020_ゴルド対グリフォン
「ほら、グイッといって」
「し、しかし……」
ゴルドはラックに何かの飲み物を飲むように勧められているが、その飲み物を飲むことを戸惑っている。
「大丈夫だから、ほら、一気に」
その飲み物は美しく七色に輝いていて、本当に飲み物なのか疑問である。
だが、ラックがゴルドに勧めているのだから、毒ではないだろう。
以前からラックはゴルドにこの七色に光り輝く飲み物を飲むようにと頼んでいたのだが、なかなかゴルドはうんと言わなかった。
駅馬車を降りて乗り継ぎのために二日は宿に逗留することになったので、二人は体が鈍らないように近くの森へ出かけてモンスターを狩っていた。
ラックは業を煮やして今日こそはと、狩りの休憩中にゴルドに飲むように迫ったのである。
「しかし、若返りの秘薬ですよ。某のような者が飲んでいいようなものではないですぞ」
この七色に光り輝く飲み物はなんと若返りの秘薬であった。
ゴルドが飲むのを躊躇するのも分かるというものだ。
なぜこのような秘薬をラックが持っているかというと、ウルトラレアの十一連ガチャを回した時に出たレジェンドレアのカプセルの景品だからだ。
「ラック様が飲まれるのがよろしいかと」
「僕は十五歳だよ。若返りの秘薬の効果はないんだ。それよりもゴルドが飲めば、二十歳の頃の若さを取り戻すんだから、早く飲んでよ」
「し、しかしですな……」
この若返りの秘薬を飲んだ人物は肉体が二十歳まで若返るというもので、十五歳のラックが飲んでも意味はない。
逆にゴルドであれば、三十歳以上も若返ることになる。
そうすれば、寿命を考えてもラックと長く一緒にいられるというわけである。
「ゴルドが飲まないのなら、僕が無理やりでも飲ますよ」
「うっ……。わ、分かりました」
「分かってくれたんだね! じゃあ、飲んで!」
売ればどれほどの値段がつくか分からない若返りの秘薬。
自分が老いた時に飲めば、二十歳の若さを取り戻す若返りの秘薬。
世界の誰もがほしがる若返りの秘薬を、ラックはゴルドに飲まそうと考えた。
なんの疑問もなく、ゴルドに飲ますのが一番いいことだと信じて疑わないのだ。
意を決したゴルドは若返りの秘薬を一気に喉に流し込んだ。
この世のものとは思えない芳醇な味と香りが口と鼻の中に広がる。
そんな天国のような気分が味わえたのは一瞬で、ゴルドが苦しみだした。
「ぐ、ぐおぉぉぉぉっ!?」
ラックは冷静にゴルドを見つめる。
この若返りの秘薬の説明文には、体中の細胞を若返らせるため若干の苦痛が伴うとあったからだ。
のたうち回るほどの苦しみではなく体中を電気が走っているような苦痛だ。
それも十数秒で終わり、蹲っていたゴルドが立ち上がる。
「ゴルド、顔のシワがなくなったよ!」
それに髪の毛にも若々しさが戻り、艶やかな濃い茶色に変わった。
ゴルドは自分の両手をグーパーさせて体の調子を確認している。
「ち、力がみなぎっています……」
「そうなの? ちょっとステータスを見ていいかな?」
「問題ありません。某も見ようと思います」
【氏名】 ゴルド・シバーズ 【種族】 イヌ獣人 【性別】 男
【天職】 守護剣士 【レベル】 35(588/350000)
【HP】 3000/3000 【MP】 1500/1500
【腕力】 1500+30 【体力】 1500 【魔力】 1000 【俊敏】 1500 【器用】 1400
【称号】 騎士
【スキル】 片手剣10(3056/100000) 片手盾10(108/100000) 片手剣技5(MAX) 守護7(765/70000) 体術8(111/80000) 気配感知5(MAX) 直感5(MAX) HP回復増5(MAX)
装備品:守りの革鎧 鉄の片手剣(予備に剣王の剣) 守りの盾 腕力の指輪
HP、MP、腕力、体力、魔力、俊敏、器用の各能力値が上昇しているのが分かった。
若返ったことで、かなり能力が上昇したように思える。
若返りの秘薬には、若返るだけではなく能力を強化する効果もあったのだろう。
「すごいよ、ゴルド! 能力が倍くらいになっているじゃないか!」
「某も若返っただけではなく、能力が上がるとは思ってもいませんでした……」
二人してゴルドの若返りと能力強化について喜び合う。
