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016_ドラゴンの墓

誤字脱字は誤字報告してくださると、助かります。


 


 ドーラが住むベルゴイーユ郊外から馬車で二日ほどのところに竜神山はある。

 その竜神山へドーラの馬車で向かったのだが、その馬車を牽くのはゴーレム馬だった。

 おかげで、本来は二日かかるところを半日で進むことができてしまったラックたち。


 竜神山の麓にはドラゴンの亜種と言われるワイバーンが巣を作っていて、冒険者などを寄せつけない。

 ワイバーンはトカゲのような顔をしたコウモリのような翼を持ったモンスターで、体長は三メートルから五メートルほどだ。

 空を自由に飛んで群れで行動するワイバーンだが、ラックがジャンプして倒していく。


 ラックの無双を見るドーラはいつもの下着姿ではなく、質のよい服とマントを着ている。

 さすがに下着姿のまま外出するほど常識外れではなかったようだ。

 ただし、髪の毛はボサボサのままなのが、なんともドーラらしい。


「しかし、ワイバーンも一瞬で首を切り落とすのかい。ラック、あんたオリハルコンランク以上の化け物だよ」

「そんなことないですよ。僕なんてまだまだです」


 二人していい笑顔であるが、御者をしているゴルドは気が気ではない。

 ここはドラゴンたちの住処である竜神山なのだ。

 本来、ワイバーンはミスリルランクの冒険者パーティーが複数いなければ倒せないモンスターだ。

 元々ミスリルランクの冒険者であるゴルドは、若い頃に何度かワイバーン討伐をした。

 しかし、ワイバーンを討伐するのに、多くの犠牲を払った。その記憶が甦ってくる。

 最盛期以上の力を得ている今でも、ワイバーン戦は緊張する。


 出てくるワイバーンは一瞬でラックに倒される。

 ここまでに二十体以上のワイバーンを倒しているが、それだけでひと財産になるだろう。


「ベルゴイーユに帰ったら、ラックは大金持ちだよ」

「ワイバーンはそんなにお金になるのですか?」

「ワイバーン一体で一千万ゴールドは下らないからね。それが数十体あるし、どれも首を切り落として体に傷がない。高値で引き取ってもらえるさ。しかも、これからドラゴンとも戦うんだ、ラックは一生遊んで暮らせるだけの資産を得るよ」


