015_ドーラ2
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「美味いね!」
ドーラが料理を食べて舌鼓を打つ。
「ありがとうございます」
ラックは料理も得意だ。
料理人でもなく料理のスキルもないラックだが、モーリス公爵家の料理長に鍛えられた料理の腕は、なかなかのものである。
料理を食べ終わった三人。
ドーラとゴルドが食後のお茶を飲んでいるうちに、ラックは食器を洗う。
残念なことにゴルドは冒険者的な食事を作ることはできても、家事については一切できない。
ラックがゴルドに手伝ってもらうのは水汲みくらいで、それ以外は邪魔になるレベルだ。
だからゴルドには手を出さないように、お茶を飲んでいるように頼んでいる。
「さて、魔法契約書を譲ってもらうための条件をお聞きしてもいいですか?」
洗い物を終えたラックが席につくと、ドーラに条件を確認した。
「そうだねぇ。一つ目は魔法契約書の素材を集めてくること、二つ目は私がある素材を採りにいく時に護衛をすること」
ドーラは二つの条件をラックに提示した。
「一つ目の素材集めは当然のことですが、二つ目の護衛は報酬ということですか?」
「話が早くていいねぇ。ラックとゴルドはそれなりに強いんだろ? 私が取りにいこうと思ってもいけなかった場所へ護衛としてついてきてもらうよ」
「その護衛の内容を話せ」
ゴルドは護衛の内容も分からないのに、引き受けることはできないと言う。当然のことだ。
「簡単な話だよ。竜神山の中腹くらいまでいくと、ドラゴンの墓と言われる場所があるんだ。そこで素材を採取するのさ」
「ば、バカなことを言うな! ドラゴンの墓と言えばアダマンタイトランクの冒険者パーティーが四パーティーは必要になる難所だぞ!」
冒険者のランクはオリハルコンランクが一番高いが、オリハルコンランクの冒険者は世界に数人しかいない。
それを考えれば、アダマンタイトランクの冒険者でも世界最高峰の一角になる。
そのアダマンタイトランクの冒険者パーティーが四パーティーも必要な場所、つまり周辺に多くのドラゴンが生息しているドラゴンの墓にいくのは、普通なら自殺行為である。
「何言ってるんだい。私は二人の冒険者ランクは知らないが、ゴルド、あんたはアダマンタイトランクの冒険者か下手をすればそれ以上だろ?」
「っ!?」
ミスリルランクの冒険者であるゴルドだが、最近はラックから種をもらって飛躍的に能力が向上した。
ゴルド自身も今の実力はアダマンタイトランクの冒険者にも引けを取らないと考えている。
「それにラック、あんたは底が知れないね。ゴルドがアダマンタイトランクだとしたら、あんたは間違いなくオリハルコンランク。この世界に数人しかいないオリハルコンランクの冒険者でさえ、ラックには及ばないと私は見ているよ」
ドーラの見立ては正しく、的を射ている。
今のラックのステータスは、オリハルコンランクでも許容できないほど高い。
「ラックがいれば、ドラゴンの墓なんて大したことないだろ?」
「僕はドラゴンどころか、スライムとゴブリンばかりと戦ってきましたから、自分がどのくらい強いのか分かりません」
「はぁ? スライムとゴブリン? 何を言っているんだい?」
ドラゴンも倒せると思っているラックが、ドラゴンどころかスライムやゴブリンとばかり戦ってきたというのは、ドーラには信じられなかった。
「そんな僕でもよろしければ、護衛をします」
「いや、なんだかとっても不安になってきたよ……」
自分の見立てが間違うことなんてないと自信を持っているドーラだが、ラックの言葉を信じると非常に不安である。
「とにかく、まずは魔法契約書の素材を集めます! どんなものがいるのか、教えてください」
「魔法契約書の素材は全部ダンジョンの中で集めることができる」
一抹の不安を感じつつも、ドーラはラックに素材を教えた。
ダンジョンの十層に生息するビックマウスワームの皮、十五層に生息するライジングバードの羽、二十層に生息するデスシープの角、二十五層に生息するデーモンの牙が魔法契約書の素材だ。