「これならワイバーンも倒せるよ!」
「そんなことは……」
ワイバーン討伐はミスリルランクのパーティーが数パーティーは必要である。
いくら能力が上がったと言っても、ワイバーンを倒せるわけがないとゴルドは思った。
「あ、あそこにグリフォンがいるよ! ワイバーンより少し強いけど、今のゴルドなら倒せるよ!」
グリフォンは鷲の翼と上半身、ライオンの下半身をもつモンスターで、その強さはワイバーン以上下等竜ドラゴン以下である。
「いやいやいや、グリフォンなんて無理ですよ!」
「大丈夫だって、危なそうだったら僕も手伝うから!」
ラックに背中を押されたゴルドがワイバーン以上の強さを誇るモンスターであるグリフォンと戦える場に出ていく。
グリフォンはアダマンタイトランクパーティーでも倒すのは厳しいモンスターだが、ラックは今のゴルドなら大丈夫だと言う。
ラックには真贋の目というスキルがある。
この真贋の目は、対象のステータスを見ることができるが、スキルレベルが二になったことで、腕力などの能力値も見ることができるようになった。
その情報から、今のゴルドであればグリフォンを倒すだけの能力が十分にあると判断したのだ。
「グリフォンは風魔法を使うから、それだけ気をつけてね」
「しょ、承知しました」
本来ならふさふさの尻尾を巻いて逃げ出すところだが、ラックが大丈夫だと言うことからその言葉を信じて剣を抜く。
「ゴルド・シバーズ、参る!」
「ゴルドー、がんばれー!」
なんとも気の抜ける応援の声だが、その応援があればこそ勇気を振り絞って戦える。
グリフォンがゴルドをターゲットに定めたようで、上空を旋回しながら高度をさげてくる。
いつもはゆらゆらと揺れているふさふさの尻尾が、緊張のあまりピーンと立っている。
ゆっくりと旋回して高度を下げてきていたグリフォンが、速度を上げて急降下を始めた。
ぐんぐん距離を詰めるグリフォンを迎え撃つゴルドは、両足で地面をしっかりと掴むと力を溜める。
グリフォンが風魔法のウインドストームを放ってゴルドを牽制すると、ゴルドは片手剣技のトリプルスラッシュでウインドストームを迎え撃ち相殺する。
さらにゴルドは地面を蹴って上空のグリフォンとの距離を一気に詰めると、ゴルドが極めている片手剣技の中でも最も威力の高い技を放つ。
「テンリュウランセイッ!」
天空を流れる流星群のように無数の剣撃がグリフォンを襲う。
時に突き、時に切り、時に絶つ。それが、テンリュウランセイの極意である。
ゴルドが放ったテンリュウランセイを受けたグリフォンは、右側の翼を切り落とされ地上へ落下していく。
地面に激突したグリフォンとは違って、ゴルドは優雅に地面に降り立つ。
「これが某の力……なのか?」
「ゴルドー、まだグリフォンは死んでないよー」
「は、はい!」
ラックの声に戦闘中だということを思い出したゴルドが、四本の太い足で立ち上がったグリフォンを見つめる。
あれほど恐ろしいと思ったグリフォンが、今は恐ろしいとは思わない。
「ラック様が仰ったように、今の某ならグリフォンも倒せる……」
自然と剣を持つ手に力が入るが、肩の力は抜けていく。
睨み合って対峙するゴルドとグリフォン。
そこに一陣の風が吹き、土煙で一瞬視界が奪われる。
その隙をついてグリフォンが地面を力いっぱい蹴ったが、ゴルドもその気配を感じ取り剣を振りかぶる。
「はっ!」
一瞬で交差するゴルドとグリフォン。
全身から血を噴き出して地面に倒れ込んだのはグリフォンだ。
「やったー! ゴルドが勝った!」
ラックは茫然と立ちすくむゴルドに駆け寄って、ゴルドに抱きついた。
「ゴルドならやれると信じていたよ!」
「あ、ありがとうございます。ラック様」
この戦いを通じてゴルドは思った。
力に振り回されていて、思ったように体が動かない。
「ラック様のために、このゴルドはもっと強くなりますぞ」
「僕のためじゃなく、ゴルドのためでいいんだよ」
「そうは参りません。某はラック様の盾としてラック様をお守りいたします!」
「まったくゴルドは……でも、ありがとう」
ラックはゴルドのその気持ちがとても嬉しく、思わず目頭が熱くなる。
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