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部屋の掃除と心の掃除

 ブレッドが二人の面倒を見ると言った事に対してアルフとフィーネは二人揃って恐縮し、ブレッドが危険にさらされるという理由でその申し出を断ろうとした。


 しかし、ブレッドとしても過去の孤児院の出来事を伝え、「お前らを保護する事で、女神真教の奴らに嫌がらせが出来る事が楽しいからいいんだよ、それに、拾っちまったもんは責任とって面倒みねぇとな。」とニヒルに笑いながら言うと、「……僕達、犬や猫じゃ無いんですから…。でも、本当に危険が迫ったら、ブレッドさん自身を優先して逃げてください。」とアルフとフィーネはブレッドの世話になる事をお礼を述べながら決めたのであった。


 ブレッドは今から野暮用があるとの事で、外出していった。

 夕方までには帰るとの事で、それまでは掃除でもして留守番をしておいて欲しいとの事だ。

 絶対に外には出るなと言われたが、組織の追っ手がウロついている可能性を考えると、もちろん外出するつもりはない。


 旧市街には沢山の住居があり、それに伴って住民も多い。

 身を隠すにはうってつけの場所でもあるのだ。


 アルフとフィーネは、ブレッドに言われた通り、家の掃除をしながら二人で今後の事を相談しだした。



「フィーネ、なんか、運良く生き延びれたね。」

「うん、もうあのまま死ぬかと思ってた。」


 アルフは孤児院から傭兵になり現在も厳しい現実を生き続けるブレッドの端整な顔立ちを思い出し、年齢はそう変わりないはずなのに、成長することのできない自分達との差に複雑な思いが沸き起こる。

 しかし、見た目がそうさせるのだろうが、ブレッドも自分達を同年代だと認識しているにもかかわらず、ぶっきら棒な言葉遣いをしつつも優しい瞳でしっかりと甘やかしてくるのに、心が温かくなるのを感じていた。


「ブレッドさん、優しすぎるね。」

「うん、私たちを助けても、彼にとってなんのメリットも無いのにね。」


 イスの上に乗り、タンスの上を雑巾掛けしながら話すアルフ。

 フィーネは、窓を拭いていた。


「過去のブレッドさんの話聞いてさ、僕達の事、助けられなかった孤児に重ねてるの感じちゃって。」

「うん、口調は荒いけど本当に優しすぎる人なんだよ。でも、助けてくれたのがブレッドさんでよかった。」


 埃に軽くむせながらも、少しでもブレッドが住みやすくなれば良いと心を込めて二人は掃除を続ける。


「これ以上迷惑かけられないよね。どうしようか。」

「でも、ここで私たちが居なくなったら、彼、余計に罪悪感感じると思う。私たちが彼に対して、できる事をしなきゃ。」


 孤児院の話をしていた時の、本当に辛そうな表情と自分達の身の上話を聞いていた時の真剣な眼差しに、ブレッドが本気で自分達の面倒を見る気であるという気持ちがひしひしと伝わって来ていた。


 アルフとフィーネはその気持ちにどう答えればいいのか分からないでいる。

 ブレッドが無条件に差し出してくれる救いの手に、ただ甘えてしまいたくなる。でもそれではダメなんだと、二人は内心言い聞かせ、今後どうするかを真剣に考えるのであった。


「…薬作りとか機械整備とか言ってたよね。僕達の仕事、探してくれてるのかな?」

「多分、そうだと思う。どうやって恩を返せばいいか分からなくなるよ。でも自分の手で稼いだお金で生活できそうなのって、凄い事よね。」

「うん。組織から逃げ出して、本当に良かった。全部ブレッドさんのおかげなんだよね。」


 アルフは床を掃除しながら、そういえば自分達でこんな風に掃除をしたのは初めてだと思い出す。

 礼儀作法の講義でやり方は教わった為問題は無いが、これがなかなかどうして、気持ちの良いものだと思い、床を箒で掃いていると、これまでの辛かった気持ちも一緒に掃き出されていく感じがした。


「…エミルの事まで、考えてくれてたね。」

「あの子、どうしてるかな…。元気だと良いけど…。」

「いつか、僕達の見た目よりも大きくなって成長していくから、結果的に引き取ってくれて良かったのかもしれないけどさ。」

「でも最後に、抱きしめたかった……。」


 子供が出来るまで、何度も押さえつけられ媚薬に狂わされ、最後は無駄な抵抗すらも諦めた頃に、フィーネは懐妊した。

 子供が産まれてからは、アルフもフィーネもその行為は行なっていない。


 そもそもこの体は性欲というものを感じ無いのだ。恋愛感情というものは知識として知っているが、アルフもフィーネが唯一育む事が出来たのは『家族愛』だけであった。兄妹としての感情はお互いに持っているが、そこに恋愛や性愛は伴っていない。無理矢理された行為については唯々忘れたい出来事であるが、その行為の果てに愛しいエミルが産まれたのだから、なんとも言えない気持ちになる。


「一目でいいから、エミルの現状を見たいな…。」

「えぇ、しばらくして、組織が私たちの事を諦めたと思える時期に、探してみましょう?」

「そうだね。」


 棚や壁もしっかりと拭き掃除をし終え、これまでの薄汚れた家だったのが、綺麗に整理整頓された家へと変貌した事に、二人は満足感を得た。



 昨日までは、逃げながら二人で一緒に死ぬ事を考えていたのに、ブレッドに助けられてからは、将来の事を考える様になっている事に、二人は気がついている。掃除をと同時に、なんだか心の掃除もできたかの様な妙な心の開放感を感じていた。




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