「ゴルド、いくよ!」
「承知!」
二人はドーラの家を飛び出していくのだが、この時ラックは忘れていた……ドーラの家の前に大量の洗濯物が干されていて、ドーラはそういった洗濯物を取り込むことができないということを。
洗濯物を取り込むなんて大人なら誰でも取り込めると思っていたのだが、ドーラはラックの常識には当てはまらない生活無能力者だったのだ。
二人が三日後に帰ってきた時には、洗濯物はそのまま干しっぱなしだった。
雨が降らなかったのでなんとかなったが、ドーラは四日間下着のみで過ごしていたという。
「もう帰ってきたのかい?」
「はい!」
普通、ダンジョンの二十五層へいくのに最低でも五日はかかる。
たった三日で帰ってくるなんてドーラは考えていなかったので、ラックたちが帰ってきた時は諦めて帰ってきたのかと思ったほどだ。
「どうやったら二十五層を三日で往復できるのさっ!?」
「走りました」
「いや、走っても三日はあり得ないだろ」
普通はあり得ない。
だが、今のラックはそれを可能にする身体能力を持っている。
そのため、ゴルドはラックについていくだけで精一杯。いや、ラックがゴルドのついてこれる速度で走ったから、なんとかなったのだ。
「罠とかモンスターはどうしたのさ?」
「僕には魔力の動きを見る力がありますので、罠がある場所が分かってしまいました。それと出遭ったモンスターは全部倒しました」
「罠があるのを魔力で……?」
「はい。罠があるとそこだけ魔力の色が違うのです」
最初にラックが罠を踏み抜いて落とし穴が開いたのだが、ラックの高い能力のおかげで落ちずにすんだ。
実際に罠を見て初めて気づいたのだが、真贋の目で見ると罠の色が違ったのだ、それ以降は真贋の目で魔力を確認しながら進んだ。
しかも、魔力の濃いほうへいくと次の層へ繋がっている階段があるので、今回真贋の目は非常に役にたった。
「十層くらいならともかく、二十層に生息するデスシープや二十五層のデーモンも倒したのかい?」
「はい。がんばって倒しました!」
ラックの笑顔が眩しいと、ドーラは思った。
それに比べてゴルドは疲弊し切っていて、元々深いシワがあったがさらに深くなっていてラックと対象的である。
「それじゃ、素材を出してごらん」
「解体する時間が惜しかったので、丸ごと死体を持ってきたのですが、いいですか?」
「丸ごとかい。まあ、三日で帰ってきたんだ、解体なんてできなかっただろうさ。構やしないよ」
庭に出てそれぞれの死体を出したのだが、見事に首が切り落とされていて、それ以外に傷が見当たらない死体にドーラは驚愕した。
「ラック、あんたこれ、全部一刀で倒したのかい?」
「素材を傷つけたらいけないと思って、ダメでしたか?」
「いや、いいよ。奇麗な素材が手に入ったよ」
ビックマウスワームやライジングバードならともかく、デスシープやデーモンを一刀で倒したなんて聞いたこともなければ見たこともない。
「それじゃ、次はドラゴンの墓ですね」
「ラック、お待ち」
ラックがすぐにいこうとするが、ドーラが止める。
「どうかしましたか?」
「私は構わないが、このままだとゴルドが過労で死んでしまうよ」
ドーラは疲労で今にも倒れそうなゴルドを、視線で促す。
「あ、ごめん。ゴルド」
「い、いえ……。足手まといで申しわけございません」
「今日は泊まっておいき。明日、ドラゴンの墓へ向かうよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
ラックは干しっぱなしになっている洗濯物を取り込んで、食事の用意をする。
「いやー、ラックの料理は美味しいねぇ! 私のお婿にこないかい?」
「ありがとうございます。でも、僕は旅の途中なので……」
「いやだねぇ、真剣に答えないでおくれよ。冗談なんだから」
だが、ドーラの視線はとても冗談には思えない。
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