010_スライムキラー
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ダンジョンに入ってスライムを狩っていたわけだが……。
ラックは二日目から六日目まで毎日スライムを二百体狩った。すると、六日目の狩りが終わってからステータスを確認したら、スライムキラーという称号がついていた。
このスライムキラーという称号は、スライム戦に限って攻撃力が上がるというものである。
これがドラゴンキラーやバンパイアキラーといった称号であれば名誉なんだろうが、スライムキラーでは威張れたものではない。
だが、このスライムキラーの効果によって、六日目まで三回から四回攻撃しなければ倒せなかったスライムが、七日目からは一回の攻撃で倒せるようになった。
そのおかげで七日目から十日目まで毎日三百体のスライムを倒せている。
しかし、ゴルドがダンジョンに持ち込んだ食料が底をつき始めたため、一旦地上に戻ることになった。
「今日は半日で狩りを切り上げて地上に戻ります」
「了解だよ、ゴルド」
湖の畔にはスライムがわんさかいる。
ラックが毎日大量にスライムを狩っているが、いつの間にか新しいスライムが増えていてどれだけ狩ってもスライムは絶滅しない。
これがモンスターの生地なんだと、ダンジョンのモンスター生産力に驚愕する。
だが、そのおかげでラックは多くのガチャポイントを稼いでいる。
「むっ!? あれは……」
地上に帰る前に狩れるだけ狩っておこうと、スライムを一撃必殺の剣で倒していたラックの前に、他のスライムと同じ大きさ、同じ形、だけど色がやや濃いスライムが現れた。
そのスライムはラックにまだ気づいていないようだ。
「間違いない。あれは特殊個体のスライムだ」
ごくりと喉を鳴らして唾を呑み込む。
「どうする?」
どうするもない。狩って、大量の経験値を得るチャンスだ。
そして、上手くいけばガチャポイントも大量に手に入る。
「でも、逃げ足が速いって……」
だったらあのスライムが逃げる前に一撃必殺の剣を叩き込むだけだ。
ラックは予備に持っていた剣王の剣を手に取った。
「剣王の剣……。発動」
背筋に電気が走ったような衝撃を受けた。
しかし、不思議と体が軽く感じる。
「念のため……」
ラックは剣豪の実を口に放り込んで、かみ砕いて飲み込んだ。
あまりの酸っぱさに口が※のようになったが、すぐに脳天を突くような高揚感に包まれた。
「いく……」
地面を蹴ったラックの体が消える。
あまりの速さに常人の目では追えない。
ラックはこれまでにない負荷が体にかかっているのを感じる。
だが、その負荷が今は心地いいと感じてしまうほどに、気持ちが高揚している。
一瞬で特殊個体のスライムに接敵すると、ラックは剣王の剣を振り切って剣技七連突きを放った。
剣王の剣を発動させた瞬間、片手剣技の使い方が頭の中に流れ込んできた。
それだけではなく、片手剣技の使い方が血の流れに乗って体中に染み渡っていったのだ。
特殊個体のスライムは異常に逃げ足が速い。
このダンジョンに入って四日目に同じように特殊個体のスライムと遭遇したが、その時は五メートルほどの位置に近づいたら目にも止まらぬ速さで逃げていった。
あの時は唖然とするしかなかった。
それが、今回はどうだろうか。
ラックのスピードは特殊個体のスライムのそれを上回り、片手剣技の七連突きによって特殊個体のスライムは消滅してしまったのだ。
「これ、本当に僕の……」
ラックの力ではなく剣王の剣と剣豪の実のどちらか、または両方の効果である。
「す、すごい!」
ラックは周囲にいるスライムを圧倒的な速度で狩っていく。
「はぁはぁ……ちょっとやりすぎたかな?」
剣王の剣の効果が切れても剣豪の実の効果は一日ある。
たった一日だが、剣豪並みの腕前になるのだから、ラックは半日で二百体ものスライムを倒してしまった。
「剣豪の実を食べたラック様には、某も及ばないでしょう」
ゴルドはすさまじい剣の冴えを見せたラックに、理由を聞いてこう話した。
絶句していたゴルドからそろそろ地上に戻ると言われたことで、ラックは剣を鞘に収めた。
地上に戻ると、二人はスライムの魔石を冒険者ギルドで売った。
すると、冒険者ギルドの受付嬢が大量の魔石を見て驚いたが、それは量にではなくスライムの魔石をよくこれだけ持ってきたというところにである。
「おいおい、なんだよあれ。スライムの魔石だぜ、スライムの! わーっはははは」
ギルドのホールにいた口さがない冒険者が、周囲の冒険者を呷るようにラックを笑った。
金属鎧の上からでも筋肉が盛り上がっていることが分かる、まさに冒険者というような風貌の赤髪の男はラックをバカにするような視線で見てくる。
「スライムをあれだけ倒せるんだ、すっげー腕なんだろうな! ぎゃーっはははは」
ラックはこんなことでは何とも思わない。
帝都でどれだけ惨めな目にあってきたか。それを考えれば、こんな野次などそよ風に等しい。
だが、ゴルドの視線は最初に野次を飛ばしてきた冒険者に注がれている。
