09 おじさんと女子高生のお昼ご飯
すったもんだで数十秒。
用意されたテーブルに、私は二つのどんぶりを慎重に運ぶ。
この間にも、下からほくほくと出汁の匂いが立ち昇ってきて、むしゃぁっ!っと行きたくなる。
お茶漬けだから無理だけど。
お茶漬けといっても、ただのお茶漬けではない。
めちゃくちゃ美味しい鯛茶漬けだ。
「はい、おあがりよ」
「運んだだけだろ」
「まあまあ」
よいしょ、と私も腰を下ろす。
正方形のテーブル、匠に向かい合う形だ。
「ではさっそく———」
がしっ。
「待て」
「何」
「忘れてた」
そう言って、匠はキッチンの方へ何かを取りに行く。
早く食べさせてくれい。
今目の前にあるのは、私の好物ランキング常連(気分により変動)の鯛茶漬けだ。
お腹も空いているし、早く食べたくて仕方がない。
一粒一粒が輝くご飯、それが透き通る黄金の出汁に沈んでいて。
その上にひたりひたりと鯛の切り身が横たわっており、刺身の赤が出汁につやつやと照っている。
宝そのもの。
刺身の赤がじわじわと白に変わっていく様をまじまじ見つめていると。
「ほい」
ぽん、と匠がわさびチとゴマをおいた。
「あ、そだったそだった。忘れてた」
久しぶりに食べると忘れるが、これをかけるとまた美味しいのである。
ちゅぴっとチューブからわさびを絞り出して、どんぶりの淵に。
チャック付きのゴマの袋を開け、ふりかけみたいにかけていく。
カサ……カサカサ。
カサり、カサり。
んー、あんまり出ない。
思い切って勢いよく振る。
ガサ、ゴソッ!ドバッ!!
出汁の海の上に、ゴマの山ができた。
「なっ」
「お御愁傷様」
パチン、と手を合わせる匠。
しぶしぶ私もそれにならう。
「いただきます」
「……いただきます」
……まあ、いいか。別にまずくなるわけじゃないんだし。