003_ガチャ
ラックはドライゼン男爵領に入った。
このドライゼン男爵領へ入る前、アナスターシャに従僕を辞めることを申し入れると、アナスターシャがヒステリックになって認めないと言い出した。
だが、これは帝国の法で決まったことで、聖女もそのことを認知していたことからアナスターシャがごねた以外は大事になることはなかった。
まあ、アナスターシャがごねる時点で大事なんだが……。
ラックはアナスターシャに酷い折檻を受けることになったが、いつものように歯を食いしばって耐えた。
ただし、今回は肋骨や腕の骨が折れる重傷を負ったことから、本当に死ぬかと思った。聖女が止めなかったら本当に死んでいたかもしれない。
ゴーストタウンと化した町を見つめるラックの瞳は、妙に冷めていた。
「ラック様、屋敷へ入られますか?」
「……いや、屋敷は焼け落ちて町よりも酷い状態だった。町で使えそうな家にとりあえず入ろう」
「承知しました」
人がいない。物資もない。資金もない。家臣もゴルドしかいない。ないないづくしのラックとゴルドは、使えそうな家を探す。
そのラックたちの前にモンスターが現れた。どうやら町中には少ないがモンスターが入り込んで住み着いたようだ。
「ゴブリンです。某が」
ゴルドがラックの前に出ようとするのを、ラックは手で制した。
「僕が戦うよ」
ゴブリンは三体。どのゴブリンも黄緑色の肌をして子供くらいの背丈で、腰蓑一枚しか身に纏っておらず棍棒を持っている。
鼻が大きく口が裂けていて、その口の周囲に赤黒い血と思われる汚れがついていることから、今まで何かの肉を食っていたと思われる。
「ラック様……。承知しました。援護に回ります」
名ばかりの領主で名ばかりの貴族。
領主になりたいと思ったことはない。長兄のセドリックが家を継いで男爵になると思って疑わなかった。
しかし、たった数日でその思いはもろくも崩れ去ってしまった。
皆が愛していた領民によって殺されて……。
「せめてモンスターと戦うくらいは……」
わけの分からない天職のおかげで、これまで戦うことを考えたこともなかった。
そんな自分を変えたい。変えなければ、この土地で生きていくことはできない。
ラックは人生で初めて剣を抜いた。
「いくぞっ!」
ゴブリンはすでに臨戦態勢である。
三体のゴブリンが棍棒を振りかぶって走り寄ってくる。
戦いは初めてだが、剣の稽古は続けてきた。自分に自信を持てと剣を持つ手に力を込める。
ゴブリンが走ってきた勢いそのままに棍棒を振り下ろしてきたのを剣で受ける。
しかし、ゴブリンは三体いて三本の棍棒を受け止めることはできず、剣で受けた一本ともう一本はなんとか避けたが一本の棍棒が肩口に当たった。
「ぐっ!?」
「ラック様!?」
ゴルドが戦いに入ってこようとする。
「大丈夫だ」
ラックはアナスターシャの折檻に比べれば、こんなのなんでもないと剣を振る。
無造作に振った剣だったが、それがゴブリンの頭に当たりそのこめかみにめり込む。
ゴブリンは「グギャッ」と悲鳴のような声をあげる。
ラックはゴブリンのこめかみにめり込んだ剣を抜き、すでに棍棒を振り下ろしていたゴブリンの胸に向かって突いた。
棍棒が先ほどと同じ肩口に当たり痛みを感じるが、歯を食いしばって剣を突ききるとゴブリンの胸に突き刺さった。
だが、ゴブリンはもう一体いて、そのゴブリンが振った棍棒がラックの頭に当たる。
棍棒が当たった瞬間、意識がもうろうとして体から力が抜けそうになるが、ラックは無意識に剣を横に薙いでそこで意識が途切れた。
「……ここは?」
ラックが意識を取り戻した時には、夕日の赤い日差しが窓の隙間から入ってきていた。
「気づかれましたか」
ラックの視界にシワの深いゴルドの顔が映る。
「ゴルド……僕は……?」
「ゴブリンの棍棒が頭に当たり、気を失われたのです」
「そうか……」
「ポーションで治療しましたので問題ないと思いますが、痛みはありますか?」
ラックは上半身を起こすと、自分の体の調子を確認する。
「問題ないし、痛みもないよ」
「よかったです。お腹は空いていませんか? 干し肉とスープですが、すぐに用意します」
ゴルドはすでに六十歳を越えている老騎士で、なぜこんな自分についてきてくれるのかラックには分からなかった。
年齢的に仕官は無理でも、コネを使えば他の貴族家の食客くらいにはなれるはずだ。
無一文のラックについてきてもゴルドになんのメリットもない。
「ゴルドはなんで僕に仕えてくれるの?」
鍋を火にかけてスープを温めるゴルドの背中に話しかける。
炎の暖かな光と、夕日の光が交じり合ってゴルドの横顔が燃えているように見える。
「某はお屋形様をお守りできませんでした」
ゴルドはぽつりと言葉を紡ぐ。
「そのお屋形様の最後の言葉が、ラックを頼むというものでした……」
「父上が……」
「このような老体に何ができるか分かりませんが、命ある限りラック様をお守りするとお屋形様に誓ったのです」
