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024_灼熱のダンジョン

 


 灼熱のダンジョンがあるバーニングガーデンは、ベルゴイーユよりも冒険者が多くとても賑やかな町だ。

 ダンジョンを管理する冒険者ギルドも大きく冒険者が途切れなく出入りしている。

 ダンジョンがあるのはベルゴイーユと同じなのに、ベルゴイーユよりも栄えているのはひとえに灼熱のダンジョンの規模が大きいからである。


「師匠。ダンジョンへ入る登録が終わりました」

「それじゃ、入ろうか」


 バーニングガーデンの冒険者ギルドの建物の中に入り口がある灼熱のダンジョンは、冒険者の出入りを管理していて、ベルゴイーユのダンジョンとはこういったところも違っているようだ。


 ラック、ゴルド、シャナクの三人は順番を待って灼熱のダンジョンへ入っていく。


「ガキがダンジョンにはいるのかよ。灼熱のダンジョンも舐められたものだな」


 シャナクを見た冒険者たちが囃し立てる。


「シャナク。雑音は無視しろ。お前はラック様にその力を示せばいいのだ」

「はい」


 ゴルドの言葉にシャナクは力強く頷く。


「けっ、ダンジョンはままごとじゃねぇーっつんだよ」


 シャナクのことをとやかく言う権利は冒険者にはない。

 冒険者がダンジョンに入るのは自己責任であり、例えダンジョン内で死んだとしてもそれは自分のせいなのだ。

 だから、シャナクがダンジョンに入るのも自己責任であり、他の冒険者がそれを咎めることはない。

 ただし、シャナクのような少女がダンジョンに入れば、普通は生きて帰ってこられないため、それを止めるお人よしの冒険者はたまにだがいる。

 今回の場合は、ただ単に華奢な少女であるシャナクがダンジョンに入ることをからかっているだけなので、無視するに限るのだ。


 三人は背中に冒険者たちの視線を受けてダンジョンの中へと歩いていく。

 その時、冒険者が投げた何かがラックの後頭部に向かって飛んできたが、ラックはそれを視認することなく頭を軽く傾けて避けた。

 冒険者は運のいい奴と思ったようだが、相手の強さを肌で感じることができる上位の冒険者は、ラックだけではなくゴルドとシャナクからも力を感じ、冒険者(こいつ)死にたいのか? といった目で見ていた。


「貴様!?」


 ゴルドが冒険者に詰め寄ろうとするが、ラックがそれを止める。


「ゴルド、無視しろとシャナクに言っていたのはゴルドだよ」

「しかし、ラック様に……。分かりました」


 ラックに止められたゴルドに向かって、数人の冒険者が笑い声をあげる。


「ワンちゃんはご主人様の忠犬でしゅね~」


 ゴルドが青筋を立てるが、我慢してダンジョンの中へ入っていく。

 だが、「ダンジョン内で絡んできた時は覚えておけよ」と強く拳を握るのだった。

 ダンジョン内では何が起きても冒険者の自己責任。もちろん、冒険者同士の諍いをギルドは禁止しているが、ダンジョンの中で何があっても本人たちしか分からないことなのだ。

 それに自衛は許されているため、武器を抜かれた場合は相手を殺しても罪には問われない。それが冒険者とそれを管理する冒険者ギルドの常識だ。


 ダンジョン名でも分かると思うが、この灼熱のダンジョンの中はかなり蒸し暑い。

 ゴルドはスキル熱耐性、シャナクは熱耐性のある耐熱の鎧と耐熱の盾によって蒸し暑さを感じることはほとんどないが、ラックは熱耐性を持っていないため、ダンジョン内の熱気を感じてから氷魔法で自分の周囲の温度を下げている。

 氷系の攻撃魔法を発動させるのは氷魔法を覚えていれば可能だが、こうやって自分の周囲の熱を遮断するような使い方は魔力と器用の値が高いラックだからできることだ。

 今後は支援と氷魔法のどちらが使い勝手がいいか、実際に使ってみて検証するつもりだ。


「ラック様、暑さは大丈夫ですか?」

「うん。氷魔法で周囲の熱を遮っているから、涼しいよ」

「さすがはラック様です。では、奥へ進みましょう」

「了解」

「シャナク、油断するなよ」

「はい!」


 ゴルドはスキル気配感知を持っているし、ラックは剣聖に気配感知が含まれているため、気配にはかなり敏感だ。

 しかもゴルドはイヌ獣人の特徴として耳と鼻のよさがあるため、モンスターだけではなく冒険者の気配にもかなり敏感に反応できる。


 灼熱のダンジョンの一層では、炎のような毛並みが特徴的なファイアドックが現れて襲いかかってくるが、シャナクとゴルドが一瞬で切り捨てる。


「この魔剣アスカロンは本当に鈍らですな。これは沢山のモンスターの血を吸わせてやらぬと、使い物にはなりそうもないですぞ」


 ゴルドは魔剣アスカロンの刃に指を這わせ、切れ味が悪いことを嘆く。


「シャナク、モンスターの取り合いだ、負けぬぞ」

「ゴルドさん、師匠にいいところを見せたいので、私だって負けませんよ!」


 ゴルドとシャナクは出てくるモンスターを我先にと切り捨てていく。

 競うようにモンスターを切り殺していく二人の後ろにラックがついていく。ラックは二人が殺したモンスターの死体を回収する役目になっている。

 ちょっと前まではラックがガチャポイントを稼ぐために、ラックがモンスターを倒してゴルドが魔石を回収していたが、今はスキルパーティー共有のおかげで二人が倒したモンスターのガチャポイントは全部ラックに入ってくる。

