013_支部長
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ゴルドは空中を見つめるラックが、いつまでたっても動かないことに首を傾げる。
「ラック様?」
何度か声をかけたが、反応がない。
しかたがないのでラックの肩に手を置いて揺らすと、ラックは「はっ!?」とやっと反応した。
「どうされたのですか?」
「ゴルド、僕は夢でも見ているのかな?」
ラックの言っていることは理解できなかったが、ラックが混乱するほどにすごい景品が出たのではないかとゴルドは推測した。
「いったいどのような景品が出たのですか?」
「そ、それが……」
ラックの口から出た景品の名を聞いたゴルドも絶句する。
「しかし、そんなものを持っていると権力者に知られたら、権力者たちが放ってはおきませんぞ……」
「そ、そうだね……」
ラックはその景品を保留カゴに入れた。
保留カゴ内にある限り誰も見ることはできないし、誰も手を出すこともできない。
「さて、僕たちのほうは準備ができた。四兄弟に罪を償わせるためには、どうすればいいと思う?」
「あと腐れがないのは、ダンジョン内で奴らを始末することですな。ダンジョンのモンスターたちが死体を始末してくれますし」
四兄弟がやったことを考えれば、殺されても文句は言えない。
だが、それでいいのか? 四兄弟を殺しても罪を償わせたことになるのか? ラックはそうは思わなかった。
「四兄弟がやったことを公にして、公明正大に罪を償わせよう」
「それでよろしいので? もしかしたら、権力者と繋がっていて無罪放免になるかもしれませんよ?」
「父上はバーンガイル帝国の歴とした貴族だったんだ。冒険者ギルドに治外法権があっても、帝国の貴族を殺したとなれば、冒険者ギルドも四兄弟を帝国に引き渡すはずだよ。もし、そうならなければ、その時に僕たちが手を下せばいい」
「分かりました。して、四兄弟をすぐに捕えますか?」
「いや、まずは冒険者ギルドの支部長に面談を申し込む。そこで支部長に四兄弟の凶行を訴える」
「なるほど。承知しました」
さっそく冒険者ギルドに赴いた二人は、受付で支部長に面談を申し込んだ。
「失礼ながら、支部長はお忙しい身ですのでアポのない方とお会いすることはできません」
ギルド職員はお役所的な返答をした。
「ではアポをお願いします」
「それでは、身分証をご提示ください」
ラックは自分のギルド証を職員に見せた。
すると、職員は顔を曇らせる。
「申しわけございませんが、鉄ランク冒険者では支部長へアポをとることはできません」
「え、そうなんですか?」
「はい。先ほども申しましたが、支部長はお忙しい身ですので、誰でもお会いするというわけにはいかないのです」
鉄ランクは最下級のランクだ。
そんな地位も名誉もないランクの冒険者と会うほど支部長は暇ではない。
「それであれば、これでどうかな?」
ゴルドが自分のギルド証を提示する。
ゴルドはミスリルランクなので、冒険者として一定の信用があるのが職員の対応の違いで分かることになる。
「支部長の予定を確認しますので、少々お待ちください」
「頼む」
二十歳くらいの赤髪の女性職員が席を立って奥へ消えていく。
しばらくして女性職員が戻ってきた。
「明日の朝一番にお会いになるそうです」
「了解だ。明日の朝にまたくる」
二人は翌朝早くにまた冒険者ギルドを訪れると、すぐに支部長の部屋に通された。
白髪頭の文官のような支部長が机に積まれた書類に埋もれていた。
「そこにかけて少し待っていてください」
支部長はデスクから顔を上げることなく、二人に声をかけた。
「ん……? その声は……」
ゴルドがそう呟いたのを聞いた支部長がデスクから顔を上げた。
「ゴルド……か?」
「やはりボノジョリドか」
どうやら支部長とゴルドは知り合いのようだ。
「ゴルド! 久しぶりだな!」
支部長が立ち上がって、ゴルドに駆け寄って握手をする。
