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025_今さら何を?

 


「シャキシャキ歩け!」

「がっ!?」


 ダラダラと歩く五人の冒険者に、ゴルドが容赦なく蹴りを入れる。


「ゴルド。五人は放置してもいいから、早くいくよ」


 五人は武器や防具を取り上げられたうえ、ラックの結界魔法によって両手の自由がきかない。

 つまり、ラックたちから離れたら、モンスターに襲われても誰も守ってくれないので、ラックたちから離れることはすなわち死を意味するのである。


「そうでしたな。では、速度を上げましょう」


 意趣返しではないが、ゴルドは五人に厳しい。

 この五人の冒険者は、よく見たらラックたちがこの灼熱のダンジョンに入る時にちょっかいを出してきた冒険者たちだった。

 おかげでゴルドは容赦なく蹴ったり殴ったりする。

 もっとも、ポーターの少年に怪我を負わせて囮にして、自分たちはファイアドラゴンから逃げようとした下種どもなので入り口の一件がなくても容赦する気はない。


 冒険者たちは逃げたいが、逃げたら生きて地上に戻れない。

 だが、このままラックたちについていっても、冒険者ギルドに突き出されてしまう。

 歯噛みしながらどうするか考えるが、いい案は思い浮かばない。


 地上に近くなると、他の冒険者とも頻繁にすれ違うようになる。

 五人の首からは「ポーターを殺そうとしたので、捕まっています」というカードが下がっていて冒険者たちから白い目で見られる。


 地上に到着すると、冒険者ギルドの建物の中なのでラックたちは五人をギルドに引き渡した。

 その際に五人は、ラックたちに襲われたと主張したため、ラックたちもギルドの職員に事情を聴かれることになる。


 ラック、ゴルド、シャナクの三人は別々の部屋で待たされる。

 ラックが待っていると、壮年の男性が部屋に入ってきた。


「お待たせして、申しわけないですね」


 物腰は柔らかいが、視線が鋭いとラックは感じた。


「いえ、大して待っていませんから」


 男性はラックの向かいに座る。


「私は冒険者ギルドの職員で、ダジムと申します」

「ラックです」

「それでは、いくつか質問がありますので、正直にお答えください」

「はい」


 ダジムは持ってきた書類をパラパラとめくる。


「今回、ポーターのケビン君が五人の冒険者によって怪我を負わされ、ファイアドラゴンを引きつける囮にされていた場面に遭遇したため、ファイアドラゴンを倒したうえで五人を拘束したとありますが、間違いないですか?」