 無駄がなくてとてもありがたいスキルだ。


 出遭うモンスターはとにかく殲滅して、シャナクの経験とゴルドの魔剣アスカロンの糧にして進んだ三人(主に二人)は、七日ほどかけて十層に到達した。

 この灼熱のダンジョンには、質の悪い罠がところどころに設置されているが、真贋の目で魔力を見ることができるラックがいるため罠にハマることもなく進んでこられた。


「あっ、あそこ」


 魔力の違う場所があったため、よく見てみると珍しいものがそこにはあった。


「宝箱ですな」

「うわー、本当に宝箱ってあるんですね!」


 三人は宝箱を囲む。


「宝箱の中には罠もありますが、これはどうでしょうな……?」

「これは普通の宝箱のようだよ。罠もなければモンスターでもないね」


 真贋の目で見れば、そういった情報も得ることができる。


「では、ラック様がお開けください」

「了解」


 ラックが宝箱の蓋を開けると、その中には羊皮紙のような紙が丸められているものがあった。


「なんだろう……。なるほど、これはサラウンディングマップという周囲の情報が分かる地図のようだね」


 開けてみると、自分がいる半径十キロの地形や人、モンスターなどの情報が表示されている。


「これは便利なものですな。いいものを手に入れました」

「師匠。これを見てください」


 サラウンディングマップの一角にある冒険者たちが集まっている場所をシャナクが指さす。


「ん? これは……」

「ほう……。ラック様、どうされますか?」

「いこう!」

「承知しました」

「はい!」


 三人は駆けだして、冒険者たちの元に向かう。

 サラウンディングマップがあるおかげで、迷路のような洞窟型のダンジョン内でも迷うことなく進むことができた。


 ▽▽▽


「おい、役立たず。お前があの化け物を引きつけろ!」

「え、無理だよ」


 冒険者たちは、ファイアドラゴンを前に苦戦を強いられていた。

 六人いる冒険者パーティーだが、一人はすでにこと切れているように見える。


「無理でもなんでもやるんだよ!」


 圧倒的な強者であるファイアドラゴンになす術もなく冒険者たちは追い込まれていく。

 そのため、冒険者たちが荷物運びのために連れてきたポーターの足を剣で切って、ファイアドラゴンの前に蹴りだした。

 冒険者たちはポーターを犠牲にして逃げ出してしまった。


「う、嘘だろ……」


 ポーターが足の痛みとファイアドラゴンへの恐怖で顔面蒼白になる。

 ファイアドラゴンが大きく口を開けてポーターを喰らおうとする。


「あぁ……。こんなところで死んでしまうのか……」


 もっと生きたかった。もっと楽しいことをしてみたかった。

 そして何より、強くなって役立たずとバカにした奴らを見返してやりたかった。


 巨大な口の中には鋭い歯がびっしりと並んでいて、喉の奥からは炎がちらちらと燃え上がっているのが見える。


「くそっ」


 目を閉じて喰われる(その)時を待つ。

 だが、いつまでたっても痛みがない。いや、足には剣で切られた痛みがあるが、ファイアドラゴンに喰われた痛みがないのだ。

 目を開けてみると、信じられない光景がそこにあった。


「え?」


 ファイアドラゴンの首が地面に落ちていて、大量の血が切られたと思われる首から流れ出ていたのだ。


「間に合ってよかった。君、大丈夫?」


 目の前には黒い髪の毛と黒い瞳のひょろっとした少年が立っていた。

 こんな力もなさそうな自分と同じくらいの年齢の少年が、ファイアドラゴンを倒したというのだろうか?

 そんなわけがないと思っても、目の前の光景はそのあり得そうにないことを物語っている。


「ラック様、こやつらはどうしますか?」


 ゴルドとシャナクの足元には、五人の冒険者が白目を剥いて倒れている。

 ゴルドとシャナクが首に手刀を入れて気絶させたようだ。


「ん、ああ、そうだね……、冒険者ギルドにつき出そうか」

「面倒ですから、ここで殺していけばいいのでは?」


 ここはダンジョンの十層で、この五人を連れて帰るのは面倒なのは否定しない。


「そうだね……。あ、ちょっと待ってね、ヒール」


 聖者の指輪を装備しているラックは、その効果によって神聖魔法を扱える。

 そのため怪我を治癒させるヒールを行使できるのだ。


「あ、怪我が……。ありがとうございます」


 ポーターの少年は足の怪我が一瞬で治ってしまったため、かなり驚いた。

 しかも、通常は怪我が治っても多少は痛みが残るはずなのに、痛みもない。

 立ち上がって足の状態を確認すると、まったく違和感がなかった。


「痛みもありません。なんとお礼をいったらいいのか……」

「いいですよ。それよりも、あの冒険者たちどうしますか? 冒険者ギルドに突き出すか、ここで殺していくか、君が決めて」

「僕が……」


 ポーターの少年は、そんなこと言われてもと戸惑う。



 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 シャナク「ゴルドさん」

 ゴルド「なんだ?」

 シャナク「その毛皮、暑くないですか?」

 ゴルド「ふん。このていどのこと何ほどでもないわ!」

 シャナク「あ、毛が抜けていますよ。ああ、夏毛に切り替わっているのですね!」

 ゴルド「………」


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 

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