 ゴルドは二人の話を聞いて胃が痛くなってきた。

 ワイバーンだけでもあり得ないのに、これからドラゴンまで出てくるのだから胃が痛むのも仕方がない。

 むしろ、ゴルドの神経のほうが普通であって、ラックとドーラが笑って会話しているほうが異常なのだ。


 ドーラが造ったゴーレムの馬が牽く馬車は、ワイバーンが支配するエリアを抜けて下等竜と言われる無属性のドラゴンが支配するエリアに入った。

 ゴーレム馬は土に返り、馬車はドーラが持っているアイテムボックスに収納してここからは徒歩で山を登る。


 五分ほど山を登ると、最初のドラゴンが出現した。

 二本の後ろ脚で歩行するそのドラゴンは、後ろ足に比べて短い前足を持っていて、巨大な口からは凶悪な牙が見えている。

 体長はゆうに十メートルはあり、太い後ろ足を見れば分かるが一瞬の瞬発力はすさまじいものがある。


「はっ!」


 本来、アダマンタイトランクの冒険者パーティーでも苦戦するドラゴンを相手に、ラックはまたも一刀のもとに首を切り落とす。


「ゴルド。もう分かっただろ。ラックの前ではドラゴンも赤子のようなものだ。緊張する必要なんかないのさ」

「確かにラック様の力はあり得ないほどすごいものだ。だが、気を緩めるわけにはいかぬ」


 ゴルドも分かっているのだが、頭で分かっていても心がそうはいかないのだ。


 ラックは出てくる下等竜ドラゴンを苦も無く倒し、今度はドラゴンの代名詞である属性ドラゴンが支配するエリアに入った。

 火、水、風、土などの属性を持つドラゴンだ。


「ファイアドラゴンだ。火のブレスを吐くから気をつけるんだよ!」

「はい!」


 ドーラのアドバイスに素直に答えて、ラックは聖剣ソラスティーバを構える。

 ファイアドラゴンの鱗は深紅に輝いて圧倒的な存在感を放っており、下等竜ドラゴンの存在感が子供のように思えてしまう。


「グラァァァァァァァァッ!」


 ファイアドラゴンが咆哮をあげてラックたちを威嚇すると、鼓膜がびりびりと悲鳴をあげる。


「すごい迫力だ」


 ラックは美しい深紅の鱗を持つファイアドラゴンに見入っていたかったが、相手は最強種のドラゴンである。

 地面を踏みしめるたびに地響きがし、地面を伝ってその振動がラックの足の裏に伝わる。


「よし、いくよ!」


 ラックが攻撃しようとしたのが分かったのか、ファイアドラゴンは口を大きく開いて真っ赤に燃え上がる炎を吐き出した。

 大地を焼き空気を大量に奪っていく炎のブレスは、一瞬でラックを飲み込んだ。


「ラック様!」

「ラック!」


 離れて見ていたゴルドとドーラは、ラックが炎のブレスに飲み込まれて焼かれてしまったと思い、大声でラックの名を呼んだ。


「何?」

「「っ!?」」


 目の前にラックが現れたのを見て、二人は声が出なかった。


「今、戦闘中だから、話は後から聞くね」


 ラックはそれだけ言うと、また姿を消してしまった。いや、姿を消したのではなく、あまりの速さにラックの姿が見えないだけだった。

 ファイアドラゴンの炎のブレスに飲み込まれてしまったように見えたのも、ラックの動きが速すぎて二人には見えなかっただけなのだ。


 ラックは炎のブレスを吐き終わったファイアドラゴンに接近し、その三十メートルはあろうかという巨体の下へと体を入れた。

 そして一気にジャンプして聖剣ソラスティーバを一閃した。


 上空で宙返りをしてから地面に着地したラックを、ファイアドラゴンはその巨大な前足で踏み潰そうとするが、ファイアドラゴンの首がずり落ちてラックは踏まれることはなかった。