「………」
ラックの頬に涙が落ちる。
「父上は、最後まで僕を……」
涙がとめどなく溢れ出てくる。
しばらく泣きじゃくると、スープが温まったとゴルドが皿を差し出してきた。
「温まりますので飲んでください」
ラックはスープと干し肉を無言で胃の中に収める。
「そう言えば、ゴブリンを三体倒しましたのでレベルは上がっていませんか?」
過去にレベルを上げようとしたことがあった。
その時はウサギのモンスターを一体倒したが、経験値が入らずレベルが上がることはなかった。
それ以来、モンスターと戦うことはなかったが、今回も経験値を得ることなくレベルも上がっていないだろう・
「ラック様のレベルの件は存じ上げています。しかし、念のために確認をされたほうがいいでしょう」
「そうだね……」
ラックは今回もダメだろうと、期待せずにステータスを脳内に出した。
「………」
【氏名】 ラック・ドライゼン 【種族】 人族 【性別】 男
【天職】 ガチャマン 【レベル】 1(8/100)
【HP】 21/21 【MP】 11/11
【固有スキル】 ガチャ 【ガチャポイント】 3
脳内に現れたステータスは、なんとレベルが上がっていたのである。
「え?」
理由は分からないが、モンスターを倒して経験値を得てレベルが上がっている。
なぜと思うが、それ以上にレベルが上がったことが嬉しくて、胸が熱くなる。
「どうかされましたか?」
ゴルドが心配そうにラックの顔を覗き込んでくる。
「ゴルド……」
「はい」
「僕……レベルが上がったよ」
「おお! それは、おめでとうございます!」
ゴルドも自分のことのように喜んでくれる。
レベルが上がって嬉しくて気づくのが遅れたが、レベル以外にもステータスに変化があった。
「ガチャポイント……?」
ガチャポイントという項目が増えているのだ。
今までどんなにスキルを発動させようとしても、ガチャは発動しなかった。
このガチャポイントの項目が増えたことで、ガチャが発動するかもしれない。
ラックの心臓が早鐘のように鼓動する。
「ガチャ、発動……」
すると、視界の先に今までに見たことのない半透明の画面が現れ、何か文字が書いてある。
【ガチャのご利用、誠にありがとうございます】
最初の文字を読んでみると、これがガチャに関係する画面だと分かる。
「ラック様? どうしました?」
「……ゴルドには、この画面は見えないの?」
「画面ですか? 某には何も……」
どうやら半透明の画面はラックにしか見えないようだ。
【ガチャについてご説明します】
【ガチャはモンスターを倒すと得るガチャポイントを消費することで回すことができます】
説明を読んでいくが、ここまでで分かったのはモンスターを倒すとガチャというスキルを回すことができるというものだ。
だが、ガチャを回すという表現が、ラックには理解できない。
【現在のガチャは、六種類のレア度が設定されています】
【レア度の最も低いのはコモンです。以後順にアンコモン、レア、スーパーレア、ウルトラレアとレア度が上がっていき、最上位はレジェンドレアになります】
ラックにはよく分からないが、六種類のレア度があってそのレア度によって何かが違うようだ。
【レア度が高くなればなるほど、ガチャを回した時に得られる景品もよいものになります】
【景品はアイテムやスキル、その他便利なものになります】
「なんだって!?」
「ラック様?」
急に叫ぶように声を発したラックをゴルドは心配する。
「だ、大丈夫だよ」
「それならよろしいのですが……」
ラックが思わず声をあげてしまったように、その説明文は非常にショッキングな内容である。
【ガチャを一回回すポイントはコモンが一ポイント、アンコモンは十ポイント、レアは五十ポイント、スーパーレアは千ポイント、ウルトラレアは五千ポイント、レジェンドレアは二万ポイントを消費します】
【また、十一連ガチャを回す時は、十倍のガチャポイントを消費します】
ステータスのガチャポイントを見ると、現在のラックは三ポイントのガチャポイントを持っている。
十一連ガチャは無理だが、コモンであれば三回回せることになる。
【さらに十一連ガチャを回す場合は、一つ上のレア度の景品が入る可能性がありますので、チャレンジしてみてください】
これはいい情報だ。
十一連ガチャを回すには十回分のポイントでいいし、さらに一つ上のレア度の景品が出る可能性もあるのだ、基本的には十一連ガチャを回すしかないだろう。
【今回は初回特典としまして、ガチャポイントを消費することなくコモン十一連ガチャを回すことができます】
これまで使えないスキルだと嫌っていたが、今のラックはなんて素晴らしいスキルなんだと、ガチャのことが大好きになっていた。
【初回特典コモン十一連ガチャを回しますか? Yes/No】
ラックは迷わずYesを選択した。