「間違いないです」

「ラック殿がファイアドラゴンを倒したとありますが、本当ですか?」


 ここでラックは普通だとファイアドラゴンを一人で倒せないということに気づいた。

 しかし、それが事実なので、正直に答える。


「そうです」


 その答えにダジムは目を細めた。


「ファイアドラゴンの素材はどうされましたか?」

「持ち帰りました」

「どうやってですか?」

「収納系スキルがありますから、それに収納しています」


 ダジムはスキルの鑑定を持っているが、ラックを鑑定してもラックが言ったような収納系スキルはないし、ファイアドラゴンを倒せるようなスキルも持っていない。


「広い場所があれば、ファイアドラゴンを出しますよ」

「……分かりました。それでは、倉庫でファイアドラゴンを出してもらえますか」


 二人は部屋を出て倉庫へ場所を移した。

 ダジムの鑑定はスキルレベルが十になっており、世界でも有数の鑑定能力を持っていると自負がある。

 そのダジムの鑑定を誤魔化すことはできない。そう思っていた。


「………」


 ダジムは唖然としてファイアドラゴンを見つめた。


「どうですか、これで、信じていただけましたか?」

「はい……」


 ラックが収納系のスキルを持っていることは、理解できた。

 さらに、ラックかラックのパーティーメンバーは、ファイアドラゴンを倒せるだけの力があることも。

 それと同時に、ダジムの鑑定を完全に誤魔化すことができる隠蔽系スキルを持っていることも分かった。


 だが、あり得ない。ダジムの鑑定を完全に無力化するスキルなどあるわけがないのだ。

 なのに、目の前の黒髪の少年ラックは、それを持っている。

 ダジムはかなり混乱するが、なんとか持ち直した。


 そして、ラックという名に聞き覚えがあることに気がついた。

 バーンガイル帝国の冒険者ギルド帝都総本部からラック・ドライゼンを見つけたら、丁重に扱い帝都総本部へ即刻報告し、帝都へ送るようにと通達があったのだ。

 帝都総本部からはガチャマンという天職を持った少年だと聞いていたが、鑑定で見た少年ラックの天職が剣士だったことで気づくのが遅くなった。

 もしダジムでさえ看破できない隠蔽系スキルをラックが持っているなら、天職も隠蔽されていても不思議ではない。

 あり得ないことだと思いながらも、目の前にあるファイアドラゴンを見たら認めなければならないと、拳を握るのだった。


「では、部屋に戻りましょう。このファイアドラゴンは当ギルドで買い取りでよろしいですか?」

「えーっと……。そうですね、買い取りでお願いします」


 ファイアドラゴンを出してしまった以上、また回収するのも気が引けるので冒険者ギルドに買い取りを頼むことにした。


「承知しました。そこの君、このファイアドラゴンの査定を速やかにして報告をしてもらえるかな」

「分かりました、支部長」


 ここでダジムが支部長だということが判明した。


「支部長さんだったのですね」

「隠していて申しわけない。支部長だと言うと身構えられてしまうといけないと思ってね」

「あぁ、納得です」


 再び部屋に戻ったラックとダジムは向き合って座る。


「さて、君はラック・ドライゼン殿だね?」

「……そうです」


 ラックは家名は名乗っていないし、パーフェクトフェイクによって名前はラックとしか鑑定で見えないはずだ。

 だが、ダジムはラックがドライゼンだということを知っている。

 なぜだ? と身構える。


「そう警戒しなくてもいい。別に取って食おうとしているわけではないからね」

「なぜ僕がドライゼンだと思ったのですか?」

「実を言うと、バーンガイル帝国の帝都総本部から君を捜索していると連絡があったのだ。黒髪黒目の十五歳、天職にガチャマンを持っている少年を探しているとね」

「帝都総本部から……?」


 ラックはすでに帝国貴族の身分を返上している。

 だが、ドライゼン男爵家が勇者ベルナルド・ファイナスもしくはその関係者によって滅ぼされたことについて、何かあるのかと考えてしまう。


「多分、君は私が鑑定持ちだと知っていると思うが、その私が君を鑑定した結果、君の天職はガチャマンではなく剣士だった。そして、私の鑑定には収納系のスキルは見えなかったのに、君は巨体のファイアドラゴンを出して見せた。つまり、君はステータスを隠蔽や偽装できるスキルを持っているということだ。あとは黒髪黒目の十五歳の少年でラックというところから君がラック・ドライゼン殿だと判断したわけだ」


 ダジムは鑑定が完全に誤魔化されてしまった悔しさを噛みしめるように説明した。


「あ、そうか……気がつきませんでした……」


 そこまで説明された以上、ラックも誤魔化すようなことはしなかった。

 別に悪いことをしているわけではないのだから、堂々と自分がラック・ドライゼンだと名乗りを上げる。


「帝都総本部がラック・ドライゼン殿を招聘しているため、これから帝都に向かっていただきたい」

「……お聞きしますが、それは強制ですか?」

「いいえ、これは要請であって強制ではありません」

「僕は目的があって旅をしています。それに僕は帝国には戻らないつもりで故郷を後にしました。申しわけありませんが、僕が帝国へ戻ることはありません」

「……そこを何とかなりませんかな?」

「それよりも、ケビン君とあの五人の冒険者の処遇についてどうなるのか、教えてください」


 ラックの意思は固く、帝国へ戻るつもりはない。

 だから、無駄な話をするよりも助けたポーターことケビンと、五人の冒険者のことを聞きたい。


「ラック殿と仲間の二人の供述が一致していれば、五人は有罪ですから余罪を調べたうえで処分します」


 ラックの帝都いきと、今回の冒険者の捕縛は違う話なのでしっかりと調べることになる。

 だが、あの五人(元は六人)は素行が悪く、これまでにポーターが数人帰ってこなかったこともあって、有罪は確定だろうとダジムは語る。


 しばらくして、ゴルドとシャナクの聴取も終わったことで、ダジムは結果を三人に語る。


「ラック殿、ゴルド・シバーズ殿、シャナク・ルタシッダー殿の証言に不審な点はなく、あの五人は有罪として処分します。ポーターのケビン君には、ギルドから見舞金が支払われることになります」


 ダジムは五人は有罪だと断言し、ケビンにも見舞金が支払われると言う。

 それを聞いてラックはホッと胸をなでおろす。


「そこでラック殿には、何度も申しわけないが、帝都へ戻ってもらえないだろうか?」

「申しわけありませんが、僕にはいくべき場所がありますので、お断りいたします」


 ダジムはラックの意思が固いことを知り、切り口を変えることにした。


「では、しばらくこのバーニングガーデンに留まってもらえないだろうか」

「なぜそれほどに冒険者ギルドが僕に拘るのですか? その理由次第では考えなくもないですが」

「実は、帝国でラック殿に関することで神降ろしがあったと聞いているのです」

「神降ろし……」


 ラックはゴルドの顔を見たが、ゴルドに神降ろしの内容が分かるわけもない。

 神降ろしのことはラックも知っているが、まさか自分が神降ろしに関係するとは思ってもいなかった。


「僕に関して神降ろしがあったのですか? いったいどのような内容ですか?」

「勇者に関することだと聞いているが、それ以上の詳しいことは聞いていない」


 神降ろしが関係するとなると、帝国、そしてサダラム教が関係しているのは間違いない。

 この両者は勇者ベルナルド・ファイナスや聖騎士アナスターシャ・モーリスと関係が深いことから、二人も関係していることだろう。

 事実、ダジムは勇者に関することだと言っている。


 ラックは帝国にも勇者にもかかわるつもりはないが、なぜダジムがここまで必死にラックを引き留めようとするのか分からない。

 帝国は大国とは言っても冒険者ギルドは独立組織だ。

 その冒険者ギルドが帝国や勇者のために動く理由は……やはり神降ろしの内容だろう。


 もし、勇者が父親を殺したことを認め謝罪すると言っても、さすがにそれを受け入れるほどラックの心は広くない。

 それに、ラックはすでにドライゼン家を譲った身であり、父のドライゼン男爵が勇者もしくは勇者の関係者に殺されたことで帝国が何か伝えたいことがあるのなら、ラックにではなく現ドライゼン男爵に言うべきだ。


「留まっても、帝国へはいきませんので同じではないでしょうか?」


 ラックは帝国を捨てた身。

 今さら帝国に帰るつもりはないし、帰りたくもない。

 ダジムには悪いが、帝国や勇者に関わり合いたくもない。


 

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