その視線はその冒険者を射殺すかと思うほどに鋭い。
「あの男……まさか……いや、あの顔……この臭い……間違いない。あいつだ」
ゴルドは考えるよりも先に体が動いた。
だが、ゴルドの腕をラックが掴んだ。
普段のラックならゴルドを止めることができなかっただろう。
だが、今のラックは剣豪の実の効果によって、まさに剣豪なのだ。
「ラック様!?」
「ゴルド。落ち着いて」
ラックはよく分からなかったが、ゴルドから感じた殺気が尋常ではなかったことから、思わず腕を掴んでしまったのだ。
「くっ……」
ゴルドは血を流すほどに唇を噛んだ。
そんなゴルドを見て、ラックもただごとではないと感じるが、たかが野次くらいで出す殺気ではないとゴルドの腕を掴むのに必死だ。
そうこうしているうちに、野次を飛ばしてきた冒険者はギルドを出ていってしまった。
魔石の代金を受け取ると、ラックはゴルドを連れてギルドを出た。
「どうしたんだい? いつものゴルドじゃないよ」
「ラック様、奴です。奴が……お屋形様を殺したのです」
「え?」
ラックはゴルドの言葉に絶句した。
「でも、父上は領民たちに殺されたんじゃ……?」
「先ほどの冒険者が領民を先導していたのです。某も奴に斬られてお屋形様を守ることができませんでした」
「そんな……でも、なぜ?」
「分かりません。某もあいつらをこの目で見るまでは、民がやったのだと思っていました……」
自慢じゃないが、ドライゼン男爵家は辺境の貧乏貴族だ。
誰かに恨みを買うような家ではないし、ラックの父は領民のために貧乏をしていたほどの人物だ。
「ゴルドはさっきの冒険者を見たことあるの?」
「あの日、お屋形様が殺されたあの日、初めて見た顔です。他の仲間と思われる奴らも知らない顔でした」
ラックは近くにあったベンチに座り込んだ。
ふと見た両手が震えている。気づけば体中が震えている。
怒りからなのか、悲しみからなのか、ラック自身でも分からない。
「とにかく、今は落ち着こう。あの冒険者のことを調べて……」
調べてどうするのか? 仇を討って恨みを晴らすのか?
ラックはどうしたらいいか分からない。
「申しわけございません。某が冷静さを欠いたために……」
「いや、ゴルドのせいじゃないよ」
ラックは大きく息を吸って吐いた。
それを何度か繰り返して、心を落ち着かせる。
「ゴルド。とにかく、宿を取ろう」
「はい」
ゴルドも落ち着いたことから、二人で宿屋に向かった。
宿にチェックインすると、ラックとゴルドは向き合って座った。
「ゴルドは先ほどの冒険者の素性を探ってくれるかな。できるだけ目立たずに」
「承知しました」
「疲れていると思うけど、慎重に頼むよ」
「今度は冷静さを失わぬように心がけます」
「僕だってゴルドの立場だったら同じように冷静さを欠くと思う。気にしないで」
だが、なぜか冷静に自分を見つめている自分自身がいる。
ラックはなぜここまで冷静でいられるか、自分でも不思議だった。
ゴルドが部屋を出ていくのを見送ったラックはステータスを確認する。
【氏名】 ラック・ドライゼン 【種族】 人族 【性別】 男
【天職】 ガチャマン 【レベル】 12(1844/12000)
【HP】 34/34 【MP】 22/22
【腕力】 21+30 【体力】 31 【魔力】 10 【俊敏】 22 【器用】 20
【称号】 スライムキラー
【固有スキル】 ガチャ 【ガチャポイント】 11174
【スキル】 物理攻撃耐性1(1/100) 片手剣8 片手剣技8 体術8 気配感知8 見切り8
装備品:守りの革鎧 鉄の片手剣(予備に剣王の剣) 守りの盾 腕力の指輪
「は?」
思わず声が漏れる。
それもそうだろう。今のラックのステータスは予想以上のものになっている。
「ガチャポイント、多すぎじゃない?」
その理由は分かっている。特殊個体のスライムだ。
あの青みの強いスライムを倒したことで大量のガチャポイントが入ったのだろう。
「レアの十一連ガチャを何回か回す予定だったけど、スーパーレアの十一連ガチャを回すことができちゃうんだ……」
そして、さらに下に視線を持っていくと、剣豪の効果だと思われるが、片手剣、片手剣技、気配感知、見切りのスキルがあった。
片手剣は剣を扱う時に補正を与えてくれるスキルで、片手剣技はラックが特殊個体のスライムを倒した時に発動した七連突きのような特殊な攻撃スキルだ。
さらに気配感知は周囲の気配に敏感になり、見切りは攻撃された時の回避能力を補正するスキルである。
「剣豪の実は、剣王の剣よりも効果がすごいんだ……」
剣王の剣の効果は片手剣と片手剣技のスキルレベルを共に七にしてくれるが、剣豪の実はそれを上回る。
一度使ったら二度目はないし、一日しか効果がないが、それを加味しても素晴らしい効果である。
剣豪の実はアンコモンだったが、アンコモンでもこれだけの景品が出るのかと心の底から笑いがこみ上げてくる。
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