ボリスのルーンバイク店
ボリスの仕事はルーンバイクの受注生産とメンテナンス、そしてバイクの部品販売をしており、個人客からの依頼もあるがどちらかというと、営利組織からの依頼がメインとなっている。
今ボリスがメンテナンスしているバイクも、商業組織に属している者からの依頼の物だ。代わりがあまり無い業種を営んでいる為、ボリスが得ている利幅はかなり大きい。
そもそもルーンバイクという乗り物自体があまり流通しておらず、移動手段としては未だに馬車がメインとなっているこの時勢、金持ちしか乗ることの出来ない贅沢品扱いとなっている。
バイク整備も、機械の仕組みを理解していなければならず、ボリスのお眼鏡に叶う従業員が見つかっていない為、この店は常に人手不足なのだ。
「さて、ブレッド君よ。今まで機械整備なんて面倒だと散々俺の誘いを断ってくれてたが、遂に困窮で首が回らなくなっちまったかい?俺はいつでも歓迎だぞ。」
ボリスはブレッドの相談に対して、まだ何も内容を話す前から先走ってテンション高く勧誘をしてくる。
店内に設置している商談スペースにあるソファにボリスとブレッドは対面に腰掛けて、話を進める。
「はは、耳がいたいな。実はよ、機械整備の基礎をしっかり叩き込まれた孤児のガキを拾ったんだ。俺の家の前で死にかけてたところ、気まぐれに助けたんだがな。」
ブレッドはそう話を切り出し、アルフの事を簡潔に紹介する。ホムンクルスである事と実年齢はぼかし、賢い使える子供としてボリスに雇って欲しい事を伝えた。
「ん?子供が機械整備だと?なぜそんな事が?」
「いや、ここだけの話、女神真教のカルト組織に、魔法や機械整備の英才教育を受けてたみたいなんだがよ。虐待が酷く、逃げ出した兄妹なんだ。将来的には兵士にでもしようとしてたんじゃねぇかな?だから可哀想でよ。手に職つけさせて、カルト集団から逃げ出せるだけの力を持たせれたらなって考えてな。」
真実を織り交ぜ、もっとも重要な事は隠しておく。ボリスは妻帯者だ。万が一の事があった場合に、少しでも巻き込む可能性を少なくしたいとブレッドは考えている。
ただ、元英雄のボリスなら多少は巻き込まれても、自力で何とかするだろうという信頼感もある為に、申し訳ないと思いつつも助力を願ったのだ。
「あぁ、確かに帝国警備団の知り合いが、カルト集団の残党が残っているって言っていたな。なぜ、警備団や憲兵に子供を連れて行かないんだ?」
「真っ先に俺も考えたんだがな…。もし、女神真教の連中が、警備団達に逃げ出したガキが囲われていると知ったら、どう行動すると思う?」
「…暗殺か…。警備団の中にも女神真教のスパイが居ないとも言えない状況も鑑みて、か。」
「そういう事だ。試用期間として、しばらく給与については俺とガキ二人で一人分でも良い。俺とそのガキが使えると判断してくれたら、しっかり払ってくれると助かるが。どうだ?」
ボリスは少し考える素振りをしたが直ぐに笑顔でブレッドに向き直る。
「まぁ、お前さんが問題ないと言うなら、一度会ってみるか!その子供、兄妹だと言っていたが、二人とも来るのか?」
「いや、妹の方はカミラの手伝いをさせようと思ってる。」
「あぁブレッドの彼女だな。」
「彼女って言うか…まぁ。あまりボリスに全部面倒見てもらうのも申し訳ないしな。」
そう言うと、ボリスはブレッドの肩を軽く叩き、厳つい笑顔でサムズアップした。
「とりあえず、頼ってくれて嬉しいぞ!なぁに、女神真教から逃げた辺りの下りは、聞かなかった事にしておく。誰にも話さねぇからよ。もし巻き込まれたとしても、逆に叩き潰してやるから安心しな。」
「悪いな。恩に着る。」
「ふふ、なぁに、ブレッドには馬車馬の如く働いて貰うから、覚悟しておけよ?とりあえず、近日中にその子供を連れてきてくれ。どれだけの整備の腕前か見てみたい。」
「はは、お手柔らかに頼むぜ。」
アルフの雇用先のアテもついたところで、ブレッドは一息ついた。ついでに、自分の就職先まで決まってしまったが、そこは諦める事にした。アルフ一人をここに通わせる訳にはいかないだろう。
ブレッドは元々手先が器用で、銃の腕だけではなく銃の整備や組み立ても得意としている。その為、先の内戦の折にボリスに目をつけられたのだが、自分の一生を簡単に決めたくないと言う若者特有の考えでボリスの誘いを断っていたのだ。
(まぁ、女神真教の奴らにバレないようにしないとな…。上手いことやれれば良いが。それにいつまでも黙っている事は出来ない。いつまでも子供のまま成長しないアルフを見たら、ボリスも何か感ずくだろうしな。とりあえず様子見だ。まずはアルフとボリスの信頼関係を築いてからの話だ。)
ボリスに一旦別れを告げ、ブレッドは帰路につく。
なぜ、出会って間もない自称ホムンクルスの言い分を信じているのか、またここまで自分が動いているのか。ふと、歩きながらブレッドは考える。
(理屈じゃねぇよな…。実は同年代とは言え、見た目は子供だ。子供が苦しむ姿は、もう見たくない…。例え偽善と言われてもな…。)
綺麗な街並みの新市街を抜け、一気にきな臭い雰囲気の旧市街へと足を進める。
まだ日も高いと言うのに立ちんぼの女から誘いを受けるが、ブレッドはスルーし、今夜のカミラの来訪に備え食材を買いに市場へと向かうのであった。