「ミスリルランクと聞いていたが、まさかゴルドがくるとは思ってもいなかったぞ! 何年ぶりだ? 十五年くらいか?」
「十七年だ。ボノジョリドも出世したじゃないか、冒険者ギルドの支部長様とはな! おお、そうであった、ボノジョリド、こちらはラック・ドライゼン様だ。某は縁あって今はラック様に仕えている」
「ドライゼン……すると、ドライゼン男爵様ですか?」
支部長がラックに向かって、一礼をする。
「支部長様、僕はすでに男爵位を辞しております。どうか、頭を上げてください」
「男爵位を辞している?」
この支部長はゴルドがドライゼン男爵家に仕える前、まだ冒険者をしていた時にパーティーを組んでいた人物だった。
思わぬところで昔馴染みに出会ったゴルドは、ラックから許可を得て四兄弟の凶行について語って聞かせた。
「そんなことが……」
「あの四兄弟がなぜそんなことをしたのかは、分かっていない。だが、あの四人の顔と臭いはしっかりと覚えている」
「ゴルドの鼻は確かだ。だが、ジョイゴとボリスはミスリルランク、ゴライアとドゴスは金ランクだ。証拠もなしに捕縛はできないぞ」
「某が証人だ。それでもダメか?」
「他人のそら似と言われたらどうする? あの四人がドライゼン男爵を殺したという確かな証拠がいる」
「その証拠ですが、僕のスキルを使って証明することはできませんか?」
「スキルを……? そのスキルとは?」
「僕には真贋の目というスキルがあります。この真贋の目は嘘を見抜くことができるスキルなんです」
「それはまた……たしか教皇猊下の下にジャッジメントという天職を持った方がいると聞いたことがありますが、その方も嘘を見抜く力を持っていると聞いたことがあります。私のような役職者にとっては喉から手が出るほどほしいスキルです。しかし、ラック様が嘘をついていないと誰が証明しますか?」
「え……」
「失礼ながら、四兄弟を罪人だと決めつけて、ラック様にとって都合の悪いことを隠蔽しないとも限りません」
「ボノジョリド! ラック様を愚弄するか!?」
ゴルドはボノジョリドに掴みかかる勢いだったが、ラックがそれを止める。
「ゴルド。支部長様の仰っられることはもっともなことだ」
「されど」
ラックはゴルドの言葉を手で制した。
「支部長様。どうしたら、四人を処罰できますか?」
「そうですな……。そうだ、魔法契約書があれば四人がどのような言いわけをしようと、嘘を見抜くことができます」
「魔法契約書……」
魔法契約書というのは、非常に貴重なマジックアイテムである。
作成できる者が少なく、作成するための素材が入手困難だから滅多に出回らない。
「四兄弟が嘘を言ったら死ぬほどの苦痛を味わうなどの条件を記載して、自供をさせれば四兄弟が嘘を言っていることがすぐ分かります」
たしかにそうだが、その魔法契約書は簡単には手に入らない。
そして、魔法契約書はその希少性から国が製作者を囲っていると聞く。
「一人、魔法契約書の製作者を知っています」
支部長の知人に魔法契約書の作成者がいるのは僥倖だ。
「しかし、彼女は簡単なことでは魔法契約書を作ってくれません」
「その方を紹介していただけないでしょうか?」
「かなり変人ですから、期待はできませんぞ」
「それでもお会いしてお願いしてみます」
「分かりました。それなら、紹介状を書きますので、少々お待ちください」
支部長に紹介状を書いてもらったラックたちは、さっそくその人物に会いにいくことにした。
「彼女は町の外れに居を構えています。さきほども言いましたが、かなりの変人なので心してください」
「分かりました。紹介状を書いてくださり、ありがとうございます」
支部長自ら二人を見送る。
ラックとゴルドの姿が見えなくなると、ボノジョリド支部長は自室に戻るが、その途中に職員にラックたちが訪ねてきたらすぐに通すようにと指示を与えた。
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