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03 おっさんの甘さ

 焦ったハムスターのように片付けに奔走する玲奈を横目に、リビングを後にして書斎に入る。


 この家は1LDK。玄関からリビングまでの短い廊下、その右側に書斎があり、左側に玄関から近い順でトイレ、洗面場と風呂が並んでいる。


 書斎の電気をパチン、とつけた。


 10を超える本棚がぎっしり詰まっており、手前に読書執筆スペース。


 純小説からラノベに漫画、映画やアニメのDVDなど、そこいらの漫画喫茶よりもはるかに充実した品揃えである。


 現在は、整理整頓がなされた綺麗な部屋。なのだが、昔はゴミ屋敷状態だった。


 手前の読書執筆スペースは、今となっては執筆用の机と読書用のクッションにBGM用スピーカーだけが置かれたスペースとなっている。

 が、昔は本の山で埋め尽くされていた。

 ごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃだったここだが、玲奈が中学一年生の時、『元気な性格でたくさん友達を作っています。運動も得意で成績も優秀なのですが、ロッカーがあまり片付いていません』

 などと書かれた通信簿を持ってきたので、即刻片付けた。


『たくみのいえは、どうしてこんなぐちゃぐちゃなのー?」

『ん? 別に片付けなんて必要ないだろ』


 彼女が小学生の時に交わした会話。

 今では反省している。



「さてと」


 部屋にはスマホを充電しに来ただけなので、充電プラグをスマホに挿し、しっかりとドアを閉めてリビングに戻る。


「ふーっ。終わったよ。しっかりご飯作ってね」

 

 リビングに戻ると汗を拭う仕草をする彼女の言葉通り、部屋はほとんど元通りになっている。

 彼女が持参したゾンビゲームと、お泊まりセットとやらが隅っこに置かれているくらいだ。

 

 片付けられるなら最初から散らかすなと言いたいところだが、まあ、このことに関しては優しくしておいてやろう。


「へいへい。ほいじゃあ早く寝ろ。もう1時半だ」

「んー、眠たくないんだけど。一緒にゲームしようよ」


 飛び込んだソファーの上でうにゃーん、と伸びをして言う玲奈。


「寝ろ」

「嫌だー」

「寝ろって」

「昔はいくらでも夜更かしさせてくれたじゃーん」


 それを出されると弱い。

 理由は簡単、彼女の母親から言われて注意しているだけで、昔はむしろ俺が夜更かしを推進していたから。


 こちらを上目がちに見上げ、バタバタ〜とこちらを急かすように足をばたつかせている玲奈。


 高校生に夜更かしは良くない、良くないが。

 自分も高校生の時はよく夜更かししたものだし…と、彼女を小さい頃から見てきた故の甘さが出てしまい。


「じゃあ、30分だけだ」

  結局自分のそれに負けてしまった。

 ぼふっとソファーに腰を下ろす。


「いえーい!」


 ぴょんぴょん跳ねながら、普段俺がやっている格闘ゲームをセットする玲奈。


「ゾンビゲームじゃなくていいのか?」

「ゾンビゲームは一人でやるからいいの。あとさっきたっぷりやったから」

「そうかい」

「うん」


「おっと」

 ポーーン、と投げられたコントローラーを受け取る。

 昔に比べて反射神経が格段に落ちているのか、お手玉してしまった。悲しい。


 もふっ、と俺の隣に座りってローディングを今か今かと待つようにゆらゆら体を揺らしている。

 全く持って仕草は小学生のようだが、大きくなったなぁとなかなかオヤジ臭いことを思ってしまう。


 小学生の時は自分の腰くらいしかなかったものだが、多分今は顎くらいまであるのだろうか。


 胸の成長についてはどう考えてもセクハラになりそうなのでやめておこう。

 心の中で彼女の母親に謝りを入れながら、俺も玲奈の渡してきたコントローラーを握ったのだった。


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