実を育ててくれるかな」

「分かった~」


 ラックは、保留カゴの中から天使の実を取り出してラッキーに渡す。

 すると、MPが減ったような感覚があった。


「裏庭に畑を作ったよ。天使の実が育って収穫できるまで、十日くらいかかるから待っててね~」

「え、もう畑を作ったの? しかも、天使の実が収穫できるまで十日でいいの?」

「いいよ~」


 ラックたちが家を出て裏庭にいくと、そこには小さいながらも畑ができていた。


「畑を増やす時は、さっきと同じくらいのMP消費が必要だからね~」

「これはすごいですな……」


 ゴルドも感嘆で声がない。


「ラッキーちゃん、この畑は天使の実しか育てられないの?」

「僕に、種や実を預けるだけで、なんでも育てられるよ~」


 シャナクが、アイテムボックスから何かの球根を取り出した。


「これを育てることはできるかな?」

「いいよ~」


 ラッキーが球根を受け取ると、その球根がスッとなくなった。


「薬草が育つまで三日待ってね~」

「三日!? 三日で収穫できるの?」

「できるよ~」


 ラッキーは胸を張って答える。


「マスター、世界樹の若木を出して~。世界樹の若木はちょっとMPを消費するけど、三千くらいでいいかな~」


 ラックのMPからすれば、三千は大したことない消費だが、世界樹の若木というのは随分とMPを消費するんだなと思った。


「世界樹の若木を植えたよ~。育つまでにちょっと時間がかかるから、百日くらい待ってね~」

「百日で世界樹が育つの? すごいというかなんというか……。ちなみに、この箱庭はどのくらいの広さがあるの?」

「一万四千四十四平方キロだよ」

「い、一万……平方キロ……」


 箱庭は広大だった。


 

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