「ファイアドラゴンも一刀で終わるのね……」


 ドーラは呆れた表情をする。


「………」


 ゴルドは今まで何をそんなに悩んでいたのかと、バカバカしくなった。


 三人は出てくるドラゴンを瞬殺しながら進み、とうとうドラゴンの墓に辿りついた。


「ドーラさん、ここで何をするのですか?」

「ここには何十、何百のドラゴンが最後を迎えたドラゴンの墓なのよ。そして長い年月の間にドラゴンの死体からドラゴナイトという希少な金属が生まれるのよ」

「ドラゴナイト……?」


 ラックは初めて聞く金属に、首を傾げる。


「たしか、成長する金属だったと聞いたことがあるが……」


 ゴルドはドラゴナイトのことを知っているようだ。


「そうよ、ドラゴナイトは加工して剣や鎧にすると、自分の意思によって成長をするの」

「すごいや。そんな金属がここにあるのですか?」

「私もここにきたのは初めてだからはっきりと言えないけど、あると思うわ」


 ドーラは多くのドラゴンの死体が折り重なる、まさに墓の中を進んでいく。

 ラックとゴルドもドーラについて墓の中を進んでいく。

 ラックは真贋の目で魔力を見るが、このドラゴンの墓は周囲よりも魔力が濃く、まるで魔力の霧の中にいるように見えた。


「ん、あれは……?」

「ラック、どうかしたの?」

「いえ、あっちの魔力が異常に濃いので」

「あっちね、いってみましょう」


 ラックが指さした方向へドーラが向かう。

 すると、七色に輝く半透明の綺麗なクリスタルのような石がそこにあった。

 幻想的なそのクリスタルは、まるで生きているかのように魔力を吸ったり吐いたりしているようにラックには見えた。


「これよこれ! これがドラゴナイトよ!」


 ドーラが駆け寄ろうとすると、ラックに抱きかかえられて十数メートル離れた場所まで移動していた。

 ゴルドもラックの行動に同調してその場を離れたが、その次の瞬間、ドラゴナイトの周辺の地面が盛り上がって周囲を飲み込んだ。


「え!?」


 ドーラは何が起きたのか分からなかったが、ラックが自分を助けてくれたことだけは理解はできた。


「地面の中から何かが出てくる!?」


 ラックは直感が反応したことで、警戒心を最大に引き上げて地面から出てくる何かを見つめる。

 地面の中から出てきたそれを見て、ドーラが目を剥いた。


「ドラゴンゾンビ……」


 モンスターの中には、死んだことでゾンビ化する場合がある。

 いや、モンスターだけではなく、人間であってもそれは同じだ。

 ある者は未練があって死んでも地上を彷徨い、ある者は恨みを残して死んだことでゾンビ化する。


「ラック様、ドラゴンゾンビは厄介です!」

「そうよ、ドラゴンゾンビは首を切り落としてもすぐに再生するわ。もう死んでいるから、体の中にある魔核を破壊するしかないわ」

「体の中の魔核ですね。分かりました!」


 ラックはドーラをゴルドに任せて、ドラゴンゾンビに向かっていく。

 ドラゴンゾンビは所々鱗が剥がれ、皮や肉が爛れている。

 見ていて気分のいいものではないうえに、臭いも死臭のきついものだ。

 ラックは息を止めて聖剣ソラスティーバを振ってその首と四股を切り落とした。

 しかし、ドラゴンゾンビはドーラが言ったように、切り落とされた部分が再生し始める。


「うわー、切り落とした首や足がまたくっついちゃった……。便利なものだなー」


 ラックは呑気なことを言っているが、それだけ再生力が強いということなのだ。

 これまでにない強敵なのは、間違いない。


「それじゃ、あれをやってみようかな」


 聖剣ソラスティーバを最上段に構えたラックは、両足で地面をしっかりと踏みしめた。


「いくよ、ソラスティーバ!」


 ラックが何かしようとしているのが分かったのか、ドラゴンゾンビはその口を大きく開き腐臭漂う毒のブレスを吐き出した。

 それと同時にラックも聖剣ソラスティーバを持つ手に力を込めて、振り下ろす。


「聖剣技、光の裁きシャイニングジャッジメント!」


 地面さえ腐らせる毒のブレスを聖剣ソラスティーバから放たれた光の閃光が切り裂いて進み、ドラゴンゾンビへと届く。

 光りは周囲を瞬く間に照らし、ドラゴンゾンビの毒のブレスで腐った地面を浄化させ、さらにはドラゴンゾンビの巨体さえも包み込む。


「グロォォォォォォォッ」


 ドラゴンゾンビの断末魔の咆哮が聞こえ、光の裁きシャイニングジャッジメントの光が消えるとドラゴンゾンビの巨体は消滅し、ここがドラゴンの墓とは思えないほど清浄な空気に包まれていた。


「ラック様、ご無事ですか!?」

「まさかドラゴンゾンビも倒してしまうとは……」


 ゴルドとドーラが駆け寄る。

 三人がよく見ると、さきほどまでドラゴンゾンビがいた場所に大きな石が落ちている。

 さらにその横には七色に輝くドラゴナイトまで落ちている。


「ドーラさん、ドラゴナイトです」

「ああ、それにドラゴンゾンビの魔核まであるよ」

「魔核ってあの石が?」

「そうよ。多くのドラゴンの魔石を取り込んだとっておきの魔核。あれ一つで小国を買えるくらいのお金になるって品よ」

「それはすごいですね」

「すごいですね、ってあんたね、あの魔核はラックのものよ」

「え、僕の?」

「ラックがドラゴンゾンビを倒したんだから、当然でしょ」

「ゴルド、どうしよう……?」

「とりあえずは異空間庫に収納しておけばいいと思います」


 何はともあれ、無事にドラゴナイトを手に入れた三人は、ベルゴイーユ郊外のドーラの家へ戻った。


 

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