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021_シャナク1

 


 ゴルドが力に慣れるための戦闘を終えて宿に帰る途中のことだった。


「きゃーーーっ!」


 空気をつんざき、ラックとゴルドの耳に悲鳴が聞こえた。


「ゴルド!」

「はい!」


 悲鳴が聞こえたほうへ二人が駆けつけると、誰かがロックトードの舌に拘束されて今にも喰われそうになっている。

 ロックトードはカエル型のモンスターだが、その大きさは大人の人間をひと飲みにするほど大きい。

 そしてその舌は驚くほど柔軟で十数メートル先の獲物を捕らえるほど長く伸びる。


「間に合え!」


 ラックはさらに速度を上げて聖剣ソラスティーバを振り抜いた。

 舌を切られたロックトードは痛みのせいで、ゲコゲコとうるさく鳴く。


「ラック様!」


 ゴルドが遅れて駆けつけ、ロックトードを一刀のもとに切り伏せた。

 今までのゴルドであれば、一刀でロックトードを切り伏せることなどできなかったはずだ。

 しかし、若返りの秘薬を飲んだことで若返り、力を得た今のゴルドであればそれも可能である。


「大丈夫でしたか?」


 ロックトードの舌が巻きついたままの人物にラックが声をかけると、なんとか舌から抜け出した人物が立ち上がった。


「あ、ありがとうございました!」


 ラックと同じような黒い髪の毛に黒い瞳を持ったその人物は、まだあどけなさが残る十二、三歳の少女だった。

 少女は使い古された銅の剣だけを持って森の中に入ったようで、防具と言えるようなものは身に着けていない。

 モンスターの闊歩する森の中に、こんな少女が一人で何をしているのかとラックは疑問に思った。


「無事で何よりだけど、ここはモンスターがたくさんいる場所だから一人で入るのは危険だよ」

「ごめんなさい。でも私、モンスターと戦いたいのです」


 少女の悲壮感漂う目を見て、ラックは何か理由があるんだろうと受け止めた。


「とにかく、ここは危ないから町へ戻ろうか」

「あ、あの、私、戻れません。助けてくださったことは感謝しています。ありがとうございます。でも、町へは戻るつもりはないので……」

「なぜ町へ戻らないの? 何か理由があるのなら聞かせてくれるかな。もしかしたら力になれるかもしれないから」


 見ると服があちこち擦り切れてたり、何かに引っ掻かれて破れていいる。

 今のロックトードとの戦いでそれらの傷がついたようには見えない。

 こんな少女がそこまで思いつめる理由はいったい何なのか?


