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ひとりぼっちの百物語  作者: 夏野篠虫
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老若男女の遊び

 入社すぐに郊外勤務を言い渡された。

 そもそも就職先自体、地元から遠く離れた所だったのに、そこからさらに距離を伸ばした支社で働くのは輪をかけて心寂しくなる。


 大学時代も実家暮らしだったから一人暮らしにも慣れない中、友人達とも離れ最初の一週間で早くもホームシック気味で微熱になった。まぁ仕事は休めないんだけど。



 体感で長かった研修期間3ヶ月を心身ボロボロで乗り越えた。週明けの今日からは一人で実習、もとい外回りを担当することになった。しかも数件の新規営業先周りも組み込まれている。

 信号で停車する度唇の隙間からはため息が漏れ出す。もはや微熱は平熱になった今、朝から頭がぼんやりするのは珍しくない。余分に集中して運転するから肩と足腰も重くなる。


 悪習としか思えない朝礼を終えたらノートパソコンと資料を詰め込んだカバンを引っさげ駐車場へ。

 社用車に乗り込んで、傷だらけのスケジュール帳を開き今日の予定順路を念入りに確認する。


……いきなり新規営業先があって、その文字を見る度に喉が渇く。その1件を回ったら研修で何度か先輩と行ったお得意様を2件挨拶回り、昼休憩を挟んで、もう1件新規、馴染みが1件、最後に新規1件で帰社、となっている。


 スケジュール帳をそっとカバンの中に入れた。



 時間には余裕があるから、安全運転で新規まで車を発進させた。





 初めて通る道をナビの案内に従って、標識に注意しながら運転する。


 通勤通学の時間をとうに過ぎた住宅街は、買い物へ行く主婦や犬と散歩する老人くらいしかいない。


 全く面識のない他人だが、外と隔絶された運転席から見ていると、自分以外の全ての人が平和で苦労のない生活をしているように見えてしまう。本当はそんなことないとわかっているが。



 変に感傷的になっていると、小さな公園の脇に差し掛かった。交差点で一時停止したら何台か自転車が少し間隔を開けながら前を通って行った。

 待ち時間に公園を見て懐かしみを感じようとしたら、背の低い、恐らく幼稚園児くらいの子供8人が4人ずつ手を繋いで向かい合ってキャイキャイ騒いでいた。たぶん花いちもんめをしているんだろう。今の子もやるんだなぁと思っていたのとは違う形で懐かしさと親しみに触れた。


 そんなことをしていると自転車は全ていなくなっていて後続車が迫ってきていたので、急いで走り出した。





――新規は予想以上の好感触だった。

一応、予め準備をしていた文言や所作が功を奏したのかわからないが1日の始めが後悔に塗れなくてよかった。


 次2つはお得意様だから大して気負いする必要は無い。

 会社の駐車場の時よりも軽くなった肩を回して、ハンドルを握った。





――挨拶回りは無事に終わった。それぞれものの数分でやることが終わり、あとは向こうの担当さんと世間話で交流を深めた。いくつか商品への要望は受けたのでそれだけ報告を後でまとめなければならない。


 一息ついて時計を見ればちょうど正午だった。少し考えて、俺は次の新規に行きやすい場所でご飯を食べることにした。



 さっきの道を戻って、同じ小さな公園まで来た。また交差点で一時停止した。これも同じく自転車屋歩行者が通り過ぎるのを待つ僅かな間公園に目をやると、今度はさっきの子供達はいなくなり、大学生くらいの歳の男女が、しかし同じように花いちもんめをしていた。

 子供がしているのすら珍しいのに、20歳前後が昔遊びとは、学生の流行りはよく分からない。


 ついこないだまで俺も学生だったのに、自身の加齢を意識してちょっとだけ悲しくなった。



 腹の音がして食欲が湧き上がった。左右をしっかり確認して、少し急ぎめにアクセルを踏んだ。





――定食屋で腹も満たして、新規2件と馴染みに向かった。






――午後1件目の新規はまあまあない手応えだった。まだ他者との比較をしていないとの事でとりあえず名刺交換とカタログは受け取って貰えた。終始笑顔で対応してくれて快かった。

 次の馴染みは、普通に終わった。午前と同じで挨拶、商品への要望、雑談の流れで終えれた。


 問題は最後の新規だ。

……全く、取り付く島もなかった。今日1日の他の実績があったから勇気を出して自分の中では攻めたつもりだったが、サラッとあしらわれてしまった。


 車に戻って今日一のため息を吐き出した。



 でも仕方ない。新規3件回って、2件が良いなら充分だろう。



 気分を切り替えて、自社に向けて運転を始めた。





――日も落ちて、今日3度目のあの公園に通りかかった。

 恒例の交差点で一時停止。


 白熱の灯りが3つしかない園内は昼間と打って変わって、寂しく妖しい空気に満ちていた。


 その中心には朝の子供も昼間の大学生もいない。集まっていたのは、立っているのもやっとじゃないかというぐらいの老人が8人で花いちもんめをしていた。


 何なんだ、この公園で花いちもんめをやるのがなにか意味があるのだろうか?



 気になった俺は車を公園沿いに止めて降りたそして公園の敷地に入って老人達に近づいた。


 でもどれだけ近づいても声が聞こえない。普通動きながら歌を歌うのが花いちもんめの遊び方だが……老人達は完全に口パクになっていた。



 3mもないほど近くまで来た。

 老人達はひたすら手を繋いで前後に動くだけで、人の行き来はしていない。花いちもんめに似てるだけで違う遊びかもしれない。

 にしても、夜に老人が集まって公園で昔遊びをしている光景は、どこか遠い過去と現在が混じったような不可思議な世界に迷い込んだ感じがする。



 俺は数歩歩くと、思わず手を伸ばして老人の1人に触れてしまった。



 ぴたっと、電源を切ったみたいに全員の動きが止まった。


「え、」


 次の瞬間、俺は地面に体操座りをしていた。



 そして俺の周りをぐるり囲んで今日見てきた子供、大学生、老人達が手を繋いでいた。



「かーごめかごめ♪かーごのなーかのトーリーハー♪」


 彼らは一斉に歌い出した。



 人の輪の回転はどんどん早くなっていく。



「「「――うしろの正面だぁーれ?」」」


 息を合わせて回転が停止した。



 いきなり始まったが遊びのルールは知っている。

 しかし……彼らが誰かまるで分からない。



「あ……え、っと……」


 しどろもどろなっているうちに、彼らの身体が動いた。



「かーごめかごめ♪かーごのなーかのトーリーハー♪」


 ぐるぐるぐるぐる、見ず知らずの老若男女に取り囲まれる。



「「「――うしろの正面だぁーれ?」」」



「い、いや、だから……」

 会話の通じない相手に戸惑うしか出来ない。



「かーごめかごめ♪かーごのなーかのトーリーハー……」





 俺は気づいた。



 何度やっても誰かを当てられる訳もなく、俺は永遠に「籠の中の鳥」になってしまったんだと。





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