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今日は寝て、ゆっくり休め

 目の前に座っている小汚い子供達が、自分らはホムンクルスだと言う。なんの冗談か、と笑って誤魔化すのは簡単だが二人の表情を見るに嘘を付いている様には感じられない。


「あー、でだ。ホムンクルスってのは実在するんだなぁ?どーみても人間だが、何か違いがあるのか?」


 ブレッドは我ながら間抜けな質問をしていると自覚した。動揺しているのだ。

 しかし、その質問は中々に確信をついており、一気に話が進み出す事となる。


「実は僕達、造られて既に20年は経っているんです。造られた頃から外見年齢は変わっていません。」

「えっと、細胞が経年劣化も成長もしないんです。私達を造った人らが興奮して話していました。」

「でも、人造人間とは言え生物です。怪我をすれば痛いし血は流れます。食ベなければ飢えて死にます。」

「私達以外にも、ホムンクルスの製造実験は続いていましたが、成功例は私たちだけでした。」


 そこまで聞いて、ブレッドは(ん?これ、俺が聞いていい話か?)と冷静になる。

 まだ話そうとしているアルフとフィーネに対して、ブレッドは動揺しながらも手をあげ会話を中断させた。


「あー、わかった。すぐには信じ難い話しだが、後々なぜ逃げたのかとか、俺にも危険が及ぶのかとかも含めて話しを聞かせてもらう。その前にお前ら、シャワー浴びてこい。ボロ小屋だが客室がある。空いてるベッドもあるし、今日は泊まって良い。後でゆっくり話そう。」


「は…はい。」

「ありがとう…ございます。」


 ブレッドはそのまま二人をシャワー室に連れて行き、まとめて入るように指示してみた。

 二人は躊躇せず服を脱ぎ、ブレッドの目の前で裸になり、シャワー室に共に入っていった。


 二人とも汚れて痩せてはいるが、一般的な十代前半と思われる体格だ。

 これで、俺と同年代かよ…とブレッドは内心複雑な気持ちになった。


(ホムンクルスか…。他人の前で服を脱ぐことに羞恥心が無いのも、何か関係あるのかね。)


 アルフにはきちんと男の象徴は付いていた。フィーネも成長期に入り出した少女特有の危うい体格をしていた。ただの子供にしか見えず、ホムンクルスだというのも未だ信じ難いが、アルフとフィーネには嘘をつくメリットなんて無い筈だ。だからこそ、逆に真実味が増してしまう。


(人造人間…錬金術の実験か。あいつらが実験されてきた事は想像したくねぇな。きちんと個人の意思や感情もある。逃げ出し追われる様な事があったって事は…関わらない方が良いんだろうが…。)


 ブレッドは二人を見捨てるべきだと思いながらも、着替えを用意する。

 アルフには、洗濯済みのブレッドのツナギを用意し、フィーネには世話になってる知り合いの魔女が置きっ放しにしているワンピースを用意した。

 サイズは合わないだろうが、なんとかなるだろう。


「おい、着替え置いておいたぞ。」

「「は、はい!!」」


 シャワー室の扉越しに声をかけ、ブレッドはアルフとフィーネがシャワーを浴びている間に、二人を泊める客室の掃除をする事にした。


(錬金術か…。カミラに相談してみるか…?あいつ、子供好きだし俺に対しては口悪いが、お人好しだから力になってくれそうだよなぁ。)


 と、ブレッドは勝手にフィーネに貸し出す事になった先述のワンピースの持ち主である魔女の事を思い出す。

 魔女カミラは、旧市街の外れにある林の中に小屋を建て、旧市街向けに薬を格安で作成し販売している変わり種の若い女性だ。孤児院にも定期的に健康診断などで訪問しており、旧市街ではそこそこ名の知れた「良い魔女」である。


 なぜブレッドの家にワンピースが放置されているかというと、端的に言って大人の関係が有るからなのだが、今はその話は置いておこう。


 客室の掃除が終わった頃、アルフとフィーネがシャワーから上がってきた。


 汚れを落とし、ボサボサだった前髪をあげた二人は、やはりそこそこ綺麗な顔立ちをしているが、よくある色の髪と目をしているので、髪型や服装を変えれば追っ手の目を誤魔化す事も出来そうだと、ブレッドは今後の事を考え出す。

 貸し出した服はぶかぶかで、アルフに至っては袖と裾を二重三重にも折り曲げているため、体の貧弱さが強調されてしまっていた。二人の服も用意してやらないとな… と、先程まで見捨てるかどうかと考えていた癖に、無意識に二人を囲い助ける方向へ変わってしまっている事にブレッドは気がついていない。


「おう、どうだ、汚れとれて気持ちよかったか?」

「あ、はい。シャワーの存在は知っていたのですが、気持ち良いですね。」

「施設ではいつも、湯浴み用の桶に入ったお湯で体を拭いていたので、楽しかったです。」


 その話しを聞いて、ブレッドはまたしても眉間に皺を寄せた。どんな生活を強要されていたのだと、人ごとながら憤慨しそうになる。


「そうか、それは良かった。とりあえず、お前らベッド一つしかねぇが、二人で使えるだろ。疲れ溜まってんだろうし、さっきの続きの話しは明日で良い。今日は寝て、ゆっくり休め。俺もシャワー浴びてくるわ。」

「本当に、良いんですか?」

「あぁ、気にすんな。言っただろ?俺の気まぐれな偽善だ。甘えとけ。」


 そう言うと、フィーネがまた涙を一筋流し、アレフも目に涙を溜めながらブレッドに深々とお礼を言った。

 ブレッドはよく泣く奴らだな、と思いながらも悪い気はしなかった。

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