「私、人を守る力がほしいのです。でも、今の私では誰かを守る力なんてないから、力をつけるまで戻らないって決めたのです」


 少女の力のこもった声にラックは思わずたじろいでしまう。

 だが、どう見ても非力な少女なので、モンスターと戦うのはかなり危険だ。


「なぜ、そんなに力を求めるの?」


 ラックの質問に少女の瞳に悲しみが溢れる。


「……お父さんもお母さんもモンスターに殺されてしまったのです。私にもっと力があれば、私がモンスターを倒せていれば、お父さんもお母さんも死なずに済んだのに」

「そうか、ご両親を……」


 両親を失う悲しみはラックにも覚えがある。

 とても悔しく、そして深い悲しみをラックも味わったばかりだ。

 ラックにはゴルドがいたから、悲しみも幾分かは和らいだかもしれないが、この少女にはそばにいてくれる人もいない。

 この少女をこのまま放置して町には帰れない。ラックはそう強く思った。


「ラック様」

「うん、分かっている」


 ゴルドの声に短く答えたラックは、少女に「ちょっと待っててね」と声をかけると聖剣ソラスティーバを抜いた。

 地面を蹴って向かった先には、三体のオークがいた。

 少女は気づいていなかったが、ラックとゴルドはオークの気配を早くから感じていたのだ。


「はっ!」


 聖剣ソラスティーバを一閃すると、三体のオークの首が一度に切り飛ばされた。

 少女はその光景を見て「え!?」と声をあげる。


「力がほしいと思う君の思いは分かったよ。でもね、無理をしても無駄に命を落とすだけだから、一度町に戻ろう」


 聖剣ソラスティーバを鞘に納めながらラックは少女に言い聞かせる。


「あ、あの……」

「ん、何?」

「私を弟子にしてください!」


 少女はその場に土下座してラックに頼み込んだ。


「え? ……えーっと」

「なんでもしますので、私に剣を教えてください!」

「ぼ、僕たちは旅の途中だから……」


 ラックは弟子を取れるような状況でも立場でもないと、断ろうとする。


「野営の準備、夜の見張り。なんでもしますから、私を弟子にしてください!」


 少女は地面に額をつけて、必死に頼みこむ。


「……ゴルド。どうしたらいいの?」

「ラック様のお心のままにすれば、よろしいのでは?」


 ゴルドは二人を暖かい目で見つめる。


「とりあえず、立とうか。そのままじゃ、話もできないし」


 今の状況をはたから見たら、ラックが少女を虐待しているように見えることだろう。


「それでは、弟子にしていただけるのですか?」

「え、そ、それは……」


 少女はうるうると瞳を潤ませてラックを見る。


「僕は人に何かを教えるような立派な人間じゃないよ」

「そんなことありません! ラック様は剣の達人ではないですか!」


 ロックトードの時は少女も必死でラックの剣さばきを見ていなかったが、先ほどの三体のオークの首を一瞬で切り落とした剣の腕は間違いなく達人だと少女は思い込んだ。

 たしかにラックはスキル剣聖によって、剣の腕は一般的に見れば達人の域に達している。少女の見立ては間違っていないのだが……。


「お願いします! 弟子にしてください!」


 このままでは埒が明かない。

 それに、少し前の自分の姿を見ているようで、なんだか心が痛む。

 そう感じたラックは渋々ながら少女を弟子にすることにした。


「分かったよ、君を弟子にしよう」

「ありがとうございます!」

「でも、君の家族は……」

「家族はいません。先ほども言いましたが、両親は死んでいますので」


 兄弟や親戚もいないと少女は言う。


「あ、すみません! 私はシャナクっていいます。どうぞ、よろしくお願いします。師匠」

「し、師匠……」

「ははは。ラック様に弟子ができましたな。シャナクとやら、言っておくがラック様の一番弟子はこのゴルドだ。分かったか?」

「はい、ゴルドさんが一番弟子で兄弟子ですね!」

「ちょ、ゴルドまで何を言っているのっ!?」

「いいではありませんか。これからは某はラック様の騎士であり、一番弟子を名乗らせていただきます」

「私は二番弟子です!」


 ラックは頭を抱えてその場に蹲った。


「ラック師匠、大丈夫ですか? 頭が痛いのですか?」


 シャナクがラックを心配するが、ラックの頭痛の元凶はこのシャナクである。


「ラック様、そろそろ町へ戻りましょう」


 ゴルドは今の状況を楽しんでいるように見える。

 若返りの秘薬を無理やり飲まされた意趣返しではないと思うが……。


 町へ帰る道中、ラックたちはシャナクのことを色々聞いた。

 弟子にした以上、知らなければいけないことだ。

 まずは名前だが、シャナクの家名はルタシッダーという。そして、種族はエルフ族と人族のハーフだ。

 髪の毛で隠れているが、よく見ると耳がやや長く尖っているのが分かる。


「エルフと人のハーフって初めて見たかも」

「この国では、エルフ自体が珍しいってお母さんは言っていました」


 エルフ族は人族に比べると絶対数が少ないだけではなく、排他的であまり自分たちの森から出てこない種族だとシャナクは語る。


「へーそうなんだ。シャナクのお母さんはなんで森を出たの?」

「分かりません。何度か聞いたのですが、教えてくれませんでした」


 ラックの質問に対してシャナクは正直に答えていく。


「それじゃ、ステータスを見てもいいかな?」

「師匠は鑑定系のスキルを持っているのですか?」

「まあそうだね。見てもいいかな?」

「はい。どうぞ見てください」


 ラックは真贋の目を発動させて、シャナクのステータスを見る。



【氏名】 シャナク・ルタシッダー 【種族】 ハーフ(エルフ族・人族) 【性別】 女

【天職】 村人 【レベル】 2(188/200)

【HP】 15/15 【MP】 15/15

【腕力】 9 【体力】 9 【魔力】 9 【俊敏】 9 【器用】 9

【スキル】 努力3(130/300)

 装備品:銅の剣



 本当かどうかは分からないが、人類の半分は村人だと言われているほど、村人という天職を持っている人は多い。

 スキルの努力もよくあるスキルだ。


 

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